2020/3/20
「マスカレード・ホテル、そして日本の心地よい仏頂面」〜九州旅行に行ってきたD(最終) 旅行
洋風ホテル・チェーンの良いところは、
世界中のどこへ行っても同質のサービスが受けられることだ。
しかし日本のホテル・旅館、その他の宿泊施設は違う。
いったい何が違っているのか――。
6日間の旅を終わって、それが分かったような気がした。
というお話。

(杖立温泉もみじ橋のミーナとハーヴ)
【マスカレード・ホテルの流儀】
東野圭吾原作の映画「マスカレード・ホテル」で、ホテルマンに扮して潜入捜査に入った刑事・新田(木村拓哉)は、チェックアウトの順番を待てない客に憤慨して逆にフロント係の山岸(長澤まさみ)に注意されてしまいます。
新田が、
「間違ってるのはあっちでしょ。順番が来るまで並ぶ、小学生でも守れるルールだ」
と言うと山岸は、
「ここではお客様がルールを決めるものです。だからお客様がルール違反をするなどありえないし、私たちはそのルールに従わなければなりません」
新田がさらに重ねて、
「客の我がままを全部聞いていたら、収集つかなくなる」
そう言うと山岸は、
「そこを何とかするのが私たちの仕事なんです。ホテルマンの仕事、甘く見ないでください」
すべてのホテルマンがそうした理念を共有しているとは思いませんが、ここに西洋式ホテルの、ひとつの考え方が込められているように思いました。

(映画「マスカレード・ホテル」)
サービスというのはサーバント(召使い)と語源をひとつにしていると言います。したがってホテルマンは可能な限り宿泊客の意思に沿うようにしなくてはなりません。しかし客の要望をすべてかなえようとすると新田の言う通り「収集がつかなくなる」。そこで枠組みをつくる。
映画の中でも山岸は、難癖をつけてグレードの高い部屋に変えさせようとする宿泊客の要求は通しても、2万円近いバスローブを持ち出そうとする客に対しては毅然と立ち向かおうとします。ホテルの損害になることは受け入れないのです。
ただし枠内であっても客が100人いれば100通りの要望があるわけで、その多様性にすべて応えて行くわけにはいきません。そこでサービスの規格化が行われます。
「当ホテルは、これと、これと、こういうサービスを提供します。それらについては従業員が誰であっても同じように対応します。また系列ホテルの場合、どの地域、どの国に行っても同様のサービスが提供されることを保証します」
ですから私たちは、リッツ・カールトンならリッツ・カールトン、ヒルトンなら世界中のどこのヒルトンホテルに行っても同じレベルのサービスが受けられると信じて、実際に裏切られることはないのです。さらに言えば、リッツ・カールトンとヒルトンの間でも決定的な違いがあるわけではありません(たぶん)。ホテルマンの仕事自体が規格化されているので、どうしてもそうなるのです。
リッツやヒルトンに遠く及ばないにしても、洋風ホテルである限りどんな小さなところでも、一流のホテルマンと同じであろうという意志はどこのホテルに泊まっても感じられます。
【日本の宿は違う】
翻っておもてなしの国、わが日本の宿泊施設はどうかと言うと、今回の九州旅行の五つの宿はどれも満足でしたが、洋風ホテルのサービスとは根本的に何かが違っているような気がしました。
宿泊客に対する配慮が規格化していないというか、偏りがあるというか、要するに“誰もが80点以上をつけてくれる”ふうにはできていないのです。
典型的なのが杖立温泉「葉隠館」。
宿泊客によっては100点満点の10点もつけてくれないような瑕疵が山ほどあります。
古い、暗い、階段が急すぎて荷物を上げられない。壁が薄くて外部の音が入ってくる。部屋に施錠ができない(できるが難しい)、そもそも駐車場が河川敷なので簡単に車に行き来ができない。極めつけは男女共用のトイレ、しかも和式ばかりです。
安いのはいいが、だったら少しは値上げして改築費に回せば? ・・・そう思う人は必ずいるはずです。
しかしたった10室しかない小さな旅館が、大きな旅館の真似をして近代化してどれほどの意味があるのか。「葉隠館」が普通の旅館になったら、私は行かないし、昭和レトロに酔い痴れるシーナやアキュラはなおのこと行きません。
「葉隠館」は今のままで価値があるのであって、それが嫌な人は行かなければいいのです。

