再来月(7月17日)から運行を開始するという、東京都心⇔成田空港間の鉄道路線。
ただしその一部は既に別会社によって営業中、というややこしさだ。
都心から成田空港に至る鉄道路線としては現在、特急「成田エクスプレス」を主体とするJR東日本と、専用列車「スカイライナー」が看板の京成電鉄という2路線がある。
どちらも都心からの所要時間は50〜60分。前者が横浜や新宿・池袋などから直通一本で行けるのに対し、後者は料金的に3割以上安いものの上野や日暮里などでの乗り換えが必要――という、そんな競合関係にある。
そこへ後者の京成電鉄が“新球種”を投げ込んできた。同電鉄には、都心に近い高砂駅から分岐して千葉県北部の「千葉ニュータウン」方面へ行く「北総鉄道」という系列の私鉄がある。この北総線の終端駅から成田空港近くまで更に線路を延伸し、成田空港への短絡ルートを確保したうえ、「スカイライナー」など空港行き列車をそちら経由に移し変えると発表したのだ。
こうなると山手線に接続する日暮里駅から成田空港までは距離が短縮されるほか、新路線ゆえのスピードアップも加わり、所要時間は最短36分に。これまで「成田へは都心から最低でも1時間」という感覚が浸透していた利用者には、そこそこのインパクトを発揮することだろう。当然、JRやリムジンバスに対しる競争力も俄然高まる。そうしたこともあって、京成電鉄はこのほど日暮里駅のホームを空港利用客用に大改装した。
にしても、何で今ごろになってそういう路線ができるのかといえば、ひとえに「成田空港」問題をめぐるややこしさに振り回された結果だというほかない。
そもそも1960〜70年代に成田空港の建設計画がよって強引に進められた際、東京都心から空港を結ぶ鉄道アクセスルートとして国が策定したのは、実に「新幹線」だった。だから成田まで既に路線網を有していた京成電鉄が空港ターミナルへの乗り入れを望んだにも関わらず、国はこれを認めなかった(現在、空港の敷地内に「東成田」という、およそ空港利用客には不便な場所に京成電鉄の駅があるが、あれがもともと国からの嫌がらせのように場所を決められた京成側の「空港最寄り駅」だった)。
そのうえで、空港ターミナル真下にある至便のロケーションを持つ「成田新幹線」の工事にはGOサインが出た。ところが、空港建設反対運動が熾烈化し、同時に新幹線建設も当時全国的に高まっていた沿線住民による騒音反対問題などから次第に行き詰まり、結局頓挫してしまった。何しろ京成でさえ、車庫に置いていた「スカイライナー」用の車両が焼き討ちに遭うという、それはそれは激しい経過があったのですよ
そんなわけで、当初に国が構想した空港アクセス鉄道は実現されないまま終わった。ただしその過程で確保された「空間」や、作りかけの「構造物」が中途半端にその後もしばらく放置されることになった。
一つは、成田空港ターミナルの真下に作られたターミナル駅と、その導入部にあたるコンクリートの高架橋だ。これらは70年代末期に既に完成していたものの、90年代初頭に当時の運輸大臣(石原慎太郎)の鶴の一声によってJRと京成の乗り入れが認められるまで約10年放置されていた。現在、成田空港駅に降り立つと、本来なら一つの鉄道駅にまとめられていたような空間がJRと京成で半分に分けられたかのような不自然な印象を持つ人も多いかと思うが、それはこうした事情に起因している。
もう一つは、東京駅地下に予定されていた成田新幹線用ホーム。ただしこれも90年頃には京葉線の東京駅乗り入れ用に転用された。本来の東京駅からやたら離れた地下空間に妙に馬鹿でかいコンコースやホームができているのは、その名残らしい。
そしてもう一つが今回の「成田スカイアクセス」だ。その経路をなす北総線に乗ると、途中区間で妙にだだっ広い切り通し区間を通る。もともと新興のニュータウン区間を行く路線として台地を切り拓いて建設された路線なのだが、それにしても線路脇には無用に見える空間がずっと連なっているのが気になる。
実はここに「成田新幹線」が建設されるはずだったのだ。北総鉄道の建設とあわせて土地を確保したものの、そちらは遊休化してしまい、替わって北総線を成田空港行きのアクセス鉄道に活用するというプランが、後の紆余曲折によって浮上。それが空港建設計画の構想が生まれてから約半世紀をへてようやく実現しようとしているわけだ。
ただし、そんなこんなの末にようやく実現した都心―空港間の最短距離鉄道は何ともツギハギの呈をなすことになってしまった。一応「スカイライナー」など空港直通列車については京成電鉄が一体運行することになったものの、路線自体は都心側から京成〜北総鉄道〜千葉ニュータウン鉄道〜成田高速鉄道アクセス〜成田空港高速鉄道という計5事業者が保有するという複雑さだ。いわゆる線路の所有者と営業主体とを切り離した「上下分離」というスキームである。
別に利用者にとっては気にならない話であろうし、都心から空港まで40分弱の路線が新たに開業することは歓迎すべきだろうが、その路線が5事業者に分割され、なおかつJRやリムジンバスなどとの競合にさらされるというのだから、はたして大丈夫かという気はする。もとより私が気にすることではないが、「成田空港問題」ってのは今に至るもこういうややこしさを生んでしまっているのだなあ……と感じさせられる。
現在の終着駅である北総線「印旛日本医大」ホームの先には建設中の線路が見えた。ホーム突端には「AE160 特急120」との表示がある。
「AE」とは「AirPort Express」、つまりスカイライナーのことで、ようするにこの駅から先はスカイライナーは最高時速160km/h(それ以外の特急は120km/h)で走れますよ、ということらしい。
160km/hというのは新幹線以外の鉄道だと国内最高速。それで日暮里から成田まで36分というのだから、本当に新幹線ができていたら、たぶん東京駅から空港まで20分台で走っていたんだろうが、所詮はそれも絵に描いた餅だった。開港まではもとより、2本目の滑走路を作るだけであれだけ紆余曲折した空港。しかもツギハギのアクセス鉄道が開港以来30年を経てようやくできあがるというのだ。「成田」をめぐる、この国の病理を思う。

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