いや、君の努力はすべて実らない霧さばしりて隠さるる兵 黒瀬珂瀾
バトルものの少年漫画とかで、絶望的に力量差のある敵と戦っていて、試行錯誤の末ようやくわずかな光明が見えたと思った矢先、実は敵は全然実力の片鱗すらも見せていなかったことが明らかになって、さらに深い絶望をつきつけられる、みたいな歌だなと思った(わかりにくい)。なにか事を成そうと思ったら、状況を把握し、戦略を練り、準備をするという、いわゆる「努力」をするわけだけれど、いざ事に及ぶ段で、それまですべて把握していたと思っていた状況が一変してしまい(突然の霧がたちまちに敵兵を包みこむように)、いままでの「努力」が無に帰してしまうというのは、わりとよくあることだ。「いや、君の努力はすべて実らない」とあらためて言われると絶望的な気分にはなるが、全否定ゆえのやさしさとユーモアをもっていてほのかな明るさがある。むかつくけど。それでも、「努力」は必要なのだ。「努力」が「すべて実らない」地点に立つために。そここそが本当の始点だから。そこから歩き出さなくては行けない。深い霧のどこに兵が潜んでいるか分からなくても。
(黒瀬珂瀾『空庭』本阿弥書店、2009年)

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