2020/5/15

「9月入学にしなくても、学校は100日で1年分を教えることができる」〜「9月入学」の利点と問題点D  教育・学校・教師

  
 現在、学校に行くことのできない子どもたちの学力をどう保障するのか、
 ある意味、答えは簡単である。
 「1年間の授業は、その気になれば100日で取り戻せる」
 学校のカリキュラムは、教師がものすごく丁寧に教えることを前提にできている。
 したがってそれを一部簡略化して進めればいいだけだ。

というお話。
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(「英語カード遊びをする女の子2」フォトACより)

【反省と代案】
 昨日はちょっと取り乱して「もうどうでもいいや」みたいな下品な文を書いてしまい、後悔しています。
 「9月入学」――少し考えればダメに決まっている、少なくとも今日明日、急いで決めてはいけないと分かり切っているものを、敢えて持ち出すからには政府、国会議員、あるいはマスコミに何らかの企みがあるに違いない、そう考えたら不安になり、イライラしていたのです。

 しかし興奮して「9月入学」反対を大声で叫んだところで、代案を出さなければ負け犬の遠吠えにしかなりません。そこで一息。

 そもそも今回の「9月入学」論は、「現在学校に行くことができず、すでに各学年の就学期間の6分の一を失ってしまった子どもたちの学力をどう保障するか」というところから始まったものです。したがってこの問題に応えるのが反対の第一歩でしょう。


【現在、学校に行くことのできない子どもたちの学力をどう保障するのか】
 結論から言いますと、
「平均で年間200日の登校日数のうち、最低100日、できれば130日、確保すれば学力はなんとかなる。したがって長期休業の削減、土曜授業、あるいは休校と再開を細かく繰り返すことを通して、なんとか100日以上の登校日数を確保することを目指す。それでもダメなら学習内容を上の学年に繰り越す」

 これで大丈夫です。

 例年の四分の三以下、あるいは半分の日数でも学力が保障できるというのは、「学力」の定義にもよりますが、上の学年に進むための最低の知識・技能を習得するためにはもともと200日も必要なかったからです。

 考えてもみてください。学習塾や予備校は学校が3年もかけてようやく到達するレベルに、1年足らずで子どもを引き上げてしまうのです。しかも毎日の授業時数は学校の半分もありません(体育も美術も、生徒会活動もないのですが)。それと同じことをすればいいのです。


【塾の先生は教え方がうまいのでよくわかる――のではない】
 かつて学校が学力問題で叩かれまくったとき、学習塾や予備校の先生たちに学校に来ていただき、教師が“教え方を教えてもらう”といった屈辱的な研修が行われたことがあります。しかし学校と学習塾・予備校ではやることが違いすぎて、あまり参考にはなりませんでした。

 誰が考えたって明らかなのは、例えば理科で、学校並みの器具を用意して生徒と一緒に実験したり観察したりしている学習塾・予備校がいくつありますか? あるいは「鎌倉幕府が140年、室町幕府が実質120年ほどしかもたなかったのに、江戸幕府はなぜ270年も続くことができたのか」という課題にみんなで取り組んで、図書館やインターネットで調べ、プレゼンし合う、そんな授業も学習塾や予備校はやったりしません。しかし学校というところは、一年中そんなことばかりしているのです。

 算数・数学の世界ではよく、「わかる・できる・すらすらできる」という言い方をします。
 例えば、「@かけ算の意味と構造が分かる」「Aかけ算を使った問題ができる」「Bかけ算の問題がすらすら解ける」といったふうです。

 学校はそのうち@とAに大変な時間をかけます。極端に言えば@が8割、Aが2割、Bに関しては「宿題にしますからウチでやってきてください」という感じになるのです。

 学校では@の部分を丁寧にやることでつくだろう論理性や推理力、数学的感性などを総称して「見えない力」と言っています。言語能力や学習習慣、好奇心や追求力といった学習のすべての基礎になるような力のことです。学校はその「見えない学力」つけるところ、「学び方を学ぶところ」という意識が強いのです。
 ところが学習塾や予備校の学習はAから始まるのが一般的です。

 具体的な例を挙げると6年生の算数で、「割る数が分数であるような割り算では、割る数の分母と分子を入れ替えて、かければよい」というそれ自体を理解させるために、学校は大変な時数を使います。そして理解できたら実際に問題に当てはめ、「できる」ことを確認するのです。それを「すらすらできる」ように訓練するのは個人の仕事です。

 ところが、学習塾では「割る数が分数であるような割り算では、割る数の分母と分子を入れ替えて、かければいいのですよ」というところから始めて、いろいろな問題に挑戦させ、「できる」ようになったらあとは「すらすらできる」まで練習をさせるのです。

 「塾の先生は教え方がうまいのでよくわかる」の由縁はここにあります。学校の先生やることは迂遠で分かりにくく、力がついたとしてもそれは「見えない学力」なので実感がない。
 それに対して塾の先生たちは一目瞭然の明らかな事実・法則から始めて、つけてくれるのは「目に見える学力」。それは児童生徒の利害と一致するのです。


