淀川は広いな鴨川とは全然ちがうなほとんど琵琶湖じゃないか 橋爪志保
世の中で一番大事なのはサイズだ。そのものがそのものにふさわしいサイズであるのはとてもうれしい。逆に、そのものが規格外の大きさ、あるいは小ささであることもとてもうれしい。ばかでかいものをみて「でかっ」とか言いたいじゃないですか。踏まえて。いや、踏まえなくてもいいけど、この歌の主体の川のサイズに対してもっている規格は「鴨川」。そして、その規格ではかれない「淀川」に対して「ほとんど琵琶湖じゃないか」という感慨をもつ。川というものはこのくらいのサイズはあり得るよ、という認識をもっていれば出てこない感慨だ。世間知らずゆえの感慨といえるし雑。あまりに雑。でも、この雑さは胸を打つ。無知で大ざっぱな認識がさまざまな偏見や憎しみを生んでいるこのご時世で、世間知らずで雑なことが許されるのか問題があるが、この世間知らずで雑な感じはそういうほうへは絶対に向かわない。根拠はないが、根拠はいらない。
(橋爪志保「地上絵」/「京大短歌」22号、2016年)

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