当時まだ30歳だった。それまで2社で計6年半を勤めたサラリーマン生活に見切りをつけ、最後に在籍していた会社を辞めたのが1995年の3月31日。
一夜明けて「もうスーツなんか着て毎日朝8時半に会社まで満員電車で通わなくていいんだー!」という解放感に浸りつつ、新宿の家電店に行ってワープロとファックスを買い込み、さっそく知人・友人向けに「フリーランスのライターとして独立しました」との旨の案内状を書いていたのが、20年前の4月1日。それが私にとっての「独立記念日」であり、以来とうとう20年が経過してしまったというのが、今日・2015年4月1日。
思い起こすなら、1995年の今日は阪神・淡路大震災(1月17日)や地下鉄サリン事件(3月20日)が日本社会全体にもたらした衝撃の余韻がまだ残っていた。私自身も前年末から震災発生2日前の1月15日まで勤め先の「大阪本部」(といっても私を含めて社員2人しかいなかった)にいて、たまたま発生直前に会社と喧嘩し「だったらもう辞めます」と申し渡した末に東京に戻り、「辞めるまで残り10日だなあ」と思いながら20日の朝に寝坊して遅刻した普段より遅めの丸ノ内線の車内や駅の構内がただならぬ雰囲気になっていたのもよく覚えている(そのあたりの、私がフリーライターになるまでの経緯については、
だいぶ以前に書いたテキストの中で言及していますので、もし気が向くようでしたらご覧ください)
そんな不気味な余韻が漂っていた日本社会を横目に見ながら、間もなく31歳になろうとしていたその春、私はひっそりとサラリーマンを辞めてフリーライターになった。
それまでのサラリーマン時代の大半は日本のバブル絶頂期。会社勤めの業界誌記者としてあちらこちらに取材に回っていたマスメディアの世界もバブルさまさまウハウハ状態。出版業界でも溢れかえる広告出稿の受け皿となる新雑誌が次から次へとボンボン創刊されていたものだった。
が、一時は「いったいこれっていつまで続くんだ? もしかして永遠にこのまんまなの?」とさえ思えた狂宴も、普通に考えればそんなふうになるはずもなく(当時はみんな普通じゃなかったのだ)、現実にも、今から振り返ればほんの数年で終局を迎え、上にも書いた通り私が会社勤めを卒業(?)する直前になって二つの未曾有の事態に見舞われた日本の社会は、そこから「失われた20年」と呼ばれる黄昏の暗いトンネルに突入し、今なお抜け出せずにいる。いや、今度こそ「これがこの先も20年、30年と続くんじゃないか?」といった気がしてしまうほどに。
俺は「失われた20年」のフリーライターだったんだな……と、やっぱり思う。私自身にしても独立した時点で(まあ、元からこれは覚悟のうえ諦めてしていたけど)経済的に安定した生活や、それをベースにして人並みに結婚したり子供をもうけたりしながら家庭を築く”資格”を失ったとも言えるし、実のところ20年のうちの半分、ここ10年間は仕事も次々に失うような状態だった。
まあ、失うといってもその多くは仕事先の事情でギャラの支払いが滞ったり、あるいは明らかに不実だと思える挙に出たことに対してキレた私のほうから三行半を叩き付けて絶縁するといったケースだったんだけどね f(^_^;。
また、周囲の状況を見渡しても、今やスマホやその他のネットメディアに完全に食われてしまった出版業界は、バブルの頃に生まれた広告受け皿雑誌はもちろん、それどころか戦後の高度成長期に生まれた伝統のある老舗雑誌でも次々に休刊に追い込まれるなど、20〜25年前に業界関係者みんながハイになってたような時期を思えば目もあてられないというか信じられないくらいに壊滅的な状況に追い込まれてしまっている。当然、そうなればネットで自分を活かすスキルもない、私のような旧来型の活字媒体系ライターが食っていける余地は当然のごとく日に日に狭まっていくしかないし、実際にそうなっている。
にも関わらず……まあ、逆に言えばよく20年間生き永らえてこられたよなあ、とも思うわけですが(苦笑)。
相変わらず、先日みたいに「電話が料金未納で止められた」とか20年前とおんなじことをやっているような始末で我ながら進歩がないというか「何でここまでやってきたんだろ?」と正直思うくらいなのだが、たぶん――失うものも多かったけど、得たものも多い(それもこの仕事をやっていなければ得られなかったものがほとんどな)20年だった、ということなんだろう。お金にはあんまりつながったとはいえないけど、さりとてお金に変えることはできないもの。そうした財産にすんごく恵まれたからこそ、今でも「フリーランスライター」と書かれた名刺を携えつつ、あちこちに取材に行ったりいろんな人に会ったりしている。それが楽しいし、それこそが、なるべくしてなった自分のあり方なんじゃないか、と。要は月並みですが「みなさんのおかげです」というところでしょうかm(_ _)m
などと何だかまたいたずらに長くてまとまりのない記事になっちゃったけど、それがライター歴20年を迎えて未だに発展途上(といってもこの先に発展するのか破滅するのかといったら明らかに後者の可能性が大きいんだろうけど)にある中年男の所感ということで、まずは20周年のご挨拶代わりに。

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