【「見えない学力」に少し封印】
 私は学習塾の講師から公立学校の教員になった人間ですので、正直言って「見えない学力」論には最後まで懐疑的というか不安でした。いつまでたっても「自分は子どもに確かな『見えない学力』をつけた」という気になれなかったのです。
 「見えない力」論がダメだというのではありません。しかし目に見えない力ですから計測もできないのです。同じ学校の1組には「見えない学力」を、2組は「見える学力」に力点を置いた授業をして数年後に人間性の違いをみる、というわけにもいきません。「ああ、やっぱ〇組の方は失敗だったかぁ」では済みません。

 ただし「見えない学力」を信じる立場であっても、義務教育の9年間、寸分の隙なく「わかる」を重視する授業をしないと「見えない学力」はつかないと、そんなふうには言わないでしょう。

 今は非常時です。「見えない学力」は多少犠牲にしても、上の学年に上がっても困らない程度に「見える力」をつけて送り出さなくてはいけません。
 算数・数学では各学年に配当された問題が一応解けるとか、国語では教科書の文章がすらすら読めて習った漢字や構文を使った文章が書けるとか、そういうこと。目安としては、テストで例年と同じ程度の点数の取れる子たちを育てるということ、それだったら100日でも可能です。

 ただしよほど計画的にやらないといつもの癖で時間をかけてしまい元の木阿弥です。極端に言えば国語や社会科でも傍らに問題集を置いて、それを解いて授業を終えるくらいの覚悟が必要です。
 塾の真似をすると言っても塾の講師もその道のプロです。「Aできる」から始める授業が簡単でないのは、理科で実験もしないのに知識を詰め込まなくてはならない困難を思えば、きっと理解できると思います。

 初めてのことですからうまくいかず、3月の時点で積み残しが出てしまうかもしれません。そうなったら仕方ないので来年度に先送りするようにしましょう。
 すでに分散登校を始めた学校の中には、小学校1年生と6年生、中学3年生を優先的に進めているところがあります。積み残しのできない最上級生を優先させるのは妥当と言えます。あとは保護者に丁寧に説明し、納得と了承を取り付けて安心してもらうだけです。


【ついでに:5歳入学か、7歳入学か】
 ときどきここで話をする孫のハーヴは、まもなく、6月になると5歳の誕生日を迎えます。
 保育園も自粛なので家でおもちゃ遊びをしたりテレビを見たり、近くの公園で最近乗れるようになった自転車遊びをしたり、そして家に戻ってはドリルをしたりして暮らしているようです。だいぶ前から文字や数字に興味のある子で、母親が幼児用ドリルを買ってきたら喜んでやっているとのこと。ひらがなはほとんど読め、簡単な足し算ならできるみたいです。
 別に優秀というわけではありません。母親であり私の娘であるシーナはそのころすでに短文もかけていたのです。シーナだけではなく、普通の5歳児にはそれができるのです(ただし男の子は半歩遅れる)。

 ですから私は小中高校12年間の就学を、5歳から17歳にしたいと考えていたのです。早く教師の元で教えないと、鉛筆の持ち方や筆順、計算などで間違ったやり方をどんどん覚えてしまうからです。真っ白なカンバスに絵を描く方が、汚れたカンバスを漂白してから使うよりはるかに楽です。また、高校卒業が17歳になれば、選挙権を始めとする18歳制限がすべて卒業後になっていろいろ便利でしょう。

 ところが「9月入学」になると、6月生まれのハーヴは7歳にならないと小学校に入学できなくなります(2021年6月に6歳の誕生日を迎えるハーヴは、2022年4月入学を予定していたのですが、それが7歳の誕生日を経た2022年の9月の入学になる)。5歳で入学させたいのに7歳入学になる――それはあまりにももったいないことです。
 就学年齢を遅らせていいことはなにもありません。ハーヴを例に話しましたが、一般論としてそうです。

 だから私は9月入学、ぜひとも阻止したいのです。

(この稿、終了)

《追記》
「新型コロナウイルスの影響による休校の長期化で学習の遅れが深刻になっていることを受け、萩生田光一文部科学相は15日の記者会見で、予定していた学習内容を年度内に終えられない場合、「特例的に最終学年以外は、複数年度の教育課程の編成を認める」と述べた。学習内容を上の学年に繰り越し、遅れを解消する。文科省は15日午後、全国の都道府県教育委員会などに通知する」
(2020.05.15 産経新聞「学習遅れ『複数年で解消』 文科省が午後に全国へ通知」
だそうです。

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2020/5/14

「もう何でもいいからやってくれ!」〜「9月入学」の利点と問題点C   教育・学校・教師

 
 部活は3年生を排除、文化祭は縮小、夏休みの教育活動もなくなって、
 「9月入学」はまったく異なる日本の学校教育を生み出すだろう。
 政財官はこれにもろ手を挙げて賛成し、国民も多くが賛成派だ。
 もう私に言うべきことはない。勝手にやってくれ。

というお話。
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(「ススキと海 1」フォトACより)

【文化祭は規模を縮小して行う】
 文化祭は文化系部活動にとって最大の行事であり、中学校においては学習発表の場でもあります。したがって新年度が始まってからある程度の準備期間が必要であるとともに、3年生には受験が迫っていますから背後も切られています。
 私の住む地域では高校は7月、中学校の場合は10月が一般的ですので、それに即して5カ月後ろに送ってみると、高校は12月、中学は3月の文化祭ということになります。

