で、先週金曜(24日)の夜は恒例の官邸前〜国会前に行かず、拙宅隣りの都内・杉並区まで、朴思柔(パク・サユ)監督
「60万回のトライ」(仮題)製作応援プレイベントに足を運んできました。
私はこれについて先日の『週刊金曜日』で紹介した。で、それこそ当ブログでも事前告知、あるいはネット生中継をしたかったところなんだけど、なにぶん私がやるとまたへタレで無粋な連中がやってこないとも限らないし(本当はそういう連中にこそ見てもらったほうがいいとも思ったんだけどね)、その他もろもろの事情から断念した。ただ、それでも会場は超満員。かつ妙な真似をして場を乱すバカも来なかったんで、まずは何より。
当日はその「60万回のトライ」(仮題←以下略)のラッシュ映像の上映後、パク・サユさんの挨拶やトークが行なわれた。私はあくまで一参加者として、その場に参加した。
「60万回のトライ」は、大阪朝鮮高校ラグビー部を三年間に渡って取材したドキュメンタリーだ。当然、その選手たちはみな在日朝鮮人である。
一方で取材にあたったパク・サユさんはソウル生まれの韓国人。2002年に来日し、韓国のニュース専門局のレポーターとして取材活動を続ける中で大阪朝鮮高校(以下、大阪朝高)ラグビー部と出会う。
ちなみにこの大阪朝高ラグビー部というのは全国的に見ても強豪らしい(私もラグビーに詳しいわけではないので、あくまで聞いた範囲で書く)。2010年の全国選抜大会では準優勝しているし、日本のラグビー関係者からもリスペクトされる存在だという。
まあ、スポーツや音楽、それこそ囲碁や将棋の世界でもそうだけど、同じジャンルで活躍している人たちの中では「国籍の違い」なんてのは別に問題にもならないようだ。それこそサッカーの日本代表のサポーターたちにしたって「ニッポン! ニッポン!」と連呼しつつも、他国のサッカー事情や選手の情報に凄く詳しいし、Jリーグのチームに所属する外国人の選手にも敬意を払う。『週刊金曜日』なんかでもたまにあのサポーターたちに「右翼的だ云々」みたいな投書を見かけたりするが、実態は彼らのほうがサッカーという競技を通じてよっぽど国際感覚に長けているみたいだ。事実、日本の右翼団体とか在特会とかがああいう日本代表サポーターを巻き込んで上手くやってるみたいな話も寡聞にして聞かない(あったら教えてくださいね)
それはともかく、大阪朝高は一方で御他聞に漏れず地元自治体から運動場など敷地の明け渡しを裁判で請求された(最終的には協議で勝利的和解)など苦境に立っていた。前述した韓国のニュース専門局のレポーターとしてパク・サユさんが初めて大阪朝高を取材したのは2007年。排水が悪く、雨が降ると泥んこになってしまうグラウンドで練習する生徒たちの姿に強く印象を覚えつつ、裁判の件と共にレポートしたのが最初だという。
もっとも、ソウル生まれのパクさんはもともと在日コリアン(在日同胞)の問題にさほど関心を持っていたわけではなかった。「韓国でも在日同胞のことって3月1日(三・一運動)と8月15日(光復節)以外は全然メディアで報道されないんです」と彼女は言う。実際、仕事をしていた韓国のニュース専門局からも「韓流ドラマとか明るく、さわやかで未来志向の作品を送ってくれ」と言われたそうだ。
とはいえ、2005年に京都のウトロ地区(在日コリアンが数多く住む地域)を取材し「カルチャーショックを受けた」という彼女にとっては承服できる話ではなかった。加えて、彼女自身の体調の問題もあった。乳がんを患ったのだ。心身ともに追い詰められ、部屋に引きこもったという彼女に手を差し伸べたのは、在日コリアンのコミュニティ。呼び寄せて食事の世話から何からやってもらったことに「韓国にも今はこんなコミュニティの輪はない」と感激した彼女のもとへ、数年前に取材した大阪朝高のラグビー部が全国大会の決勝に進出したとの話が届く。
それがきっかけで、この作品は生まれようとしている。「だから恩返しのつもりで作っています」と彼女は言う。
『週刊金曜日』での取材は電話やメールでやりとりしただけのパク・サユさんだったが、実際にお会いしてみたら、スリムで朗らかな若い女性だった。
その彼女に岡本有佳さん(編集者で雑誌『前夜』元編集長。元気で快活なかただが、御自身も稀少がんのひとつ、頭蓋骨原発悪性骨肉腫にかかり、大手術・抗がん剤治療で1年半の闘病生活を余儀なくされた体験を持つ)や永田浩三さん(元NHKプロデューサー・現在は武蔵大学社会学部教授。ただし現在海外出張中でこの日は欠席)が、プロデューサーとして協力を申し出た。そんなわけで、作品は目下大急ぎで編集および製作資金集めの真っ最中。
終了後の懇親会でパクさんともいろいろ話をした。
「日本でお会いした人たちはみんないい人たちなのに、どうして韓国へのニュースに出るのが安倍とか石原とか橋下とか在特会になっちゃうの?」
「だから私はああいうのが“日本人の代表”だと思われたくないんだよ」
などなど。こうした状況下で、こうした作品を製作中の彼女、そしてそれを見ながら応援する私たちの側にも、言い尽くせぬ様々な思いがある(って、言いたいんだけど言い出すとキリがなくなっちゃうから、とりあえず今回はここまでにする)。
作品はもうじき完成し、公開される。是非多くの人々に見てもらいたいと思う。あと、この日に登壇した中竹竜二さん(早稲田大学ラグビー部監督として連覇を達成し、現在は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)と呉英吉(オ・ヨンギル)さん(大阪朝高ラグビー部監督)の話を伺いながら、共感とともにいろいろ考えさせられることもあったんだけど、それはまた改めて書くことにしよう。

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