「尖閣諸島沖」の件について。
まあ中国が怒るのは、あの国のこれまでからして当然だろう。何しろ歴史的にも外国から領土を無理矢理ブンどられたトラウマを持ち、今だって台湾問題、あるいはチベットや新疆ウイグルでのゴタゴタにあれだけ過敏に反応する国だ。「中国は領土問題では妥協しない」という頑ななまでの原則主義は同時に本音でもあって、それらのどれか一つでも妥協したら面子(中国人にとっては最も大事)が保てないは国家の存立原理が危うくなるは、何より広大な国土の各所で噴出しかかっている分離独立への渇望、さらには国内世論も抑えきれなくなる。
一方の日本。先週末の中国人船長釈放以来、国内マスメディアはスタンピート的に「けしからん!!」の大合唱であるわけなんだけど、私は「ほんとにそうかあ?」と斜に構えて見てしまいますね。
だって事件発生当初から「どうせそのうち船長を釈放して手打ちをはかるんだろ?」ってみんな思ってたはずだし、後ろにAPECとかを控えたこの時期に、ああいう問題でずるずると引っ張りたくないのが政府の本音だというのは、当のマスメディアだってわかっていたはずである。
だから要は船長解放のタイミングはいつになるかという、所詮は「時間の問題」だったのだろう。ま、確かに那覇地検が「日中関係を考慮すると」云々とか言っちゃったのは、建前上「三権分立」を謳っている国としてはどうなんだろうと私も思ったし、「こういうことで騒ぎたい人々」への美味しいエサにはなったんだろうけど、いわば「右手で握手して左手で殴りあう」二国間の“♪仲良く喧嘩しな”関係においては常套手段。後は先方が振り上げた左手の拳がどこに行くかだが、とりあえずは、相手をあまり追い詰めないほうがいい。
そもそも、あの近辺での小競り合い自体は今に始まったことでもなく何年もずーっと繰り返されてきた。ということは要するに逆に言えば「このことで無闇に争ってもつまらん」と当事者間での暗黙の合意があったのだろう。むしろ却って「白黒つけたら」お互いにとって面倒なことになりかねないという判断があったのではないか。
例えばこの件では台湾がまるっきり沈黙している。あの近辺は地勢的にも中国本土よりも台湾に近いし、そこで生起した事態については本来ならば「日・中・台」の三つ巴の問題になって然るべしなのだが、台湾はもとより中国もそこは避けるだろう。数年前に香港から船で上陸した連中が五星紅旗と青天白日旗を両方掲げちゃって問題が沙汰ヤミになったことがあったし、中国だって台湾問題はもちろん、あそこを領有することで沖縄の駐留米軍と間近に向き合いたくはないはずだ。
レアアース云々にしたって、今になってそういう新たな懸案がそういえばありますよねという話で、これで二国間の貿易に支障がきたすことなど、冷静に考えればどちらにとっても損だとわかることだろう。だいたい国内マスメディアが関連して大騒ぎしていることって、レアアースとフジタの社員4人「拘束」の3点ぐらいに終始している。
だいたい「拘束」って何だよ。んなこといったら中国人船長の「逮捕」だって、日本国内的に言ったら「公務執行妨害で逮捕→処分保留で釈放」という、それこそ日常的に起こっている話だ。例えば新宿の歌舞伎町で酔っ払って暴れた中国人が逮捕されたって日中間の外交問題に発展しないだろう。これがもし日本で警察による「中国人一斉摘発」や、そのお返しにとばかりの中国における在住日本人への無差別退去要請・日系企業出て行きやがれ的な展開になったらまた話は違うんだろうけど、まあ騒ぐならそのあたりまでエスカレートしてからにでもしたほうが「日本側の度量」を国際的に見せつける意味でも良いのではないかと。
そこで思い出した。そういえば一昨年に
こういうシンポジウムに何故か呼ばれて話をしたことがあったっけ。
その際に私の隣に座ってたジャーナリストのOさんが「尖閣諸島に中国が攻め込んできたらどうしますか?」といきなり言い出したんで「だったらその前に竹島をどうします?」と私が言い返して場が乱れた覚えがあるんですよ。ちなみに終了後の飲み会で同じくパネリストだったドイツ文学者のNさんからも「尖閣に中国が攻め込んできたらどうする?」と訊かれたんで「そうなったら取材しに行きます」と答えたら「そんな、日本人として恥ずべきだ!!」とか烈火のごとく怒られたんだけど、結局「大文字」で語られる日中関係って、所詮そんなものなのかな。
ともあれ、繰り返しますが「♪仲良く喧嘩しな」と。ではでは。

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