 高校の場合は日の一番短い時期で、昨日お話しした運動部と同じになってしまいます。しかし9月入学だと、9月一カ月くらいは新入生が部活を決めているだけで終わってしまいますし、大学入学共通テスト(昨年度までのセンター試験)が6月におこなわれることを考えると、先送りしても1月中には終えなくてはなりません。どうせなら学期をまたがずに文化部3年生の部活動は1学期(9月〜12月)まで、2学期以降は受験準備というのが分かりやすいでしょう――ということで、高校の文化祭は12月の一択です。

 もっとも運動部と違ってそれまでの作品の蓄積や家に持ち帰ってやれる仕事もありますから、それほど苦しくはないでしょう。演劇部や合唱部も直前に十分な練習ができないことを見越して早めに活動をしておけばいいのです。

 ただし制約を受けるものもあります。
 模擬店はすべて屋内になりますし、屋外ステージというのも考えられませんから体育館のステージは奪い合い、近隣の施設を使った分散開催というのも考えなくてはなりません。
 今でも地方に行くと文化祭の最終行事が昔懐かしいファイヤー・ストームとなっている学校もありますが、12月のストームは大掛かりな焚火みたいなもので雰囲気的には左義長です。間違っても例年のように水を掛け合ったりしてはいけません。深夜、残り火を囲んで青春を語り合うということもなくなるでしょう。
 
 5カ月遅らせれば3月が文化祭の中学校も大同小異、ただし学習発表の部分はだいぶ様変わりします。
 国語の書道展示は「書初め展」と重ならないようにしなくてはなりません。現在は夏休みの宿題となっている理科の自由研究も、大部分を短い冬休みの間に終えておかなくてはなりませんから、内容はずっと小さなものになってしまいます。1月〜2月に写生会というわけにもいきません。美術の作品もなにか別のものに差し替えましょう。あとは何とかなります。
 現在の卒業程度の寒さを想定すれば、時期的なイメージがわくはずです。


【案外、やっていけそうじゃないか】
 さて、三日に渡って「9月入学」を実際の年間暦に移して検討してきましたが、最終的な私の感想は、
「案外、やっていけそうなものだな」
というものです。予想していたよりも問題ははるかに少ない――。

 私も単に“桜の下での入学”“厳しい冬を耐えての卒業”といった情緒的なものに縛られていたのかも知れません。6月の梅雨時の卒業式では女子の卒業生は着物が着られないじゃないか、などということはまったく本質的なことではない。

 前向きに考えれば、3年生の参加できなくなった運動部からは有能なアスリートが手を引いて別の場所に活路を見出すようになるでしょう。そうしないと継続的な成長が望めないからです。同じ理由で各種競技団体の有意の人たちが後押しをしてくれます。
 有能な選手の抜けた中高の部活動は、遅かれ早かれ大学の同好会のようなものに変わっていき、「教員の働き方改革」「生徒の健康問題」といった点でも大きな進展がみられるはずです。
 子どもに本気でスポーツをやらせたいと思う保護者にとっては大変な負担増ですが、そのぶん学校は楽になるでしょう。

 夏休みは年度替わりの空白になりますから継続的な学習の枠から外れ、理科の自由研究や夏休み帳のようなものもなくなります。残るにしても新年度の新しい担任が引き継ぐものですからハンコを押して終わり、その程度のことになります。現在と同じ水準で行ったら、2か月分の宿題処理ですからとても持ちません。

 欧米の子どもたちが享受しているようなまったく自由な2カ月間に近いものが生れ、子どもたちに歓呼の声で迎えられます。そして、二か月間も子どもが家にいることに困り果てた親たちが、長期の夏休みを求めて大きく社会を動かします。学校5日制が企業の週休二日制を強力に推し進めたように、社会全体が長期の夏休みを受け入れざるを得なくなります。
 つまりこの部分でも、世の中の一部の人々が大好きな「グローバル・スタンダード」に近づくわけです。

「これほど大きな変化を伴う『9月入学』を、コロナ事態の混乱の中で拙速に決めていいものか」
という意見もあります。
 しかしじっくり考えたら反対者が続出するに決まっています。知事の6割が賛成し、総理大臣も「検討しましょう」と言い、ある調査では反対者が18.4%しかいない(賛成は47.8%)いまこそ、さっさとやってしまえばいいのです。


【もう、どうなってもいい】
 今回「9月入学」に関して、メリットのひとつは「留学がしやすくなる」ことだと説明されていますが、日本の人材が海外へ行って何かを持ち帰ることを期待しての話ではありません。優秀な子は行ったら帰ってきません。あちらの方が断然、収入が良いのですからです。

 目的はノーベル賞級の学者を招聘し、インド・中国などの即戦力を留学生として招いて国力を高めようというのです。そのことを意識していないと個人のレベルではとんでもない勘違いとなります。

 我が子が優秀でアメリカに留学して大活躍できるような人材であれば行ったきりです。そこまで行かない普通の子だったら、今度は外国人留学生に枠を狭められた日本の大学入試で、しなくてもいい苦労をさせられるだけです。
 しかも外国人講師による英語の授業がかなり増えますから、大学進学にかなりの英語力が必要になります。その意味で、さらに日本人には敷居が高くなることでしょう。

