昨日の午後から「白血病」が検索のキーワードで上位に来ていると仕事先でのスマホの画面が盛んに言うので、何だろうと思いながら夜になってニュースを見たら……そういうことでしたか。
ご本人や周囲の方々が、病気を知って受けたショックはいかばかりかとお察します。大変だろうとは思いますが、快癒されることを願っています。
それにしても「白血病」という病が、今でもこれだけ大きく、なおかつ深刻な形で取り上げられるのだなと思う。こうなるとまた誰か関連で変な発言をして叩かれるのだろうなと思ったら政治家が、というのも案の定だったけど、ネット上で飛び交う情報を、個人的には昨夜から何だか複雑な、少し悲しい思いで眺めていた。
私の父は白血病で死んだ。今から45年前、彼が37歳で、息子の私が9歳の時だ。もっとも、それがどんな病で、どのような闘病生活を送った末に彼がその若さで世を去ったのか、私自身は実は今でもよく知らない。
何しろ既に半世紀近く前のことだ。当時はまだ事前にそうした病名を告知するということも一般的ではなかったようで、死因となったその病名を私が知ったのも父が死んだ後のことだった。秋頃から体調がよくない様子で、12月の初旬に会社を初めて休んで床に伏し、「お父さん入院するからね。クリスマスぐらいには戻ってくると思うよ」というようなことを母に言われて待っていたら、元旦の夕刻に入院先の病院で世を去った。当然、死ぬなどとまったく思っていなかったから、死に目にも会えていない。年末から見舞いに通い、病院で年を越した母にしても本当の病名を知らされたのは死の数日前の年末ぎりぎりだったようだ。元旦の夜に子供たちにそれを伝えるため、蒼白の表情で帰宅した母を玄関で出迎えた時のことは今でもよく覚えている。
母は夫の今際の際がどんな様子だったのかを私を含めた子供たちには語らなかった。というか、今でも聞いていない。何かそれは、聞いてはいけないことなのだという思いを子供心に覚えたのだ。その後、臨終に立ち会ったという親戚の方を通じて間接的にというか断片的に聞かされたことはあったが、それを聞いたらますます母に訊ねる気にならなくなったまま、今日に至っている。
「白血病」。それはほとんど抗いようのない理由で、母や、まだ幼かった私たち兄弟妹から問答無用に忽然と父親を連れ去っていった病の名として、その時に初めて「そういう病気があるのだ」として聞かされ、私の脳裏にその後も絶えず深く長く刻まれることになった。
そしてその息子である私も、たぶんいつか、父と同じくらいの齢になった私の身にもそれが命を奪いにやってくるんだろうな……と、それからずっと心の奥底で思うようになった。ところがいざ自分がその年齢に届く頃には医療の発達により、白血病は「もう『不治の病』ではないんだよ」と聞かされるようになっていた。
38歳の誕生日は何事もなく過ぎた。「俺は親父より長生きしてしまったんだな……」とぼんやり考えた。そして……バカな話なんだけど、初めてその頃から「もしかしたら長生きしちゃうのかもしれないな」と、自分の”老後”というものについてまともに考えてみるようになった。
と言いつつ、まともな健康診断にはサラリーマン生活から足を洗って以来、もう20年以上行っていない。既に50代も半ばに差し掛かり正直「行った途端に何か悪いものが見つかるんじゃないかなあ」と恐れているところもある。周囲を見渡せばガンだ脳梗塞だ糖尿病だといった病名を身近なところからでも日常的に聞くようになってきたし。しかしそれが不思議なことに……何時の間にかそうした私の中の要注意病名リストから、父の死因である「白血病」はまったく消え去っていた。そこに今回のネットを通じて流れてくる大量の情報だ。
相変わらず「白血病」ってそういう大騒ぎになる病気なんだと、何だか力の抜けるような思いでネットの画面を眺めた……って、今回Twitter上で病名を公表したご本人にもし読まれたら(多分大丈夫だと思うけど)そして心証を害されるようなことがあったらごめんなさい。だからこれ以上は黙ります。だからせめて、ネット上でこの件について言及される方々もなるべく冷静にお願いしたいと思う。これ以上は上手く言えなくて、申し訳ないけど。

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