最近報道された「がん治療の新しい方法」の中から3つを、続けてup。一つ目はだいぶ前の記事になるが、東大がウイルスを使って悪性脳腫瘍を叩く「ウイルス療法」の臨床研究を開始すると発表したニュース。
記事は次のとおり。
「ウイルス療法」東大が臨床研究 がん治療に新たな選択肢
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090823-00000009-fsi-bus_all
8月24日8時15分配信 フジサンケイ ビジネスアイ
 (写真:フジサンケイビジネスアイ) |
悪性脳腫瘍(しゅよう)の患者に対し、がん細胞にヘルペスウイルスを感染させ、ウイルスが増殖してがん細胞を死滅させる「ウイルス療法」を臨床研究として始めると、東京大の藤堂具紀特任教授らが発表した。
放射線治療や抗がん剤による化学療法と並び、新たな治療の選択肢になるのではないかとしている。
対象は悪性脳腫瘍の一種で悪性の膠芽(こうが)腫(グリオブラストーマ)を再発した患者。
藤堂特任教授らは、口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルス1型を利用。3遺伝子を改変し、がん細胞だけで増殖するようにした。このウイルスをがん細胞に感染させると増殖して感染したがん細胞を死滅させ、増殖したウイルスはさらに周囲のがん細胞に感染、次々と死滅させる。正常細胞に感染しても増殖しない。
臨床研究では、腫瘍内にウイルスを投与。用量を変えて21例に実施し、安全性などを評価する。
膠芽腫は、脳腫瘍の約4分の1を占める神経膠腫(グリオーマ)のうち最も悪性とされ、年間10万人に1人の割合で発症。手術後、放射線治療と化学療法をしても平均余命は診断から1年程度で、特に再発した場合は有効な治療法はなかった。
ウイルス療法は、がん細胞がウイルスに感染しやすく、感染するとウイルスがよく増える性質を利用した方法。
藤堂特任教授は「膠芽腫だけでなく、ほかのいろいろな固形がんにも有効と考えられる」と話している。
(記事ここまで)
臨床研究の対象となる「膠芽腫」は、かかってしまうとほとんど治すことができないとされてきた病気だ。できるだけのことはするが、最終的にこの病気で命が終わることは、ほぼ避けられないと考えられてきた。今回の「ウイルス療法」がどれくらいの効果を発揮するかは未知数だが、期待した効果を発揮してほしいと思う。
興味を持つ点はいくつかあって、まずは「本当に正常細胞に感染しないのか」(あるいは正常細胞に悪影響を及ぼさないのか)という部分が、少し不安。単純ヘルペスウイルス1型というのは、一般的には「口唇ヘルペス」といわれる。風邪を引いた時などに、口のまわりなどにポツリとできるのがこれだ。
帯状疱疹などもそうだが、ヘルペスウイルス科のウイルスは、一度感染した後に神経節に潜伏感染し、何かのきっかけで活動を再開する。もし今回のウイルスが正常細胞への悪影響もある程度あり、病気が落ち着いていても不意に活動を再開するものであれば、少し厄介かもしれないと思ったりする。その時は抗ウイルス薬で抑えるという方法が使えるだろうとは思うが。
いつ活動を再開するかもコントロールできて、しかもそのきっかけが「膠芽腫があれば活動を再開する」ような仕組みにできれば、うまくすれば「いつでも腫瘍を適度に抑える免疫のようなウイルス」になるかもしれない。でもそこまでウイルスを飼い慣らすのは、まだ先の話でしょうね。
別の興味としては、このウイルスが感染した膠芽腫の細胞は、どのようにしてやっつけられるのかも知りたい。アポトーシス(自滅)に導かれるのか、リンパ球によって破壊されるのか、その他の道をたどるのか。リンパ球がやっつけるというパターンであれば、このウイルスをマーカーとしてリンパ球に攻撃させるという「免疫療法」と併用すれば、より効果が上がるのではないかと思ったりする。
もう一つの疑問として、ヘルペスウイルス科だから完全には排除されないのかもしれないが、このウイルスに対する抗体が完成してしまったら、それ以後は効かなくなってしまうということはないのだろうか。
とまあ、いろいろな疑問は浮かんでくるが、これまで何をやっても無力感ばかりが残ってしまうことが多かった膠芽腫に対して、戦える有力な手段が出てくるかもしれないという大きな希望になる。藤堂具紀特任教授はヘルペスウイルスの研究で15年近い実績を持っている方だから、私の心配の多くは杞憂だろう。「良い結果」が生まれることを期待する。