 それを百も承知で、このコロナ騒動のどさくさに紛れて「9月入学」を持ち出す知事たち、政財界の人々、マスコミ関係者に、私は本気で腹を立てています。

 しかし私はすでに教員でもなく子育ても終わっています。孫たちの教育についいては息子や娘と十分に相談した上で進めましょう。私たちは夫婦も娘夫婦も教員ですから、いまの“よき学校教育”の代わりはいくらでも果たせます。
 根がケチですから孫たちの教育資金も十分あります。ですから私は、もう学校教育がどうなろうと知ったことではないのです。


【それでも気になること】
 それでも心配なことがひとつあります。まったく些末なことなのかもしれませんが、学校の教育課程から水泳がなくなってしまうと子どもが死ぬかもしれないということです。

 民族学者の石川純一郎の「河童の世界」に、
「若狭の長源寺浦から朝ヶ瀬にかけて、水泳ぎや洗い物などに出て水死するものが、以前は四、五年がうちにひとりずつはあったという。水中に引き込まれるためである」
とあるように、昔は子どもも大人も、およそ信じられないような安全な場所で、よく水死したのです。それが河童伝説へとつながっていくのですが、要するに泳げる人が少なかったのでしょう、つまらぬところで水にはまって、パニックになっておぼれるのです。

 今でもオカルトめいた逸話とともに語り継がれている三重の橋北中学校水難事件(1955)では、660名の生徒を17組に編成したうち「水泳能力のない組」が12組もいました。特に女子は10組中9組までが「泳げない組」でした(人数は不明)。
 私自身は小学校2年生になるときに学校にプールができて、おかげで水泳を習うことができましたが、少し上の世代には水泳の経験がなく、若狭でなくても「水死するものが、以前は四、五年がうちにひとりずつはあった」のは当たり前だったのです。

 「9月入学」のために学校が水泳を教えなくなれば、10年後には「泳げない子どもたち」が大半になります。それはやはり気になるところです。

(次回、最終)

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2020/5/13

「部活の大会は冬が向いている?」〜「9月入学」の利点と問題点B    教育・学校・教師


 学校の年間暦を5カ月後ろ倒しにして「9月入学」に合わせて見ると、
 いろいろなことが分かってくる。
 現在は熱中症対策に大変な力の注がれている
 全国中学校体育大会(全中)やインターハイ、夏の甲子園野球が12月になる、
 それって、案外いいのかもしれない。

というお話。
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(「中学校の入学式」フォトACより)

【中学生の三種の神器】
 子どもにとって、中学校というのは部活をやって文化祭をやって修学旅行に行くところです。決して勉強をしたり自己実現を図ったりする場ではありません。“子どもにとっては”の話ですが。

 なぜそんなふうに言えるのかというと、彼ら自身が語っているからです。
 卒業文集を見れば分かりますが、生徒の文章の9割以上はその話題で終わっています。稀に他の宿泊行事のことを書いたり生徒会での活躍を書いたりする子もいますが少数です。勉強ができてよかった、知らないことが分かるようになって良かったなどと書く子はひとりもいません。

 まるっきり学習が中心になってこないことに苛立つ大人もいるかもしれませんが、
「学校は勉強をするところで、仲間と切磋琢磨して自己を磨く場だ」
と定義するなら、彼らは文化祭や修学旅行、部活動を通して学び、切磋琢磨しているのだからそれでいいとも言えます。教科だけが勉強ではありません。

 一方、教師の方も“特別活動”とひとくくりにされるこうした教育活動を、異常に重要視する傾向があります。それはこれらの活動を通して子どもたちが大きく成長する姿を、何度も見てきたからです。特別活動の価値を確信しているのです。
 子どもの成長は右肩上がりの長い上り坂ではなく、不規則な階段です。長い停滞と飛躍の繰り返しなのです。そして大きな飛躍の直前には、修学旅行だとか文化祭だとか、部活動の試合だとかいった大きな行事が、必ず控えているのです。

 したがって学校が「9月入学」になったとしても、生徒も好んで取り組み、教師も価値を認めるこの三つ、少なくとも生徒会活動の総決算としての文化祭と部活動の決算である各種大会は残しておかなくてはなりません。
 それを前提として、5カ月間うしろ倒しにした年間暦(中学校版)をつくり、修学旅行や文化祭、部活動がうまく納まっていくかどうかを確認します。


【運動部の大会は冬場が最適?】
 一般的な中学校の、9月始まりの年暦はこんなふうになります。
9月 入学式 1学期始業式 家庭訪問 1年生を迎える会 避難訓練 交通安全教室 生徒総会 PTA総会・参観日 身体測定・各種検診・検査(内科・歯科・視力・聴力・エックス線撮影)
10月 PTA作業 地域ボランティア(地区清掃) 巡回音楽会・劇場 各種検診・検査(耳鼻科・心臓・血液) 参観日 中間テスト 修学旅行
11月 地域ボランティア(資源回収) 各種検診・検査(眼科・結核) 不審者対応訓練 運動部市内大会 歯科検診 期末テスト 防災訓練 
12月 参観日 運動部県大会 1学期終業式 冬休み
1月 冬休み 2学期始業式 総合テスト スキー教室 全中(全国中学校体育大会)
2月 資源回収 中間テスト 市音楽鑑賞
3月 視力検査 新人戦市内大会 麻疹・風疹予防接種 文化祭   
4月 総合テスト 中2職場体験 参観日 歯科検診 公開授業研究会 新人戦県大会 生徒会選挙 総合テスト 1・2年生宿泊学習 2学期終業式
5月 3学期始業式 中3保護者懇談会 保護者懇談会 生徒総会 生徒会引き継ぎ 公立高校前期入試
6月 模擬テスト 参観日 期末テスト・総合テスト 中学校入学説明会 公立高校後期入試 3年生を送る会 終了式 卒業証書授与式 公立高校後期合格発表
7月 夏休み
8月 夏休み

