「ヘタレなザイトクの代わりに俺が産経を擁護してやるからありがたく思え(笑)」
ネトウヨさんたちとのあれやこれや
「
産経前ソウル支局長を在宅起訴 韓国、大統領の名誉毀損」
(共同通信 2014年10月8日 22:24)
これにはやっぱり反対ですよ。国家元首を批判する記事を書いた者を、その国の検察が起訴するなんてことがあってはならない。まして民主化闘争を通じて言論・表現の自由を獲得してきたはずの韓国社会で、今頃になってこういうことが起こるというのはおかしなことである。
もちろん、その背景に産経新聞という媒体がこれまで韓国政府に対して批判的な論調をとってきたとか(言われるけど、これについては以下で改めて述べる)、現在の日韓双方の政府間関係が影を落としていることがあるらしいというのは察しがつく。大統領自身ではなく韓国の市民団体が告発したといった背景もよく考えておく必要があるだろう。さらには当の産経の前支局長が書いた記事の正確性・妥当性がけしからんものであるなら、それはそれで韓国内で問題視されるのは構わない。いくら「言論の自由」が保障されているからといって、明らかな事実の捏造による名誉毀損がその記事に含まれているのであれば訴えられ、時に書いた側が有罪判決を食らうのは日本だって同じだ。
しかし民事訴訟でそれが争われるならともかく(と言っても最近ではここでもSLAPPとか賠償金のやたらな高額化等の問題はあるが、ここでは措く)、検察が起訴するなんてことは許されるべきではない。そして、そう述べるのは別に私が日本人であるからではない(むしろ最近では非国民だの売国奴だのと盛んに言われているし)。もとより海外ではまだ民主化されていない国を中心にこうした例はたくさんあって、その中でたまたま日本のメディア絡みのこうした事件が、しかも隣国で起きたために大きく報道された結果として私の耳に届いたということはあるけれども。
(ちなみに上記の「産経新聞は韓国政府に批判的な論調をとってきた」というのはあくまで現在の話であって、かつて朝日新聞などリベラル系の媒体や知識人が韓国の軍事独裁を批判したり、中国や北朝鮮にむしろ好意的な論調をとっていた時代の産経は、逆に朴正煕(今の大統領の父)政権寄りのスタンスで、実際に朴正煕の『民族の底力』という著作の邦訳版を自社から1973年に出しているのだ。ようするに産経のスタンスは別に「反韓国」というより「反朝日」「反リベラル」といった日本国内に存在するマーケットを踏まえてのものだ。それに、これは森達也さんが10月2日付「
あたし、じゅんときちゃったんです。――朝日オワタ 今こそ徹底的に叩け!」 で紹介しているのだが、産経新聞は1993年に紙面で吉田証言を大きく取り上げ、同年9月1日の紙面でも「加害 終わらぬ謝罪行脚」の見出しで、吉田氏が元慰安婦に謝罪している写真を掲載。そこでは「信憑性に疑問をとなえる声があがり始めた」と書きながらも「被害証言がなくとも、それで強制連行がなかったともいえない。吉田さんが、証言者として重要なかぎを握っていることは確かだ」と書き、その結果「第1回坂田記念ジャーナリズム賞」を受賞していたというのだから、所詮は日本のマスメディア全般がその程度のものなのである)
当然、どのジャーナリスト(って言葉を殊更に使いたくないがここでは便宜上使う)にもそれぞれが属する国やら地域やら民族やらといったアイデンティティの問題はあるし、自らが書いた記事を載せる媒体がどこをマーケットにしているかに縛られるところはある(特に私みたいな日本語でしか発信できない人間は結局日本というか日本語圏というドメスティックなマーケットの中でしか実質的に生きていくことができない)。
とはいえ、やっていることにおいて(実力的に劣るとは言えども)海外の多くのジャーナリストたちと志は通じるものがあると思っているし、その意味において、例え自国であろうが他国・他地域であろうが、政権サイドからああいう動きが出てきたことに対しては(記事の内容に対する賛否や評価はともかく)異議を唱える。
そこまで書いたうえで、ようやく書いておくと、私、韓国って好きだからね。中国も好きだし、いま揉めてる香港も大好き。ただし、好きだからといって「その国の政治体制や政府のやり方を全面的に肯定する」わけではない。「そんなどっちつかずは許されない」「やっぱり非国民だ」と言われたら「んじゃ『世界市民』でいいよ」と言うだけだ。世界市民だけど、今も御飯と味噌汁、日本茶が大好き(何たって茶所の静岡出身なんだから)で、しかも親から「太郎」という日本人の代表的な名前を貰って(にも関わらず子供の頃にはよく苛められたなー、まわりの日本人から「太郎って変な名前!」とか)、今も鞄の中には赤字に菊の御紋のパスポートをしのばせながら「何ならいつでも海外に行ってやるぞ? ○○新聞社や○○テレビ局の社員でもない丸裸の「日本人」として」と思っている。それが私。
で、ここからザイトクやネトウヨを貶しておくと「お前らこの件で何やってんだ?」と(笑)。
在特会の「
行動する保守運動のカレンダー・南関東地区」を見ても、この産経の件では8月末に『韓国政府による対日言論弾圧を許すな!怒りの抗議街宣2』を韓国大使館前でやったらしいが、それ以来はもっぱら朝日新聞攻撃が中心で、今回の産経前ソウル支局長起訴の件についても今のところ何もリアクションが起こせていないようで、とにかく「運動」神経が鈍いというか、ようするに「日本の中のことにしか興味がない」という連中の非国際性がそういうところに表われているとも言える(ま、こう書くと焦ってまたバカなことやりだすかもしれないけどね -∀-)。「良い韓国人も悪い韓国人もみんな殺せ」とかいう諸々の差別的なメッセージは論外としても、今回の件に関して連中が韓国大使館前で「産経記者の起訴に抗議する」とか即座にやったら少しは見直してやったんだけど(小学館前での『美味しんぼ』抗議街宣なんかは割と早くやったもんなあ)、やっぱりダメだこいつら(^_^; ほんとにヘタレどもが。
一方で「産経だから」という理由で他のマスメディアやジャーナリストが沈黙を決め込むのもおかしいと私は思う。私だって産経とは過去に揉めたし(「
連載中止の舞台裏」参照)、二度とアイツラと仕事なんかしてやるもんかと思ってるけど、それでもやっぱりこういう時にはそういうスタンスをとるんですよ。産経はありがたく思え(笑)。

1