(「葉隠館」の常識的な朝食:大広間にて)
ネットの口コミ欄には不愛想な従業員の話が繰り返し出てきますが、統合失調の既往症のある方でコミュニケーションがうまく取れないのだそうです。そんな人でも雇い続けているのは、ひとつには人手不足で、しかし客室への配膳をやめたくないからでしょう。社会福祉的な意味もあるのかもしれません。そんな事情を知れば、不愛想もまったく気になりません。むしろ応援したいくらいです。
【日本の宿泊施設の、心地よい仏頂面とサービス】
不愛想と言えば初日に泊まった「グランドベース博多」も別の意味で不愛想です。なにしろ愛想を振りまいてくれる人間自体がいないのですから。
電話連絡でタオルやアメニティグッズをもってきたお兄ちゃんと、二言三言かわしたらそれで終わり、以後一切関係者と会うことはありません。
スーパーホテルは24時を過ぎると従業員がいなくなるので、ナンバーロックの暗唱番号を忘れたらコールセンター扱いです。コールセンター扱いだということを知らなかったら廊下で寝ることになるのでしょうか?(たぶんフロントあたりに書いてあると思いますが)。
別府鉄輪のゲストハウスも、最後の福岡のホステルも、そう思ってみるとどこかに不愛想な部分をもっています。
それが日本のおもてなしの基本形なのかもしれません。
単なるイメージですが、東京の築地あたりの寿司屋が、
「えー!? いい年してサビ抜きにしてくれだって? そんなもンはウチにゃあ置いてねえよ。いやならとっとと帰(けえ)ってくんな」
というアレです。
客と主人は五分五分の関係にあって、どちらも相手を選べます。
宿主や亭主・店主は自分の良いと思うものを提示する、それが嫌な人は来なくていい。
もちろん規格化された安定的なサービスが好きだという人もいます。
私だって、
「びっくりしたな、もう。○○店のビッグ・マック、メチャクチャ高かったぞ!」
とか、
「スタバだったら○○店より△△店の方が美味い。でも一番美味いのは××店だ」
では困ります。
しかしそれとは別に「こだわりの一店」といったものもなくてはなりません。店の雰囲気が好きだとか音楽がいいとか、あるいはその店ならではブレンド・コーヒーが美味しいとかいった、「私にとってステキな店」です。
規格化されたものと差別化を進めているもの、その両方がほどよく散りばめられているのが今の日本です。したがって洋風ホテルも和風旅館も、その他さまざまな様式の宿泊施設も同時に存在して、なくなることはありません。
空前にしておそらく絶後の5泊6日(実質的には5泊4日)の家族旅行を通して、私が感じたのはそういうことです。

(杖立温泉の裏通り)
(この稿、終了)
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2020/3/19
「ゲストハウスとホステル」〜九州旅行に行ってきたC 旅行
ゲストハウスもホステルも初めて耳にする宿泊施設ではない。
ゲストハウスは20年以上前からあるものだし、
ユースホステルに至っては私が子どものころからあった。
しかしおそらくそれとは違う。
そんなところから興味津々、出かけた――が、
というお話。

(別府鉄輪温泉地獄めぐり「鬼山地獄」)
【ゲストハウス「ひろみや」】
昭和の匂いの色濃く流れる杖立温泉を出て、由布院駅で「ななつ星」「ゆふいんの森」、赤い「在来線」の3線が並ぶ豪華なプラットホームを眺め、そこから別府鉄輪(かんなわ)温泉に向かいました。目指すは「ゲストハウス『ひろみや』」です。
私の中にあるゲストハウスのイメージは、長期滞在も可能な安い宿泊施設で、建物の中央あるいは入り口付近に広い談話スペースがあって、隣接する炊事施設で調理した食べ物を持ち寄ってそこで自由に食べたりおしゃべりしたり、あるいは自室に持ち帰って食事をしたりできる、家族経営の管理人がいる場合もいない場合もあり、これといったサービスがあったりなかったり、客の多くは外国からやってくるバックパッカーで、日本人も稀にいる、そういうものです。
私のような年寄りの来るところではない、ましてや赤ん坊連れの6人家族なんてまるで似合わない宿泊施設です。
そう考えると気が重くなるのは、何度も申し上げています通り私は英語が苦手でほとんどしゃべれないのに、前職の関係で家族の中では一番外国人に慣れているという厄介な立場にあるのです。ほかに対応する人間がいませんから外国人が来たら私が行くしかない、それでもやたらと出て来られたら困る・・・などと考えながら、しかし私に輪をかけて英語の苦手なシーナが選んだのだから何か違うだろうなとも考えながら良く晴れた冬空の下、気持ちよく別府に向かったのです。
鉄輪は知りませんでしたが別府はもちろん超有名な温泉地。国道を折れて一歩、鉄輪地区に入ると、古い温泉街にありがちな細い道路が複雑に絡み合っていて運転をする身には少々たいへんです。しかし石畳に隠れた暗渠からはモウモウと湯けむりが上がり、宿のそちこちからも蒸気がパイプを通して噴出している様子は温泉情緒満載で、見回すとすぐにそれと分かる外湯や足湯があり、大衆演劇や歌謡ショーでも行われるのでしょうか、「ヤング劇場」という、ベタ過ぎて泣きたくなるような名前の建物もあったりします。まさに温泉中の温泉。“ザ・温泉”、そのものです。
その中にあるゲストハウス、ますます興味深い。