 見ての通り運動部の市内大会は11月、県大会が12月、全国大会は1月という寒い時期になります。水泳部の大会などはとてもできそうにありませんが、それを言ったらこれまでの日程でスキー部やスケート部は他の部と一緒に大会に出場することができなかったのです。同じように水泳だけ特別な日程を組めばいいだけのことです。ボート部やワンゲル部も似た扱いになるかもしれません。

 多少の例外を除いて、「9月入学」の年間暦を肯定的に見ようとすると、確かに寒いことは寒いですが、暑いよりはいいのかもしれません。とにかく熱中症の心配をしなくて済みますから。
 屋内スポーツはどれもこれも夏よりマシです。空調の使えないバドミントンや卓球はむしろ冬の方がありがたいくらいです。あとの種目は暖房を入れてやればいい。屋外競技もこれといって大きな問題があるわけでもなさそうです。
 こうなると全中(全国中学校体育大会)ばかりでなく、インターハイ(全国高等学校総合体育大会)も全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)も、1月のこの時期にやった方がいいような気がしてきます。「9月入学」は案外、部活の面でもいいのかもしれない――そんなふうに思われてきます。

 しかしそれは違います。
 今の季節(5月)に考えるとそうなってしまいますが、11月にこの計画を見直せば必ずわかるのです。
「こんなに暗い中を朝部活に出かけ、こんなに暗くなってから一人で帰ってくるのか?」


【運動部の生徒は3年生になると引退】
 すべての学校のグランドに照明をつけなくてはならない初期投資も大変ですが維持費も大変です。しかしそれ以上に大変なのは女子部員の登下校の安全確保です。もちろんひとりで行かせるなんてことはできません。一朝事故が起これば取り返しがつきません。

 小平奈緒さんや浅田真央さんのご家族はそんな状況に何年も耐え、朝晩の送り迎えを欠かさなかったのです。寒いスケート場で何時間も待ち続けた日々が、何日もあったに違いありません。しかしそれも小平奈緒や浅田真央の家族だからできたという考え方もできます。なにしろ才能がとびぬけていましたから。
 普通の、凡庸な、選手にすらなれないかもしれない我が子のために、寒い冬の朝晩、毎日送り迎えするのです。それが続けられる親が何人いるか――。

 もちろん実際にはかなりの保護者が頑張ってくれるはずですが、翻って、そうした努力、不安に耐える日々を送らなければならないのは、ひとえに日本に優秀な研究者や留学生を招き、エリートを海外に送り出す「9月入学」を維持するためだと言われたら、それでも頑張り切れるものなのか、そうしたことを要求していいものなのか――。

 結局、全中・インターハイ・甲子園野球の日程は元に戻らさざるを得ないでしょう。
 6月市内大会、7月県大会、8月全国大会です。一カ月くらいは繰り上げてもいいかとも思いましたが、宿泊を伴う全国大会を梅雨の時期に実施するのはやはり困難でしょう。

 5月〜6月は入試の時期ですから、参加できるのは1〜2年生と進学しない(もしくは進路が決まっている)3年生だけということになります。高校生の場合、大学のスポーツ推薦やプロに進むことが決まっている選手は出場できますが進学校の3年生は出られなくなりますから、そのぶん不利となります。中学校3年生は基本的に出られなくなるでしょう。

 中学校の場合、基本的に運動部は3年生になったら引退。2年生は新入の1年生と一緒に全国大会のない新人戦を10月〜11月に行って冬を迎えることになります。
 進学をしても運動を続けようという気持ちのある生徒にとって。1年の空白は大変かもしれません。

(この稿、続く)

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2020/5/12

「学校の年間暦をうしろに5カ月たおしてみた」〜「9月入学」の利点と問題点A    教育・学校・教師


 「9月入学」でほんとうに学校が動いていくのか、
 それは慎重に検討すべき内容だ。
 うかつに変更して、あとで問題が目白押しだったときに、
 簡単にもとに戻せないからだ。
 そこで実際に、学校の年間暦を5カ月間、うしろ倒しにしてみた。

というお話。
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(「小学校」フォトACより)

【金で解決できる些末な、しかし重要ないくつかの問題】
 今、語られているのは2021年の「9月入学(新年度)」の話であって、今年度(2020年度)の入学生についてはすでに手続きを終えていますから問題となりません。また、2021年度「9月入学」の下では、2020年度新入生を含めて全在校生は来年8月まで現学年に留まることが予定されています。それが「9月入学」の基本的構想で、この問題を考える共通の基盤です。

 ただし今のところ他の点については何の提案もなく、来年9月の入学式はいいにしてもその前の2020年度卒業式をいつにするのかという話も出ていません。
 大学4年生に目を向けると、オンライン上とはいえ、すでに終活は終盤に入ろうとしているのです。この人たちが9月にならないと社会に出てこないということになると、企業の計画にも狂いが出ます。3月末に辞める予定の社員にも残ってもらわなくてはなりません。

 学校もまず教員の定年延長について決めなくてはなりません。現学年がそのまま5カ月延長されるのに新卒者は来てくれないのですから、まさか「予定通り4月になりました。60歳の方は退出してください。あなたの空いた席は放置します」というわけにはいかないでしょう。
 本来なら新卒教員と入れ替わっていたはずの5カ月間を、60歳〜61歳の教員が引き続き受け持つのです、耄碌を心配しているわけではありません。教員最終年のこの人たちの給与は、新卒とは比べ物にならないほど高いのです。その予算はどこから持ってくるのでしょう?

