どうにもいろいろ気忙しくて、合間に何本か映画を観に行っても、その感想をほとんど書けないままになっている。そうした中、諸々の締切が終った今日は、夕方から例の『
新聞記者』を新宿までようやく観に行くことができた。話題作ゆえ、事前に放っておいても周りからいろいろ感想が入ってくるのをなるべく聴かないようにしつつ、なるべく予備知識を持たない状態で劇場まで足を運んだ次第。そんなわけで、どうせ今日も感想をなかなか上手くまとめられずに終わっちゃうかな……と思ったんだけど、とりあえず見た余韻が残っている今のうちに勢いで書いてしまうことにする。
まず、率直に言って凄く面白かった。特にヒロインの社会部記者・吉岡エリカを演じたシム・ウンギョンは本当に素晴らしい。松坂桃李演じる内閣調査室の若きエリート(外務省からの出向)官僚とのダブル主演の一方を担うこの女性については、キャスティング段階で何人かの候補に断られたとかいった話も(聞かないようにしてはいたけど)耳にしていたのだが、観終わってみればどうしてどうして、この人以外にこの役はありえなかったのではないかと思うほどの存在感だった。風采の挙がらない(というのは女性には失礼な表現だけど)、しかしその裏には強い意志と記者としての優れた資質、そして(物語が進行するにつれて明らかになる)少々重たい過去を持つ。そんな彼女の、いかにも不器用ような仕草な言葉の裏側にある内面の揺れ動きを、とても上手く表現してくれたように思う。私も仕事柄、過去に何人か現実の新聞記者の女性たちと知己を得ていろいろ語り合ったりしたことがあるけれど、そうした女性たちが持っていた佇まいというか、そこに滲んでいた内面の葛藤みたいなものもとてもリアルに表現できていたと思う。
内容的にもなかなかスリリングな展開で、キレのある演出やカメラワーク(特に新聞社のオフィス内でのあの手持ちカメラによるたぶん意図的な手ブレまくり画面!)も個人的に楽しめたし、エンターテインメントとして非常によくできていたと思う。ただ、割とこの映画に関してはテーマがテーマ(しかも時節柄の)ということもあってか、どうしても現実の永田町&霞が関、あるいは新聞を中心とするメディアの世界との対比で語られることが多いようなのだが(そこは望月衣塑子さんの原作を踏まえての作品なので当然ではあるのだが)、私自身は「そこは少し差っ引いて、あくまで一つのフィクションとして観たほうがよいのかな」という感想を持った。
というのは、テーマの重さの一方でストーリー自体は非常に(メディアや政治の世界についての知識がそれほどなくても)わかりやすい、ある意味よくあるサスペンス物のストーリーだったからだ。いや、確かにモチーフとしてはレイプ事件のもみ消しや学校法人の認可をめぐる案件など、現実の世界で起こった話題をモチーフにしているために観ていて非常に真に迫ってくるものはある。ただ、この作品で主人公2人が最終的に共に立ち向かうことになる主敵である「内閣情報調査室」、およびその幹部を中心に広がる闇の部分の描写も(無論それが現実には闇の部分であるがゆえに仕方がないところもあろうが)、かなり単純な「悪」にパターン化されており、現実の世界ではむしろこうした「わかりやすい悪」よりも、もっと複雑で捉えどころのない「悪」の存在から様々な問題が進行しているのだろうと私には思えるからだ。
その意味では、作中で起きている事件そのもののリアルさよりも、むしろシム・ウンギョンや松坂、およびその周囲の登場人物たちが目の前の事態、とりわけ愛する人たちの悲痛な死に苦悩し慟哭しながら、状況を打開すべく行動する様子のほうに、私は深く共感するものを覚えた。おそらく現実の官僚の世界、そしてメディアの世界のあちこちでもこうした事態が知られざるうちに展開し、また実際に心を病んだり命を落としていく人たちも少なからずいるのではないか、という気がする。そういった部分からも、分野や環境はだいぶ違うが物書きの世界、それも一応ジャーナリズムに近いところに身を置く私自身にも身につまされたり考えさせられたりする部分が多い映画だったし、たぶんこれからも古びることなく、観る人の胸に様々な思いを惹起させる映画として語り継がれていくのではないか。以上、まずは取り急ぎ、思いつくままツラツラと綴った感想にて失礼m(_ _)m

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