「ひろみや」は「鉄輪むし湯」(外湯のひとつ)の横の、一方通行の坂を下った真ん中付近にありました。家族と荷物を降ろしてから少し離れた駐車場に車を置いて戻って来ると、おそらく昔は土産物か食料品を売っていたと思われる店舗のような空間で、シーナが入館手続きをしていました。壁には手書きの鉄輪観光マップが貼ってあります。
ゲストハウス「ひろみや」の入り口はそこからいったん外に出てすぐ隣にあるのですが、ガラスの引き戸を開いて土間で靴を脱ぎ、急な階段を上り始めたあたりから私はうすうす気づき始めます。そしてやや長めの廊下を歩いて曲がり角にある炊事場を紹介され、使っていい道具類を説明されるに至ってようやく合点するのです。
私のイメージにあったゲストハウス、
長期滞在も可能な安い宿泊施設で、建物の中央あるいは入り口付近に広い談話スペースがあって、隣接する炊事施設で調理した食べ物を持ち寄ってそこで自由に食べたりおしゃべりしたり、あるいは自室に持ち帰って食事をしたりできる、家族経営の管理人がいる場合もいない場合もあり、これといったサービスがあったりなかったり、
――そんな宿泊施設はこの日本には大昔からあったのです。
「湯治宿」――それが当時の名前です。療養のための長期滞在に向いた、湯治場ならでは宿泊施設です。
私は何かうれしくなってしまいました。たしかに外国人の若者がいないだけで(もしかしたらいるときもある)、私のイメージのゲストハウスと定義は一致していたからです。

のちに家に帰って「ひろみや」のウェブサイトを見たら、宿の可愛いロゴに、小さく「ToJi STAY HIROMIYA」と書いてありました。「湯治ステイ」なのです。壁や襖などあちこちにモダンな意匠を凝らして、“湯治宿”が“ゲストハウス”になってまだ一年少々といったところだそうです。
大人4人と幼児2名で一泊16,524円(子どもは計算外かな?)。超一流観光地ということを考えれば格安でしょう。朝食はありませんが、朝、部屋の前に蒸し芋とゆで卵が届けられました。オーナー夫人はとても気さくな人です。
夕食を食べることや温泉巡りをしない私やハーヴのことを考えて、その夜はスーパー銭湯みたいな「ひょうたん温泉」に行きましたが、帰ってから「温オタ(温泉オタク)」三人組は夜の外湯めぐり、朝の外湯めぐりと忙しかったようです。
ゲストハウスひろみや
【ホステル「モンタン博多」】