 さらにしんどいのは私立学校。就学期間が5カ月延びたからといってその分の授業料を保護者から取るわけにはいきません。これも政府が補填すべき費用ということになります。
 かなりお高くなるはずです。その他、4月に入るはずの収入をあてにしていた教材会社、学習塾などの損失補填も考えなくてはなりません。大変なコストです。

 もちろんそれは本質的な問題ではく、国債をバンバン発行して充てればいいだけのことなのですが、「9月入学」で得られる価値とのコスト・パフォーマンスは微妙だといえるでしょう。
 さらに言えば、「9月入学」で失われる金銭以外のものについても、そのコストはしっかりと計算しておかなくてはなりません。


【日本の学校文化は守れるのかという観点】
 日本の子どもたちにとって、学校は単に国語や算数を教えてもらうところではありません。
 大人が一歩そとに出ればそこに社会があるように、子どもも外に出れば幼稚園や保育園、小中学校、高校といった社会があります。
 大人が社会によって鍛えられるように、大部分の子どもは学校で教科を学ぶとともに人間関係を学び、巡回演劇や巡回音楽(劇団や音楽家が学校を訪問する)を通して質の高い文化に触れ、運動を学びスポーツを愉しみ、他愛ない話をしたり家庭生活を愚痴ったりしながら成長していきます。

 ある種の国のように家に帰ったらそのまま大人と働かなければならない労働社会があるとか、行くべき趣味のグループ、スポーツ団体、ボランティア・サークルなどがあるというわけでもありません。せいぜいが学習塾ですが、そこに濃い人間関係があることは稀です。
 基本的に日本の子どもたちは家庭と学校以外に寄って立つ場所がないのです。

 その家庭と学校には、大きな役割の分担があります。
 いかに都会で環境に恵まれていると言っても休日に子ども演劇に連れて行ったり音楽会に引率したり、あるいは美術館巡りをしたり博物館見学に行ったりする保護者はそう多くありません。
 何かと批判の多い部活動ですが、それがなければ普通の子どもたちは、地域のサッカー・スクールなどに入れてもらうかピアノ教室や絵画教室に通わせてもらわない限り、スポーツや芸術とのかかわりの薄い子になってしまいます。
 
 いま学校が機能を止めたとして、国会議事堂や消防署、警察などの見学に連れていってくれる親はどれほどいるでしょう? 子どもの水難が心配だとスイミングスクールに通わせるくれる保護者、交通安全の実地訓練をしてくれる保護者、ボランティア活動や資源保護の大切さを一緒に活動しながら教えてくれる保護者、あるいはスキーやスケート、潮干狩りや海水浴、それら全部に連れて行ってくれる保護者は、いったいどれくらいいるのか――。
 日本の学校は、そのほとんどすべてを行ってくれるところです。もちろん保護者も役割を担ってくれますが、網羅的・計画的・組織的に行っているのは、日本では学校だけです。

 そう考えると、入学式を9月に移すことで何が変わるのか、失われるものはないのか、しっかりと検討しておく必要があります。
 欧米の学校には社会見学や演劇・音楽鑑賞、児童生徒会、部活動といった特別活動的なものはほとんどありませんから、その点で参考にならないのです。


【小学校は問題が少ないだろう】
 入学式を9月に移して、現在の学校教育がそのまま動けるものなのか検討する、一番簡単な方法は現在の学校暦を5カ月後ろに移してみることです。そのうえで真冬にプール開きをしたり、6月にスキー教室を行ったりといったことのないように調整します。

 なお年度替わりが9月1日になるため春休みは不要となり、その分を夏休みにつけて欧米並みに卒業式は6月末、夏休みは7〜8月の2カ月とします。昨今、学校は熱中症対策に苦慮してきましたからその点では一石二鳥です。
 ただし春休みをなくして前期9月〜12月(4カ月)、後期1月〜8月(8か月)の2学期制にしますとあまりにもいびつですから、1月〜8月の間に一息入れたいと思います。するとちょうどいいことに大型連休があるじゃないですか。
 そこで4月28日を2学期終業式、5月7日を3学期始業式としてメリハリをつけます。3学期だけは実質2カ月しかありませんが、かなり合理的な配置かと思います。

