ねむいねむい僕の代わりに月光のえのころぐさを見張ってほしい 吉川宏志
超ねむそう。初句3・3のうねりが眠りに引きずり込むようだ。でも眠っている場合ではない。あの「月光のえのころぐさを見張」らなくては。それもあまりにねむくてかなわない。誰か「僕の代わりに」。「見張って」いないと「月光のえのころぐさ」に何が起きるというのだろう。歩き出すとか? それよりも何かとんでもないことでも起きるのだろうか。鑑賞者は主体が感じているのはそういう具体的な奇蹟や危機ではないと思う。「月光のえのころぐさを見張ってほしい」自体が、半分眠りに引きずり込まれているというか、半覚醒時の思考と夢が混濁しているときの意識そのものというか。そこから覚醒に転じると、俺今何考えてたんだと笑ってしまうような。ああいうときに考えるへんてこな切実さはなんなのだろう。
(吉川宏志『夜光』砂子屋書房、2000年)

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