旅の最後の夜は福岡です。
ところで、ユースホステルと言って、今の若い人はどれくらい分かるのでしょう?
私が高校生のころ、学生が旅先で泊まると言えば国民宿舎かユースホステルと決まっていました。とにかく安く、気楽だったからです。当時のバックパッカー(とは言わなんだが)はユースホステル専用のシーツ(二枚重ねにして縫ったもの)をバッグに入れ、日本全国を回ったものです。
ユースホステルは今でも二段ベッドなどを設置した相部屋が基本で、トイレ・シャワーは共用。朝食は提供されるもののそれ以外の食事は共用のキッチンで自炊できるようになっています。宿泊客同士が交流できる共用スペースが設置されているのもユースホステルの特徴で、宿泊料金は施設ごとに違いうものの素泊まりで3000円程度が普通となっています。
ただしユースホステルは「日本ユースホステル連盟」に加盟した施設のみが名乗ることのできるもので、私たちが泊まったホステルとは異なります。それが同じ“ホステル”であるのは、
「料金が安い、共用スペースが用意されている、24時間対応のフロントが設置されている」
という概念において同じだからです。
“フロントがある”という点でゲストハウスと異なり、“共用のスペース・共用キッチンがある”という点で私たちが初日に泊まったアパート・ホテルとも異なっているわけです。
旅行の最終日に泊まった「モンタン博多」は、福岡空港からひとつ目の「東比恵」駅から徒歩5分というとても便利な場所にある築30年8階建ての集合住宅を、2017年にリノベーションして開業したホステルです。
1階を共用スペースとして、2階以上に71の客室があり、それぞれ和室だったりダブルベッド、ツイン、あるいは二段ベッドの部屋と様々に様式を変えて取り揃えてあります。もともとワンルームマンションだったので、各部屋にそれぞれキッチン、バス・トイレもついています。
部屋の構造は旅行の初日のアパート・ホテル「グランド・ベース博多」と同じですが、「グランド・ベース博多」が最初からホテルとしてつくられたために多少広くて豪華なのに対し、「モンタン博多」は普通のワンルーム・マンションを基礎としていますからやや見劣りする感じもあります。
ただしそのぶん宿泊費も安く、連休最終日の夜ということもあるのか大人3人で9639円。今回の旅行の最安値でした。しかもこれに、パンと飲み物だけとはいえ、朝食までついているのです。

この日は国立大学の二次試験ということで、朝食のための共有スペースには制服姿の親子連れも目立ちました。しかしそれ以外は十数人と客も少なく、とてもではありませんが71室もある宿泊施設の朝食とは思えません。
もしかしたら韓国・中国からの観光客を当て込んでの施設なのかもしれません。そうだとしたら今はたいへんです。
モンタン博多
(この稿、続く)
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2020/3/18
「圧巻! 昭和! 葉隠館!」〜九州旅行に行ってきたB 旅行
3日目は阿蘇の杖立(つえたて)温泉。
山間の古い温泉町の、とてもとても古い旅館「葉隠館」。
薄暗く急な階段を上った先の客室は、
床がきしみ、障子の開け閉めも悪い。
トイレも男女共用。
しかしそこには大変な秘密があった。
というお話。

(杖立温泉の、左から娘のシーナ、一歩前を歩いている孫のハーヴ、妻のミーナ、息子のアキュラ、もう一人の孫のイーツはシーナの胸の抱っこ紐の中に納まっている)
【杖立温泉葉隠館】
杖立温泉は熊本県阿蘇郡小国町の山間にあります。
古い温泉街で谷が狭く、宿は駐車場が置けないので杖立川の河川敷をコンクリートで固め、そこを公共の駐車場としているくらいです。私たちの泊まった葉隠館は国道とは反対側にあるために川を渡っての駐車だったのですが、幅は十分あるとはいえ欄干のない橋を渡るのは心穏やかではありませんでした。
5泊の九州旅行のうち、夕食がついているのはここだけです。
「すごく豪華な食事なの」
シーナはそう言いますが、着いてまず思ったのは建物の古さ。
階段は急で内部は暗い。部屋に入ると畳の床がギシギシと鳴り、立て付けの悪い障子は動かすのが容易ではありません。
トイレは今どき男女共用。和式がほとんどで洋式は4階建ての建物の3階にひとつあるだけです。
連休中だというのに1泊2食付きで一人8千円弱ですから文句の言えないところですが、それにしても小金持ちの両親が付いているのだから、シーナももう少し豪華なところを選べばよかったのにと内心、思わないわけでもありませんでした。
ただし私以外の「温オタ(温泉オタク)」3人組(妻・娘・息子)は満足そうで、到着するいや否や8カ月の赤ん坊のイーツを私に預けて、4歳のハーヴを連れて外湯めぐりに出かけました。
夕飯までには戻って来ましたが、シーナの言う「豪華な夕食」は珍しく客室への運び込み。旅館の食事を客室でというのもほとんど何十年ぶりかのことです。
ただし座卓に並べられた食事はとてもではありませんが「豪華」と言えるようなものではなく、あっという間に終わってしまいます。
やはり8千円弱はこんなものかと思っていると・・・実はそれは前菜で、そのあと次から次へと見たことのないような料理が出てくるのです。次から次へ、また次から次へ・・・。
都会だったら料理だけで8千円と言われても不思議のない豪華さです。
私は食べ物には頓着しない性格なので何が出ていたのか、何が特に珍しかったのか美味しかったのかはトンと覚えていないのですが、とにかくすごかった。
――しかしそれにしても建物はボロい・・・。
するとシーナは、極めつけの言葉を発するのです。
「昭和レトロで若い人にとても人気なの」
それで得心しました。
「安くて食事が豪華」だけでは今ひとつ満足感がなかったのですが、「昭和レトロ」と言われれば評判のほどが分かります。私にとっては単に古いだけの建物や風景が、平成・令和の世代から見るとよく保存され、かつ今も利用されている文化財なのです。
確かにそれだと価値がある。

