カロリーともっともっとすごいカロリーと伝説上の王子と王女 瀬戸夏子
述部がない名詞(および修飾語のついた名詞)が羅列された歌だけど、その羅列のなかに換喩的な運動を読んだ。つまり、AとBとCとしたら、A→B→Cという運動を読む一方、その運動のなか浮上する喩えられるものXと喩えるものA、B、Cそれぞれの関係のもうひとつの運動(X←A)→(X←B)→(X←C)を読んだ。あ、なんでA、B、C、Dじゃなく、A、B、Cで例示したかというと、「王子」「と」「王女」ではなく「王子と王女」でひとつと読んでいるから。この「王子と王女」は、なんとなく兄妹あるいは姉弟に見えたのだけど、違う王国同士のカップルだったら「王女」ではなく「お姫様」という「王子」の童話的対義語を先に思い浮かべてしまうからかもしれない。で、Xはなにかと言われれば、どうしようもない罪みたいなものだと思うんだけど、やはりそう言い切ると逃げていくなにかだ。「なにか」と「カロリー」「もっともっとすごいカロリー」「伝説上の王子と王女」それぞれとの関係からやはり換喩的に引き出される断片的イメージが渦巻く。飽食、過食、石造りの狭い部屋、Lサイズのポテト、嘔吐、秘密、生クリーム、バタークリーム、純血……。イメージの渦巻きまくった果てに、「死ね」という低いつぶやきを聞く気がする。「死ね、おまえも、わたしも」。
(瀬戸夏子「おまえは」/『率』3号、2013年)

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