2009年7月21日午後1時からの衆議院本会議で、衆議院が解散された。総選挙は8月18日公示、8月30日投票。これから40日間の選挙戦に入るわけだが、これほど国民不在のふざけた政治を繰り返した末の解散が、これまであっただろうか。
記事は次のとおり。
衆議院 本会議で解散 8月30日投開票へ
7月21日13時16分配信 毎日新聞
衆院は21日午後1時からの本会議で解散された。05年9月の「郵政選挙」以来4年ぶりとなる第45回衆院選(定数480=小選挙区300、比例代表180)は「8月18日公示−30日投票」の日程で行われる。オバマ米大統領の誕生など世界の政治潮流が大きく変化する中、自民、公明両党が10年間に及んだ連立政権を維持できるか、民主党を中心とする政権が誕生するかが最大の焦点となる。「政権交代」を目指す高揚感に包まれる民主党に対し、自民党は麻生太郎首相が両院議員懇談会でおわびと反省を表明する混迷の中で解散を迎えた。
麻生首相は21日午前の閣議で、憲法7条(内閣の助言と承認による天皇の国事行為)に基づく衆院解散を決定。閣議の冒頭、「未来に向かって安心と活力ある社会を責任をもって実現しなければならない。それには国民のさらなる理解と協力が必要だ。解散を断行して国民の信を問うことにした」と語った。
閣議書に署名するか明言していなかった与謝野馨財務・金融担当相を含む全閣僚が署名した。与謝野氏は記者会見で「スタート時点においては混乱がないようにしなければならない」と語った。
この後、首相は公明党の太田昭宏代表と会談。午後の衆院本会議で河野洋平議長が解散詔書を読み上げ、衆院は解散された。政府は解散後の臨時閣議で衆院選日程を決定する。【高塚保】
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午前11時半から開かれた自民党の両院議員「懇談会」では、先週末までの「麻生おろし」の勢いはどこへやら、麻生総裁を中心として挙党一致で選挙に臨むという雰囲気だった。この変わり身の早さを見て、各候補の「保身」の結果ではないかと私は感じたが、「やっぱり最後は自民党だよな」と思った国民も、それなりにいるのだろう。
衆議院本会議で解散が宣言されると、与党野党を問わず画面に映っている衆議院議員のほぼ全員が「バンザーイ」と両手を挙げていた。野党にとっては願ってもないタイミングでの解散かもしれないが、与党も笑顔でバンザイしている。これからの選挙戦で、自民党は強烈な巻き返しをしてくるだろう。
前回の総選挙では、国民は小泉純一郎氏に「だまされた」と、私は思っている。当時のマニフェストや自民党のパンフレットには、郵政民営化が実現すれば、年金も、医療などの社会保障も、格段に良くなると書いてあった。その後の自民党が強行採決まで使って決定したのが「医療制度改革」や「骨太」などの「国民を苦しませる」施策の数々であったことは、もう一度確認しておきたい。
米国も、バブル崩壊後の自民党政権も、市場原理主義で見かけの経済が拡大すれば税収も増えて国が潤うと言い続けて、「自由化」「民営化」「規制緩和」などのキャッチフレーズを正当化し続けた。その結果、金持ちはますます金持ちになったが、税収の伸びは微々たるものだった。そりゃそうだ。経済を牛耳っている人たちが「税収が伸びる」って言ったのは、政治家を操るための方便だもの。
市場原理主義によって約束されていたはずの「国民の幸せ」は、米国でも日本でも蜃気楼のようなものだった。おこぼれで潤った「国民」は多少いたとしても、全体の幸せは大きく減少した。リーマンショックから続く市場原理主義の大崩壊は、多くの犠牲を出しながら今も続いており、今後も当分の間は人々の心を荒ませ続けるだろう。