葉隠館正面

二階ロビー

客室

黄金のトイレ
【昭和の温泉街、朝の風景】
翌朝、出発前に散歩に出ると「昭和レトロ」の感はさらに増します。
古いと言っても明治大正を彷彿とさせるような古さではなく、モルタル造りの建物も多く、昭和40年前後の高度成長期の雰囲気を残す中途半端な古さです。
中心の道は川に沿って走る道路なのですが、車もすれ違えないような細さ。そこからさらに細い裏小路が山の方に向かっていて、密集した建物の間の急坂を上っていくと、いくつかの小さな旅館、土産物屋、竹細工の工房などがあったりします。その奥には小さな祠や共同浴場も見えて、ちょっとした冒険気分です。雰囲気で言えば「千と千尋の神隠し」の「湯屋」近辺をぐっと凝縮して小さくしたような場所です。
いったん坂を下って表通りに戻り、川の堤防にしつらえてある“蒸し場”を使わせてもらうことにしました。シーナが下調べをしてあったので、前日、道の駅で大量の野菜を買って自宅に送った際に一部残しておいたのです。そこに旅館の朝食で出た生卵も食べずに持ってきていたので、サツマイモやシイタケとともにセイロに入れさせてもらいました。所要時間15分だそうです。
時間がありましたので“蒸し場”はそのままにして、杖立川の両岸を渡す橋のひとつ、「もみじ橋」に向かいます。
屋根の付いたこの橋の欄干や鴨居にはびっしりと絵馬が飾られ、私の知る“昭和”ではないのですが独特の雰囲気があります。
そこから、前夜、息子のアキュラがカップルの携帯ライトに全裸を晒してしまった元湯(洞窟風呂)に降りる道が下っています。
私たちはそれから河川敷の駐車場をぐるっと回ってもとの“蒸し場”に戻り、車の横で、熱々の野菜や卵を頬張りました。
私以外の「温オタ」三人組が前日、それぞれに面白スポットを見つけていてくれたので効率よく回れました。
繰り返しになりますが、私にはさほどの風景ではありません。しかし昭和を垣間見たい人にとってはたまらない風景であることは間違いなさそうです。
アキュラの感想だと、
「今まで行った温泉の中で、一番いい」
選んだシーナも満足そうでした。

裏小路

共同浴場

蒸し場

もみじ橋

元湯へ降りる道と元湯(洞窟風呂)

朝日の差し込む杖立温泉
(公式サイト)杖立温泉 葉隠館
(参考)たびらい
(この稿、続く)
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2020/3/17
「アパートホテルとスーパーホテル」〜九州旅行に行ってきたA 旅行
2月の下旬に家族で九州旅行に行ってきた。
前後が移動日なので実質的には5泊4日だったが、
5泊の宿のいちいちが面白かったので報告する。
今日はその1回目。
というお話。

(太宰府天満宮前のシーナとイーツ)
【シーナの作った、格安の凝った宿泊計画】
今回の旅行の発起人で計画者でもあったのは、東京に住む娘のシーナでした。この娘は両親に似ず、あまりケチなところがない、と言うよりは意図的に親を反面教師として、使うべきところには金を使う意欲が見えます。
ただし私たちのような30年以上も二馬力でガンガン働いて遊ぶこともしなかった人間と比べると、はるかに貧乏なので旅行計画といっても派手なものにはなりません。
さらに旅行本体よりも計画の方が好きといった娘なので、安いなりにかなり凝った宿泊計画ができました。泊まった宿の形式、というかあり方が、全部違うのです。
もちろん世の中にはものすごくたくさんの宿泊施設の形があって、今回の旅行の中には高級ホテルもペンションも、いわゆる民泊もカプセルホテルもありませんからあらゆる形式を踏査したというわけではありませんが、それらのほんの一部だとしても、けっこうおもしろかったので紹介します。
【アパートホテル「グランドベース博多」】

