開業が既に1か月ちょっとになったのだけど、この時点でも東京の都心の駅で北海道新幹線の開業告知のポスター類を見ることは少ない。
上の写真にしても新宿駅の東京メトロ(地下鉄)構内に貼られていたのを撮ったもの。私は都心でJRもよく利用するけど、それにしても「ついに新幹線が北海道まで到達する」という割に、中央線や山手線の駅でもそれらしき案内はあまり見かけない。
昨年のちょうど今頃は北陸新幹線が長野から金沢まで延伸開業するってことでツアーやら記念イベントやらで都心の駅でも結構PRのポスターやらイベントやらが目立っていたような感触が残るだけに、その落差が気になったりもする。
ただ、その「落差」の理由は割と単純かもしれない。というのは、一つは「北海道新幹線」として今回開業する区間(津軽海峡の下の海底トンネル区間を挟んだ、函館と青森の間の約150km)の運営主体はJRとはいえ、首都圏から東北までをエリアとするJR東日本ではなく、別会社の「JR北海道」だからだ。
ここが昨年の北陸新幹線開業のケースとは違うところである。北陸新幹線の場合も、長野から金沢までの新規開業区間の大半は「JR西日本」(本社は大阪)のエリアだが、長野から北の上越妙高までの2駅間はJR東日本の営業区間とされたし、「これで東京から富山や金沢まで2時間半以内で行ける!」ってことで、首都圏から北陸への新たな観光需要の増大を見込んだJR東日本が、自らが抱える首都圏の各駅構内を、いわば自社の「ショールーム」的に活用することでPR展開できた。出版や広告の世界の業界用語でいえば、自社が出すメディアに自社の宣伝を実質的にタダで出せる「自社広告」みたいなものだった。
ところが今回の北海道新幹線の場合はJR北海道が運営主体ゆえ、首都圏の駅の構内にJR北海道が開業告知広告を出そうとしても、おそらく自社広告の扱いにはならない。だから写真にアップしたような広告を、日頃新宿界隈をうろついている私がJRの構内よりも東京メトロの構内で最初に見つけてしまうということも、たぶん起こりうる。そもそもJR各社間の縄張り意識がいかに激しいかなんてことは、首都圏の通勤路線を掌握するJR東日本と、東京から大阪までの新幹線を全部営業区間とするJR東海との仲が凄く悪いと言われることからもわかる(まあ、あれはかつての旧「国鉄本社」と旧「新幹線総局」という国鉄内部にあった2つのエリート集団にそれぞれルーツを持つ会社間のいがみ合いだとも言われているが)。
そんなわけで今回はJR北海道が首都圏において「新幹線開業を機にぜひ北海道へ!」といった形での告知やツアーの営業展開を、東京都心の各駅を舞台に行おうとしても難しい事情があるのかもしれない。
もとより、JR東日本としても「東京から函館まで最短4時間2分で行けるようになりました!」ってことでの期待もそれなりにあるのだろうが、とはいえ青森から函館までの新規開業区間を乗車した客のぶんの収入は全部JR北海道に入る。
北陸新幹線の場合は「これで兼六園に行くお客さんが新たに東京駅発の新幹線に乗ってもらえる!」「東京と富山・金沢を行き来するビジネス利用のお客さんが、たった2時間半しかかからない新幹線にみんな移ってくるぞ!」といった期待値があらかじめ見込めたのだろう(だから開業当初から北陸新幹線には、東北・上越新幹線よりも長い12両編成が投入され、今のところ利用率も順調らしい)。
しかし北海道新幹線の場合は、発表されているダイヤによれば東京から函館まで4時間以上かかる。一方で東京と函館の間には飛行機も飛んでいるが、実は新幹線と空路とが同じ区間で競合するケースでは、この「4時間」というのが大きな分岐点になるらしい。実際、東京から西への利用でいうと、その4時間ぎりぎりの広島との間では今でも新幹線利用のほうが多いそうだが、九州になると対首都圏利用は9割以上が飛行機にシフトするという。
加えて、今回は函館側のターミナル駅が、今の函館駅から18kmも北にある「新函館北斗」という駅になってしまったことの不利も指摘されている。これは将来、新幹線を札幌まで延ばした暁に東京から少しでも速く行けるようにするための立地で、かつては新幹線の「新大阪駅」も「将来は九州方面まで延ばすから」との理由から大阪市街地よりもはるかに北のあの場所に設けられることに至った事情にも通じる。
要は「北海道新幹線」は十数年後に札幌駅まで到達し、東京駅と札幌駅を4〜5時間で結ぶ列車が走るようになった時点で初めて「商品」として完成するのだ。
無論、新幹線で東京駅と札幌駅が4〜5時間で行き来できるようになったからといって利用客の大半は飛行機を選ぶだろうし、現状では飛行機以外に選択肢のない羽田ー新千歳間の空路は国内線では最大級の運行頻度を誇るが、一方で「羽田ー伊丹(関空)」や「羽田ー福岡」といった便の運行本数が相対的に少ないのは、たぶん「そこは新幹線も走っているから」だろう。もし新幹線が東京から札幌まで4〜5時間程度で到達できるようになったら、そのぶんのシェアダウンを見込んだ航空会社が「羽田や新千歳の発着枠をそのぶん減らして、代わりに国内各地行きや収益率の高い国際線に回せたら」との思惑を持ってるんじゃないか……との見方も聞いたことがある。
もちろん、何も私もJRの肩を持とうとしているわけでもないが(^ ^;)、しかし案外「新幹線」ってのは沿線を中心にしたエリア一帯や外との人の流れを一気に変えてしまうところがあるから予断は禁物なところもある。実際、盛岡まで新幹線が開業した翌年に岩手大学に入った私は、卒業するまでの5年間に周りの風景がどんどん変わっていったのを今でも覚えているからな。
加えて、これは首都圏からだと見えないところだろうが、東北と北海道の間には人の行き来がすごくある。首都圏だって、例えば将来新幹線が大宮から3時間で札幌まで行けるようになったとしたら、埼玉県民は北海道出張の際にわざわざ羽田空港まで南下してから行くか? という話になる。だからこの時点で北海道新幹線の是非を問う議論をしても、いろいろかみ合わなくて大変なんじゃないかな、という気はする。

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