日本医師会の藤原淳常任理事が、中医協の小委員会で「病院の勤務医は本当に逃げ出すほど忙しいのか?」と発言したらしい。今そのような発言をすることは、日本医師会にとっても影響が大きいだろうに。
記事は次のとおり。
「病院勤務医、本当に逃げ出すほど忙しい?」−日医・藤原常任理事
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090805-00000008-cbn-soci
8月5日19時54分配信【医療介護CBニュース】
日本医師会の藤原淳常任理事は8月5日、委員として出席した中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬基本問題小委員会(委員長=遠藤久夫・学習院大教授)で、「病院の勤務医師が本当に逃げ出すほど忙しくなっているのか」と発言した。これに対し、全日本病院協会の西澤寛俊会長は、「実際の現場を見て発言してほしい」と不快感をあらわにした。
基本小委では、病院勤務医支援が実際に勤務医の負担軽減につながったかなど、前回の改定後に検討を継続することになっていた項目の審議状況を厚生労働省が報告した。
藤原委員は、中医協の検証部会が昨年度に実施した調査で明らかになった、医師1人が1日に診る外来診察患者数が平均28.0人(医師責任者は32.6人)、担当入院患者数が10.9人、1か月当たり当直回数が2.78回(同1.61回)などのデータを挙げ、「ここだけの状況を見てみると、病院の勤務医師が本当に逃げ出すほど忙しくなっているのかどうか。多少疑問を感じる」と述べた。
また、「開業医が今、激減している状況がある」と述べ、それが「地域医療全体の疲弊にもつながる」と指摘。中医協で対策を話し合う必要があるとの認識を示した。
これに対し西澤委員は、「『勤務医が果たして、いわれるように大変なのか』という発言。これに関しては認識を改めてもらいたい」「疑いがあるなら、実際の病院を紹介する」と述べ、現場を見て発言するよう求めた。
藤原委員は「データが出たから、それに対してコメントしただけ」「勤務医に対してわたしは理解しているつもりなので、誤解のないように。開業医の立場から言っているのではない」などと釈明した。
(記事ここまで)
日本医師会も、自民党同様に劣化が激しいようだ。こういう人たちを中心に日本の医療が組み立てられてきたわけではないと信じたい。
たしかに、病院勤務医の全員が、逃げ出したいほど忙しいわけではないだろう。「こんなに楽ちんな仕事、やめられるかい」という病院勤務医だって、多分いると思う。そういう人は、記事の中にある平均よりも、少なく働いている人たちだろう。逆に平均以上働いている人も、もちろんいる。
日本医師会は、開業医の「平均」収入が多いといわれた時に、一部のたくさんもらっている人が平均を引き上げているのであって、大部分の開業医の収入は経営リスクなどを考えれば高くないと言ったのではなかったか。
http://www.yakuji.co.jp/entry4675.html
「平均」は意味を持たないと自分で言っておいて、病院勤務医の労働状況については平均で論じるのはフェアではない。「平均」がそれほど忙しそうには見えない数字だったからといって、病院勤務医が逃げ出したくなる状況には置かれていないことには、全くならない。
また、日本の医療構造は「開業の医師で対応することが難しい状況の人が病院を受診する」ことが増えてきているため、何人の患者さんを診ているかという数字だけの比較は意味を持たない。どちらが楽かという問題ではないが、仕事の中身が違うものをうわべの数字だけで比較することには意味がない。
「全員を平均に働かせればいいじゃないか」という意見もあるかもしれない。しかし病院で働く医師はほとんどが専門職だから、仕事を融通し合って平均的に働くということが難しい。融通し合うためには、それぞれの医師がいくつかの専門分野に精通し、何足ものわらじを履かなければならなくなる。
以前の病院で私も、忙しいから人を増やしてほしいと願い出たが、一人でやっていた仕事を二人でやるほどには仕事がないだろうというのが病院側の意見だった。患者さんの数にも波があり、楽に働ける時もあれば、「このままでは死んでしまう」と思いながら働く時もあった。死んでしまわないように、私は職場を変えた。
今は民間病院で主に働いているが、以前よりはかなり人間らしい生活ができるようになった。それでも仕事は結構しているような気がする。どの病院でも「せめて労働基準法に近づけよう」と言うことが許されるような状況になった方がいいと思う。現在は、病院勤務医の「平均」労働時間が過労死水準を満たしているような惨状である。
話は戻って、今回のような発言をするようでは、「日本医師会は病院勤務医の敵だ」と判断せざるを得ず、「病院の医療崩壊を防ごう」という世論が盛り上がりつつある時期のこの発言は結局「日本医師会は国民の敵だ」ということになるのではないか。
ここまで不細工な政治を積み上げ続けてきていながら「責任力」などと言っている自民党と合わせて、国を動かす立場から退場してもらっていいのではないかと思う。