2018/5/28

「かくて幕は開かれた」〜日大アメフト事件の憂鬱2  教育・学校・教師


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PhotoAC

【動機が二重にない】
 日大アメフト部事件について、加害選手の説明が具体的で理路整然としているのに対し前監督・前コーチの証言内容が支離滅裂なため、メディアなどの扱いはおおむね二人がウソをついている、加害選手は明らかにその指示を受けて凶行に及んだ、ということになっています。
 しかし私は「コミュニケーション不足のために元監督・元コーチの意図が伝わらなかった」とする日大側の説明に現実味を感じています。
 なぜなら暴行に動機がないからです。
 
 これが一年前の春なら考えられないこともありません。日大アメフト部は30年近くも全国制覇から遠ざかっていましたから、“どんな手を使ってでも優勝するつもりだった”と言われればそんな気もしないわけではありません。しかし日大は昨年の大会で優勝してしまっているのです。それも大変きれいな試合運びで成し遂げてしまった。
 ですから今年になって突然変身し、無茶なプレーをするようになる必要などどこにもないのです。
 
 さらに仮に本気で相手にケガを負わせるつもりだったとしても、自軍のスーパーエースにやらせる必要はなかった。控えは100人以上いるのです。かつての私のように捨て駒にしていい選手もいくらでもいたはずです。それにも関わらず全日本にも選抜されるような優秀な選手を使ったのは、そこに別の意図があったと考えるしかありません。
 それはおそらく、前監督や前コーチの証言する通り、当該選手が10ある力のすべてを出し切れるような、一皮むけた、強い競技者へ成長することです。


【すれ違う思い】
 5月6日、関西学院大との交流戦へと向かいながら、後に加害者となる日大ディフェンシブエンドは“ほんとうにアレをやらなければならないのか”と思いつめながら歩いていました。
 同じ道を前監督や前コーチは、試合全体や選手のことを考えながら、頭の隅では当該選手が、思惑通り一段高いレベルで活躍できるかどうか、期待と不安を織り交ぜながら気にしていたのです。
 同床異夢と言うにはあまりにも残酷な道行きです。

 会場についてスターティングメンバーに名前のないことを知った加害選手は、前コーチのところに確認に行きます。コーチは「今から監督のところへ行って“相手のクォーターバックを潰してくるから出してくれ”と言ってこい」と助言します。
 ここで大切なことは“自分から申し出る”ということです。巷間言われるような“犯罪的行為の責任を引き受けさせる”といった意味ではなく、子どもを成長させようとする際の鉄則です。“言われてやる”のでは弱いのです。

 加害選手は助言に従って前監督のところに行き、「やらなきゃ意味ないよ」という言葉を受け取ります。
 更にコーチのもとに戻り、「リード(DLの本来のプレーのこと)をしないでQBに突っ込みますよ」と確認すると、「思い切りいってこい」と声がかかります。
 一見かみ合っているように見える会話が、実はまったくずれていることに誰ひとり気づいていません。

 もう退路は完全に断たれました。選手は指示を機械的に達成するしかありませんでした。
 相手のクォーターバックを1プレー目で潰すのです。たとえターゲットが彼から遠い方向(右のディフェンシブエンドからすれば向かって左方向)に走ろうとも、“1プレー目に潰す”は「絶対」ですからどこまでも追いかけて行ってやるしかない――。そして実際にその通りになりました。
 それがあの無様な違反タックルです。


【見ていなかった人、見ていた人】
 その瞬間を前監督が見ていなかったという説明を、私は信じていいと思っています。
 なぜなら反則の瞬間を見ていた人は、グランド上にも観客席にも、ほとんどいなかったからです。
 関西学院大の監督やコーチでさえも見ていなかった、見ていれば当然その場で猛烈な抗議をしていたはずです。被害を受けた選手の家族も現場で観戦していましたが、この人たちもその瞬間は見ておらず、後でVTRで確認することになります。
 ホイッスルを鳴らしてイエローフラッグを投げ込んだ審判も、当該選手があれほどの距離を走ってきたことには気づいていません。
 その場にいたほとんど全員が、ボールの行方を目で追っていたのです。

 さらに試合終了後、前監督は負け試合にもかかわらず終始陽気で、「あれは俺がやらせたんだ」と語ったりしています。もし最初の反則を見た上でああした発言をしたとしたら、それはあまりにも常軌を逸しています。相手チームの選手が半身不随になるかもしれない危険プレーの責任は、そう簡単に取れるものではないからです。
 前監督の念頭には2番目3番目の反則しかなく、そこに当該選手の成長を感じて陽気に話しているのです。やり遂げてくれた、やはりオレのやり方は正しいのだと嬉しかったのです。

 ただし一部の人々、当該選手の取材に来ていた専門誌の記者や、日大のディフェンス担当である前コーチは見ていました。そして前コーチは凍りついたはずです。
 少しでもアメフトに携わった者にはありえない事態です。彼が予想していたものとはまったく異なる結果に、全コーチはしばらく固まったままだったと言います。
 しかしそれでも試合を止めて、選手を呼び寄せることはしなかった。

 理由はいくつもあって、一瞬凍りついていたために対応が遅れた、自らも言っているように引き続き選手を試合に出してあげたかった――その中には“生まれ変わったかもしれない彼のプレーをもっと見ていたかった”という欲望もあったのかもしれません――そしておそらく、選手を下げるためには監督に事情を説明しなければならないのですが、それがどうにもためらわれたからです。

                                (この稿、続く)


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