話はそれるが、「FXなら大儲け」などと騒いでいる人たちは、同じ轍を踏んでいるとしか見えない。もう少しすれば自己破産の山ができて、さらに人心を荒廃させるだろう。従業員や建物を持て余している証券会社が、金集めのために笛を吹いているだけだ。彼らは出資者が損をしようと関係ない。手数料が入ればそれでいいと思っている。大損すればレバレッジを上げすぎた出資者の自己責任だと言われるだけだ。気をつけろ。
さて、麻生首相は解散後の記者会見で、「私が至らなかったため、政治に対する信頼を損なわせた。深く反省している」「景気回復を実現するまで、総理・総裁を投げ出さない。日本経済を必ず回復させる」などと発言。「経済回復、この一点にかけてきた私にとりましては、確かな景気回復を実現するまでは、総理総裁の任務を投げ出すわけにはまいりません」とも述べている。
麻生内閣の経済対策がそれなりにうまく行っているように見えるのは、麻生太郎氏の手柄とはとてもいえない。麻生氏の繰り出す経済対策は、かなりの部分が「バラまき」であり、解散の決定同様に経済対策のタイミングもことごとくツボを外していて、決して上手く対策を進めてきたわけではない。
むしろ「世界で最も傷が軽い」はずだった日本が今のような状況になっているのは、麻生内閣の現状認識の甘さや、後手後手に回る手際の悪さによるものではないかと思っている。日本が今ぐらいで踏みとどまっているのは、市場原理主義でずいぶん体力は吸い取られたものの、国民に底力がそれなりに残っていたからではないいかと思う。
民主党が政権を取っても、民主党が主張しているようにはうまく行かないだろう。財源として「各省庁の無駄を掘り返す」といっても、安倍政権の時にそうだったように官僚がなりふり構わぬ抵抗をしたら、にわか閣僚の手には負えないかもしれない。民主党はその時に「この官僚の抵抗こそが、日本を腐らせた元凶だ」と言う勇気があるだろうか。脛に傷持つ身のように国民から見られている代表が総理大臣になって、返り血を浴びないか心配だ。
日本は成長する時期はとっくに過ぎて、円熟の期間も終わり、衰退する時期に入っている。衰退に入る原因が全て政治だとは、全く思わない。しかし国民は「生活が悪いのは、政治のせい」と、単純に考える。成長する時期にはうまく行っていた「利権」などの構造は、衰退の時期には逆に国の衰弱を進ませることに、国民全体が気付かなければならない。
「今まで自民党には世話になったから、色々言われているけど反省もしているようだし、今回もやっぱり自民党に入れるか」と8月下旬に思っている人が増えるようにするのが、自民党の作戦だろう。そのスタートとしては、21日の「両院議員懇談会」は良くできていた。でも「麻生太郎氏を中心に」一致団結した自民党が、これまでの国の腐った部分を取り除けるとは思えない。「自民党に世話になった」人は、これからの時代は「自民党に世話になる」こと自体の是非を、自らに問うべきではないかと思う。それはそのまま「政官の癒着」があるということなのだから。
各党の出方を見ると、自民党はそれなりに作戦に乗り始めている。民主党も、キャッチフレーズは陳腐だし政策案には穴も多いが、追い風を活かそうと作戦を練っていそうだ。ここまでで一番出足が早い「幸福実現党」は宗教なので除外。もう一つの巨大な宗教与党は、作戦がうまいというか、与党であることでうまい汁を吸いすぎだと思う。その他の小規模政党は、力を出すには小さすぎる。いいこと言っていても、民主主義では力が出せない。
40日の選挙戦、各政党は国民を「煽動」するための、さまざまな作戦を展開してくるだろう。40日の間の時間配分も、それなりの世論の勢いを得ながら、最後に強い追い風が吹くような展開を、各党とも狙ってくるだろう。投票する側としては、それらの「作戦」にただ乗せられてしまうのではなく、表には出てこない「本当にこれから数年の日本を任せるのに一番相応しい政党はどこか」を見極める目が必要になる。そのような政党があるのかどうか、今のところ私の目には見えていない。