「
東京視点」の
可越(か・えつ/Ke Yue)さんが、昨今のことでさぞかし頭を抱えているんだろうな……と心配していたところ、昨日になってその可越さんから「東京視点」メーリングリストを通じて「日中関係についてのリアル討論」の案内をいただいた。
可越さんの友人の中国人のTさんが主催する会合で、さる23日(日)に1回目を開催し、昨日(27日)夜が2回目。そして本来「国交正常化40周年」の記念すべき日として祝われるはずだった29日(土)に3回目を開くという。
開始時刻より30分ほど遅れて会場に顔を出したが、ちょうど名刺交換タイムが終わったところだったらしく、討論の始まりから参加できた。参加者は十数名。もっとも可越さんと司会者のTさん(中国人)、および座った席の両脇の御二方(一人は文京区議会議員の日本人女性で、もう一人は中国人男性の弁護士)以外は、誰が日本人で誰が中国人なのかもわからなかったが、会は基本的に日本語で進行。ただ、少なくとも半数は中国人だった(日本側からは大手テレビ局の記者さんも来ていた)。
個人的には今回の大ゴタゴタが湧き起こって以降に、中国の人たちとお会いして話し合うのは初めてだ(最近は新宿を歩いていると毎日のように遭遇していた中国人観光団体客ともめっきり出くわさなくなっていたなあ、と思っていた)。
可越さんも2005年に中国で反日デモが起こった際には東京で「東京視点」主催の討論集会を開いていたし、その際の経過については、
下村健一さん(今も官邸で「原発広報」をやっているのだろうか。確か任期は来月下旬までのはずだが)が
ここで紹介している通り、当時は可越さんとの激しい議論もあったという。そんなわけで私は今回、可越さんの沈黙が気になっていた。
ともあれ、そんな中で私はアウェイ(?)で乗り込んでいったわけだが、その可越さんや中国側の参加者からまず述べられたのは、今回の中国国内における「反日デモ」について「暴徒化はマズい」ということだった。いくらなんでも日系のスーパーやデパートや向上にに殴りこんで商品を略奪したり施設を壊したりするのは誰が見ても犯罪であるし、中国の一般市民もああいう暴徒化には批判的だ。あんなことをしていたら外資系資本も中国から逃げてしまうし、それは中国にとっても良いことではない――と。
その一方で、中国の報道では「陰謀論」が主流を占めているという。つまり、石原慎太郎都知事と野田首相が示し合わせて「国有化」にもっていったのではないかというわけだ。「日本政府が『国有化』に際して中国の一般市民向けにもちゃんと政策広報をやるべきではなかったのか」と司会のTさんは言った。なぜなら「反日デモには参加していなくても、中国人の99%以上は釣魚島(尖閣諸島)を中国の領土だと思っている。そこを日本側が『国有化』したことに中国側はフォーカスしている」し、その反面「日本のメディアは中国の国内問題にフォーカスしていて、歴史問題や領土問題についての言及が少ない」とも。
驚いたのは、私の隣にいた中国人弁護士(ちなみに日本でも弁護士資格を持っているという)のOさんが「個人的には東京都よりも日本政府として買ったほうがまだマシなんではないかと思ったが、タイミングがまずかった」と言ったことだ。
「私は逆で」と私は言った。「石原と野田が『陰謀論』で示し合わせたなんて話は日本人の感覚として『?』というところがあるし、そもそも石原慎太郎がああいう政治家だなんてことは中国政府も中国の市民もとっくにわかっていたでしょう。その彼が勝手に『東京都で土地を買う』と言い出した話をそのまま放っておいたらこんな大騒ぎにならなかったのに、なまじ『国有化』とか言い出しちゃったもんだから話がややこしくなった。だって日本と中国とで『国有化』っていう言葉のニュアンスは全然違って受け止められているでしょう?」
これに対して中国側からは「『政府による土地の購入』だったら確かにこういう反応にならなかった」という意見もあったが、可越さんは「岩本さんの言うことに一理あるが」と前置きしたうえで「日本側の政権の判断も幼稚だった」と指摘された。この問題ではよく「70年代に石油資源の問題が浮上してから中国側が領有権を主張し始めた」と言われるが、実際には「文書を見ると1950〜60年代の中華民国の頃から蒋介石政権が主張していた」と。確かに現在の中華人民共和国政府が台湾に代わって国連入りしたのは1971年のことだ。それにしても可越さんが「中華民国の頃から」と堂々と言ったのには驚いたが、彼女によれば「台湾も中国の一部だから」とのこと(笑)。ともあれ、そういう国交回復以前や、それこそ清や明の時代にも遡る歴史認識、加えて、20世紀前半以降の両国間で起こってきたこと――それらに対して中国人は日本人に対してやはり「認識が足りない」と苛立つ。
しかも今回、いきなり飛び込みで参加しながら話を聞いてみて驚いたのは、中国側が真面目に両国間での「戦争」勃発の可能性を懸念していたことだ。日本でも一部の週刊誌や月刊誌が「日中開戦寸前!」みたいな派手な見出しの記事を打ち出しているが、たぶん大半の日本人は「今さら中国と戦争? え?」みたいな感じではなかろうか。
「具体的に日中間で今、戦争が始まるとしたら、どっちが先に攻めてくるんですか?」
と聞いた私に、中国側の人々は「釣魚島(尖閣諸島)周辺海域で不規則な軍事衝突(つまり自衛隊と人民解放軍との間の)が生じたら」と答えた。日本にいる中国人の人たちだからそうした危機感をより強く持っているということかもしれないが、確かに「領土問題では妥協しない」と以前から強調していた国を、今回こうして刺戟してしまったわけだからなあ。
ともあれ、この「日中関係についてのリアル討論」、3回目は明日9月29日――本来だったら「日中国交正常化40周年」が華々しく祝われたはずの日の午前中に行なわれるそうだ。その日に向けて、日中間の市民レベルでは着々と「ある準備」が進められている。

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