 さて、そうやって整理してみると、小学校の場合は案外、問題が少ないように見えます。

《一般的な小学校の9月始まり年暦》
9月 入学式 1学期始業式 家庭訪問 1年生を迎える会 児童総会 第一回避難訓練 第一回交通安全教室 PTA総会・参観日 身体測定・各種検診・検査(内科・歯科・視力・聴力・エックス線撮影)
10月 PTA作業 地域ボランティア(地区清掃) 巡回音楽会・劇場 各種検診・検査(耳鼻科・心臓・血液) 参観日・親子給食
11月 地域ボランティア(資源回収) 各種検診・検査(眼科・結核) 防災訓練  
12月 参観日 1学期終業式 冬休み
1月 冬休み 2学期始業式 スキー教室
2月 交通安全教室 不審者対応訓練
3月 視力検査 各学年社会科見学 5年生宿泊行事 小6修学旅行 
4月 市内陸上競技大会 参観日  歯科検診  来入児検診 公開授業研究会 2学期終業式
5月 3学期始業式 運動会  市内陸上競技大会  保護者懇談会 
6月 中学校入学説明会 児童会選挙 来入児一日入学 参観日 6年生を送る会 修了式  卒業証書授与式 


 特に座りのいいのは運動会で、5月というのは驚くほど気候に恵まれていて、しかも熱中症の不安は9月〜10月ほどではありません。お母さんたちが紫外線対策をしっかりして見物に来ればいいだけのことです。
 同じ5月の「市内陸上競技大会」というのは、例年夏休みに行われている「全国小学生陸上競技交流大会(いわゆる日清食品カップ)」に向けての第一段階で、その後、上位大会を経て全国へという流れになります。8月といえば6年生はすでに卒業式を終えていますが、身分はまだ小学生ですから問題ないでしょう。

 やや迷ったのは3月の宿泊行事。地域によってはまだ寒いかもしれません。いっそのこと進級したばかりの10月という手もありますが、そのあたりはいかようにも考えられます。海水浴や潮干狩りというわけにはいきません。しかし工夫の仕方はいくらでもあるでしょう。

 年間暦の中でどうしてもうまく入らなかったのが「プール開き」でした。6月の中旬、卒業式前後に無理をして入れても、そのあとしばらくは梅雨のためにほとんど水に入れず、明けて7月〜8月は夏休み、9月は入学式から新年度行事が目白押しですから、とてもではありませんが水泳などしている暇がありません。

 もっとも今やプールは、新設はもちろん維持管理も市町村の財政上の負担になっていてスイミングスクールを頼ろうという話もあるくらいですから、この際、水泳は指導要領から外すのもいいのかもしれません。
 子どもの水難が心配な保護者は自腹を切って子をスイミングスクールに入れればいいだけなのです(と冷淡に言っておきます)。

 問題は中学高校です。

(この稿、続く)



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2020/5/11

「『“9月入学”には何の問題もない』説について」〜「9月入学」の利点と問題点@  教育・学校・教師


 にわかに現実味を帯びてきた「9月入学」説、
 不安材料はいくつもあるが、
 巷間言われているような心配は、
 実はまったくないのかもしれない。

というお話。
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(「入学式の親子」フォトACより)

【“今から8月まで4カ月間休み”なわけではない】

 政府が本格的に「9月入学」を検討し始めたと聞いた保護者達が、まず震え上がったのは“このまま子どもたちが4カ月もウチにいるのか?”という問題のためだったようです。
 別の立場からも、9月に新学期を始めたところで秋、あるいは冬から春にかけて第2波・第3波の感染拡大が始まったら結局、授業時数は足りなくなってしまうのではないか、といった疑問が出ていました。しかし現在まじめに「9月入学」を考えている人たちは、すでに手続きを終えている今年度入学生(2020年度生)の授業を9月から始めるというのではなく、来年度(2021年度)の入学生を9月に受け入れようと考えているみたいです。

 つまり今年の4月に入学した子どもたちは来年8月まで、1年5カ月かけて1年生の学習を行うわけです。すでに失った1〜2カ月、さらには今後予想される再度・再々度の休校分もその中に含んでいこうということです。これだと向こう1年4カ月、いつでも躊躇なく休校指示が出せますし、いくら何でも450日(1年5カ月)かけて200日(1年間の平均的授業日数)がこなせないということはないでしょう。
 他の学年も、同様に1年5カ月かけて現在の学年を履修します。

【1年生が1.4倍ということもない】
 しかしこれだと2021年9月に小学生になるのは誰かということが次の問題になります。
 というのは2021年9月の入学式以前に生まれた6歳以上の未就学児は2020年4月〜2021年8月生れの子で17カ月分、つまり例年の1.4倍もいるのです。これが 案外、由々しき問題なのです。
 1年生の場合はクラスの人数が35名までと決まっています(2年生以上は40名)。したがって1.4倍もの新入生があると教師や教室が足りなくなる場合があるのです。

 例えば新1年生が本来25人しか来ない学校の場合、その1.4倍が入学してきても(25×1.4=35)でぎりぎりセーフですが、26名入る予定の学校は(26×1.4=36.4)、つまり36〜37人が入学してくることになってしまいます。その場合は新入生を二つに分け、1クラス18〜19人の2学級で運営していくことになります。教室が二つ、学級担任も二人必要になります。

 担任の方は金で何とかなるかもしれませんが、教室は簡単には増やせません。余剰教室があれば別ですが、そうでなければとりあえずプレハブで対応するしかありません。それにしても大変な予算です。
 そんなことが全国で同時に起こったらどうなるでしょう。その子たちが中学に上がるとき、高校生になるときも同じことが起きます。高校入試は定員を増やすことで凌げそうですが、就職する際も新卒が1.4倍。それを企業は吸収しきれるのか………。

