2012/8/31
ベルトに顔をつけたままエスカレーターをのぼってゆく女の子 またね/永井祐
最近の若い女性の笑い方って、なんかだらしないなと思っていた。「だらしない」といって、ピンと来ない人は女優の長澤まさみの笑い方を思い出してほしい。
擬音にすると「デヘヘへ」。こういう書き出しだと近頃の若いものは云々とつづきそうだけど、僕は、その笑い方、とてもいいな、かわいいなと思っている。「だらしないのにかわいい」でもなく「だらしないからかわいい」でもなく、「だらしなくてかわいい、かわいくてだらしない」。「だらしない」と「かわいい」が並列にあるかんじ。提出歌の女の子も「行儀が悪くて魅力的、魅力的で行儀が悪い」だ。のぼりのエスカレーターに軟体動物のようにしなだれて、手すりのベルトに顔をつけた女の子が乗っている。歌の発語者は、対面するくだりのエスカレーターに乗っているのだろう。その女の子が近づきやがて離れていく。はじめちょっとぎょっとしたけど、なんかいいもん見たなって思う。なんでいいもんなのか説明できないけど、なんかいいのはよく分かる。凛とした美少女みたいな分かりやすくいいわけじゃないからこそ、歌にしたのだろう。その子を肯定する言葉が「またね」なのもいい。このせまい日本で、再び同じ女の子とすれちがうこともあるかもしれないけど、そういう「またね」ではない。だって、そのときはこの女の子は「ベルトに顔をつけたままエスカレーターをのぼってゆく女の子」ではないからね。じゃあ、この「またね」は、ポーズなのかといったらそうじゃなくて、本気であることは間違いない。本気だからこそ、この「またね」は、「今ここ」が「今ここ」以外にないことを、より強く印象づけながら、「今ここ」を開放する。
1千万円あったらみんな友達にくばるその僕のぼろぼろのカーディガン
人のために命をかける準備するぼくはスイカにお金を入れて
このへんの歌の本気と同じだと思う。軽くて本気。本気はつねに重いものだと思ってる人にはなかなか通じなそうな本気。
ほかに、僕が感応できた、好きな歌はこんな歌。
はじめて1コ笑いを取った、アルバイトはじめてちょうど一月目の日
アイデアはただ一度だけ落ちてくる孤独な学級委員の胸に
君と特にしゃべらず歩くそのあたりの草をむしってわたしたくなる
返せないわたしにきっと図書館は向いてない 冬の机のうちわ
暮れも押しせまったある日横浜へ凝ったバーガー食べにいきたい
ほかに、ちょっとおもむきの違うこのへんの若書きであろう歌も好きでした。
狛犬の下に座ろう信長の気持ちがわかる女の人と
体育館の前で弁当広げてる もしもし、もしもし、こっちは夜だ
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