2020/5/19
熱さえも
君じゃなく叫ぶことなどない僕が泥の中からマイクを拾う
あんまり丸くて白いから そりゃ耳に当ててるんだもん耳当てだよね あんまんじゃなく
負ける気がしない僕らとふる雪とそれぞれのマフラーの巻き方
くちびるに思い上がりを 下りてゆくエレベーターからみる雪が好き
三月のつめたい光 つめたいね 牛乳パックにストローをさす
真夜中のバドミントンが 月が暗いせいではないね つづかないのは
ふきだまる花びらかるく蹴りあげて君のてきとうここに極まる
牛乳が逆からあいていて笑う ふつうの女のコをふつうに好きだ
振り向いたけれども猫はいなかったけれども君がみたならいいや
音が 風が 水が 流れていく水が やさしいひとに生まれたかった
バス停の屋根から草がはえていた バス停からははえてなかった
かろうじてボックスステップなら踏めるから夕立のすぐにでも行く
君のかばんはいつでも無意味にちいさすぎ たまにでかすぎ どきどきさせる
どらやきに餅が入っていて君がよろこぶ 餅はいいね 栗もね
覚えてる 水ようかんよりすずしげな君のドロー・フォー返し返しを
ネコかわいいよ まず大きさからしてかわいい っていうか大きさがかわいい
ネコかわいい かわいすぎて町中の犬にテニスボールを配りたくなる
僕のかわりにこれ読んどいて 内容とか感想とか訊かないから そう、読むだけでいい
袖口でみがいたリンゴを渡したら裾でみがいたリンゴをくれた
だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし
*2018年、歌集出版の際、フライヤー掲載のために自選した20首。
当時明言していなかったが、連作として読めるように構成していた。
タイトルをつけて改めて公開。
なお、歌集は引き続き販売中。よろしくです。
http://gendaitanka.jp/book/kashu/033/

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