おれか おれはおまえの存在しない弟だ ルルとパブロンでできた獣だ フラワーしげる
「存在しない」のに存在するみたいな話は哲学的な問いかけになりやすいけど、この歌は「ルルとパブロン」の音の響きもあいまって神話的なにおいがする。ほら、「ルルとパブロン」って、南洋の神話なんかにでてきそうじゃない? 未分化な神と人間と動物、矛盾だらけのファミリーツリーに近親相姦的恋愛、創造と生殖が同義である感じ。(あまりに適当で専門家には怒られてしまうかもしれないが)鑑賞者が思う神話的な要素てんこもりだ。ただ、「ルルとパブロン」は神の名でもそれを模した造語でもなく現実にある風邪薬の商品名である。これは英雄時代の歌ではなく現代の歌だ。現代において英雄的な振る舞いをすることの喜劇的な暴力性と悲劇的な孤立性を感じる。
(フラワーしげる『ビットとデシベル』書肆侃侃房、2015年)

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