米国の科学技術諮問委員会(大統領の諮問機関)は、新型インフルエンザA型(H1N1)による死者が、米国内で9万人に達するおそれがあると発表した。
記事は次のとおり。
米国で新型インフル死者9万人の恐れ、政府報告
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2633921/4492690
2009年8月25日【AFPBB News】
【8月25日 AFP】米大統領の諮問機関である科学技術諮問委員会(President's Council of Advisors on Science and Technology、PCAST)は24日、新型インフルエンザA型(H1N1)による米国での死者が9万人に達する恐れがあるとした報告書を発表した。
報告書によると、今秋から冬にかけて米国で新型インフルエンザが再流行し、全人口の30-50%が感染、20-40%(6000万-1億2000万人)が発症、このうち半数以上が医療機関で治療を受ける見通しだという。さらに、180万人が入院し、このうち30万人が重症化し集中治療室での治療を必要とする恐れがあると警告している。また、新型インフルによる死者数を、子どもや若者を中心とする3万人から最大で9万人と見積もっている。
特に、妊娠中の女性、神経疾患、呼吸障害、糖尿病などの既往症を持つ人や過度の肥満体質の人は重症化のリスクが高いとして、注意を呼び掛けている。また、アメリカ先住民も、感染リスクが高いという。再流行の次期は、米国の学校が新学期を迎える9月に始まり、10月半ばにピークを迎えると予測している。
しかし、新型インフルエンザ用のワクチンが入手可能となるのは10月中ごろで、しかも免疫効果が出るまで摂取から数週間を要するため、ワクチン接種のタイミングに疑問を投げかけている。
(記事ここまで)
米国全体で9万人と聞くと「大変な被害」と感じるが、人口が半分以下の日本で1998―99シーズンにインフルエンザ(季節性)で亡くなった人が3万人以上と推定されていることと比較すると、桁違いの脅威ではない。
ただし、今回の新型インフルエンザは、ウイルスそのものによる肺炎が重症化につながっていると思われること、重症化する人の年齢が通常のインフルエンザより若い人が多いこと、ワクチンが流行前に行き渡らない可能性が高いことなどが、毎年の季節性インフルエンザとは異なっている。それと、季節性インフルエンザとは全く異なる時期に流行が始まっていることも。
今回の新型インフルエンザで重症化して入院する人の報道を見ると、「発熱後に肺炎症状が強くなって入院し、人工呼吸器を装着しているが容態は安定している」というものが多く見られる。この場合の「容態は安定している」というのは、「安心していい状態」という意味なのかどうかわからないが、人工呼吸器管理ができれば、全身状態はそれほど悪くしないのかもしれない。
また、インフルエンザ脳症になった小児の報道もあるが、通常のインフルエンザで脳症になると死亡率が高い(治療が不適切な場合25〜30%といわれる)のに対して、今回の新型インフルエンザでは、インフルエンザ脳症から死亡したという報道は、日本では今のところない。ただし、インフルエンザ脳症による死亡は、流行が大きかった98―99シーズンでも100名前後と見られているので、流行が拡大すれば出てくるかもしれない。
重症化し入院する人の割合は、小児が圧倒的に多い。これを素直に見れば「子供が重症化しやすいタイプのウイルス」と結論づけたくなるが、子供の入院に対する閾値が低くなっていることも関係しているかもしれない。重症化する懸念がある状態で家に帰ってもらうよりは、重症化した時に速やかに対応できるように、短期入院してもらう。その方が親も医師も安心できるし、訴訟になる不安も少ない。
国内4人目の「新型インフルエンザによると思われる死亡者」が名古屋から報告されたが、この方は70代。報道では「持病はないが、体力は弱まっていた」(産経新聞)と微妙な表現がされている。そのままで近く命が終わりそうなほど弱っていたのか、年齢相応の弱り方なのか。
小児と高齢者の中間の年齢層でも、重症化して入院している例は何件も報告されている。人工呼吸器を装着されているという報道も複数見た。その後がどうなったのか気になっているのだが、亡くなっていないならもう退院している頃だろうと思うのに、無事退院したという報道をまだ見ない。私が見逃しているだけかもしれないが、結構気にしている人は多いので、退院したらそのことも報道してほしい。人の不幸だけがニュースではない。
ワクチンは、報道を見る限りでは見通しが暗い。「打っておいた方がいい」と思われる人数に対して、国内で供給できるワクチンの数が3分の1にも満たないようだし、打てるようになるのもあと2カ月くらいはかかるようだ。そう簡単に増産できないことはわかるが、この程度の対策で、もし今回よりも死亡率が圧倒的に高いウイルスが最初に流行していたらどうなるかと考えると、ぞっとする。
今後流行が本格的になってきた時には、小児科の入院もかなり制限せざるを得ないだろう。また、肺炎が重症化した時に必要な人工呼吸器の不足も、問題になってくるかもしれない。以前から何度も書いているように、日本の医療は1980年代から一貫して絞り込まれてきており、設備面でも人の面でも非常時に対応できるだけの余力はほとんどない。今からではどうしようもないことではあるが。
冒頭に戻って、今回の新型インフルエンザによって米国で9万人の死亡者が出るおそれというのは、全く誇張ではない。たとえば日本で3000万人の人が感染し、致死率が懸念されているように0.5%だったとしたら、単純に掛けあわせて15万人が死亡することになる。今回の新型に限らず、インフルエンザというのはそういう病気なのだという認識を持って、個人個人が行動することが必要なのではないかと思う。