 ただしこれも腹をくくれば簡単な問題です。「2021年度新入生は、2020年4月2日から2021年4月1日までに生まれた者とする」と決めれば数の上では解決できます。
 4月1日になったら、その日までの1年間に6歳の誕生日を迎えた子たちに向かって、
「あなたたちは今年、小学校の1年生なるんだよ。ただし入学は9月からだけどね」
と言い、翌日の4月2日から9月1日までに6歳の誕生日を迎える子には、
「もうすぐ小学校の入学式だけど、あなたたちは入れるわけじゃないからね。あなたたちは来年まで待つんだよ」
と言えばいいだけのことです。意識や心構えの上ではちょっと面倒くさいですが、プレハブ教室をたくさん作ることを考えれば、かなり割安な話となります。
 これで保護者の不安の大部分は解消されるでしょう。

 今年1年生に上がった子を含めて、子どもたちは緊急事態宣言が解除されればすぐにも学校に行ってくれますし、そのあと1年数カ月かけてゆっくり育ててもらえばいいのです。
 さらに胸をなでおろすのは小学6年生と中学3年生、そして高校3年生の保護者たちです。学習内容も十分に消化されないままの受験に向かわなくてはならないのかと恐れていたはずですから1年数カ月の猶予には大いに歓迎するところでしょう。
 もっとも私には、それでも残る個人的な問題がありますが、それについては後で触れましょう。


【「9月入学」は産学官の悲願】
 9月入学への強い願いは、もともと政財界に古くからあったものです。

 日本の製造業は昔から自社の研究所を開発の主戦場としてきました。パナソニックを始め、ソニー、本田など、日本の優良企業のほとんどは研究熱心な創業者によって自社で独創的な商品開発を行い、成長を果たしてきたのです。しかし現在のように世界的な競争にさらされ、製品も高度化してくると1社だけの英知では対抗しきれなくなります。つぎ込む資金も膨大なものとなっています。そこでアメリカのような産学共同体の必要性が叫ばれるようになるのです。
 企業は大学に資金や人材を提供し、成果を引き出して製品化します。特に国立大学はもともと国からの膨大な予算を与えられていますから、企業資金と合わせると巨大な研究開発も可能となってきます。

 アメリカはこれを非常にうまくやっている国で、日本からも多数の研究者が行っているように世界中の英知を集め、潤沢な資金を与え、さらに世界中から集めた優秀な留学生を使って膨大な研究成果を生み出し、それを企業が利用しています。もう自前で人材を育てる必要もなく、だからアメリカは国民教育に不熱心なのだと揶揄されるほどです。

 しかし同じことを日本がやろうとしても簡単にはできません。まず問題となるのが4月入学。欧米の9月入学との時間差が学者や留学生の移動を妨げるのです。海外の研究者や留学生が日本に来ようとしても、6月の卒業式後に一区切りつけてそれから10カ月も待たないと日本の学校は始まりません。
 「9月入学」はそうした障害を一気に取り去ることになります。

 余談ですが
「THE世界大学ランキング」で日本のトップは東大の36位です(THE2020)。評価基準に「国際性(外国人学生の割合、外国人教員の割合、日本人学生の留学比率、外国語で行われている講座の比率)20%」という項目があって、昔からこの部分が下駄を削られている感じで上位が狙えなかったのです。
 9月入学になるとこの点でも飛躍が望め、うまくすると英米2カ国でほとんどを押さえているベスト20の牙城を崩せるかもしれません。


【会計年度と違っていても構わない】
 最後に、
 これは先週5月2日の記事にコメントをいただくまでまったく気づかなかったのですが、9月入学になると4月始まりの会計年度はどうなるのかという話題もあったようです。
 “どうなるのか”という意味では私の頭にもあったのですが、会計年度を9月始まりにしなくてはならないという発想がまったくなく、会計年度が4月のままで、だから相当やりにくいだろうと考えただけだったのです。そこで調べてみると、驚いたことに9月始まりの欧米諸国では、学校暦と会計年度は必ずしも一致していなかったのです。

 コメントへの返事としても書きましたが、9月入学の国々の会計年度はイギリス・ドイツが4月、フランスは1月と、EU内でもバラバラです。アメリカに至っては、学校は9月、連邦政府の会計年度が10月始まりなのに州政府の大部分は7月始まり、ニューヨーク州は4月、テキサス州9月、アラバマ州・ミシガン州・ワシントンDCは10月と、みんなバラバラなのでした。つまり学校暦と会計年度のずれはまったく問題にならないらしいのです。諸外国の事務手続きを見て倣えばいいだけのことでしょう。
 
 こうして調べてみると、多少の面倒はあるにしても、来年度から「9月入学」に変えていくことには何の問題もないような気がしてきます。

 しかし本当にそうでしょうか?
 明日は具体的に学校がどう変わるか、それを考えていきたいと思います。

(この稿、続く)


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2020/5/2

「更新しました」〜キース・アウト  教育・学校・教師




目の前の子どもの学力が心配だといって9月入学を認めてしまうと、10年後、お宅の子どもは東大に入れないかもしれない。





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