フロントもなく従業員も常駐せず、ナンバーロックを解錠して入るところは普通のアパートのようです。中の間取りもワンルームマンションと同じで、リビングルールひとつに小さな台所、バス・トイレがついています。

窓際にダブルベッドとシングルベッドが2台ずつ、つまり6人が余裕をもって泊まれるようになっていて、その手前に大きなソファーのセットが置かれています。
間接照明の落ち着いた雰囲気で、大きな壁掛けテレビがありました。
驚くべきはこれで大人3名、素泊まりで1万2000円なのです。もちろん安さだけで言えばさらに安価なところはあると思いますが、豪華さを考えるとかなり満足の行くものでした。
ネット予約のカード払い。ホテルに近づいたところで電話連絡をすると建物に入るためのロックナンバーと部屋に入るための番号を教えてくれます。中に入ってしばらく待つと、タオル類が届けられ、そこで人数等の確認が行われるのです。
一泊の宿として使うのもいいですが大人数(6名まで)でやってきて、何日か連泊して、あちこちを観光する足場とするのもいいでしょう。自炊などすればかなり安く抑えることができます。
部屋数は全部で三つだけのようでした。
なお、「アパートホテル」という言い方はシーナがどこからか拾ってきたものらしく、私の調べた範囲にはありませんでした。しかしイメージとして合うので、そのまま使用しました。
「グランドベース博多」
【スーパーホテルLohas熊本天然温泉】
二日目は熊本市内のスーパーホテル「Lohas熊本天然温泉」。
スーパーホテルは一般名称ではなく、全国に150近い店舗を展開する「株式会社スーパーホテル」傘下のビジネスホテルの総称です。

Wikipediaで見るとさまざまな工夫――ベッド下の掃除が省略できるように脚をなくして天井も高く見せる、ドアは暗証番号式のオートロックのためキーの返却がない(したがってチェックアウト時に従業員が対応しなくて済む)、従業員も7:00〜10:00、15:00〜24:00の運営時間以外は対応しないなど――による徹底したコスト削減で低料金を実現している、といった説明があります。
昔、日曜日朝のTBS生活情報バラエティ番組「がっちりマンデー!!」で扱われたことがあると思うのですが、一部店舗では「天然温泉大浴場」を“売り”にしていて、それで他のビジネスホテルと差別化を図り、人気を博しています。しかしこの大浴場、考えようによってはホテルにこそメリットがありそうです。
なぜならホテルの洋式バスでは、100人泊まれば100回お湯が入れ替えられてしまいます。1回200ℓと考えても、その水道費・光熱費はとんでもない額です。
それが一発温泉を掘り当てれば、それこそ湯水のように使えるわけです。
私たちが泊まった熊本のスーパーホテル「Lohas熊本天然温泉」は加熱しているようですが、それでも各部屋で使われるよりは安上がりでしょう。しかも「天然温泉大浴場」の大看板は人を引き付けます。
「温オタ(温泉オタク)」の妻も娘のシーナも、ビジネスホテルであるまじき2度風呂・3度風呂で満足そうでした。私も、浴槽の中で体を洗ってシャワーで流す洋式バスなんて大嫌いですから、大浴場はありがたい。
ただし注意しなくてはならないこともあります。
徹底したコスト削減で従業員とのやり取りはチェックインの時の一回だけ――が原則ですから、完全前金制で心づもりがないと困ることがあるのです。
私たちの場合は企画者のシーナとは別行動で夫婦が先にチェックインしたのですが、ネットで前払いしてあると思い込んでいたのに支払いを求められて少し戸惑いました。
すぐ後に来た紳士も団体で申し込んであったらしく、遅れてくる責任者と連絡が取れないと困っていました。自分の支払い分くらいは持っているにしても、同室者の分まで払っていいものかどうか迷ったのでしょう。一人の名前で数部屋押さえてあるというような場合だったら、全額前払いしないと一人も入れなかったのでしょうか?
そんなことはないと思うのですが、ちょっと迷います。
宿泊費は朝食をつけてひとり6000円(税込み)。夕飯は近くのお店で食べるつもりだったのですが、「Lohas熊本天然温泉」は城下町にありがちな町割りの、寺町のど真ん中。繁華街までは15分程度歩かなくてはならず、小さな子ども連れとしては面倒で結局ホテルのレストランを使いました。
美味しかったが少々割高な感じもしました。
スーパーホテルLohas熊本天然温泉
(この稿、続く)
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