2020/11/11

「4日かかってよかった」〜アメリカ大統領選挙とパンドラの箱B  政治・社会・文化


 ジョー・バイデンの勝利宣言は実に平凡で、だからこそ久しぶりに感動的なものだった。
 ドナルド・トランプがウケ狙いで次々と繰り出す政策や発言のために、
 多くの人々が苦しみ、憎しみ合うことになったが、
 選挙の勝敗に4日もかければ、たいていの人々はとりあえず休みたくなる

という話。
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(写真:フォトAC)

【平凡だから感動できる勝利宣言】

 今月8日のジョー・バイデン次期大統領の勝利宣言は意義深いものです。彼はこんなふうに言いました。
「我々は歴史上最も幅広く多様な連合を組んだことを誇りに思う。民主党、共和党、独立派、急進左派(プログレッシブ)、穏健派、保守派。若い人、年老いた人、都市部、地方に住む人、ゲイの人、そうでない人、トランスジェンダー、白人、ラテン系、アジア系、米国先住民の人。特にこの選挙活動が停滞していたときに、アフリカ系米国人の共同体が私のために立ち上がってくれた。
 彼らはつねに私を支えてくれ、私もあなた方を支える。私は選挙活動の初めから、この選挙戦を米国を代表するものにしたいと言ってきたし、そうした。今度は、政権をそのようなものにしたい。
 トランプ米大統領に投票した人々は今夜、落胆しているだろう。私自身も(大統領選への立候補で)2度撤退している。今度はお互いに機会を与えよう。暴言をやめて冷静になり、もう一度向き合い、双方の主張に耳を傾けるべきだ。前に進むために、互いを敵とみなすのはやめなければいけない。私たちは敵ではない。私たちは米国人だ。
 聖書は全てのことに季節が巡っていると教えてくれる。立て直し、稲穂を刈り取り、種をまき、傷を癒やす時だ。米国の傷を癒やす時が来た。
 今や選挙戦は終わった。人々の意志は何か。私たちの使命は何か。私は、米国民が私たちに、品位と公正の力を導くことを求めたと信じている。私たちの時代の大きな戦いのなかで、科学と希望の力を導くことを求めた。ウイルスを制御し、繁栄を築き、あなたたちの家族の健康を守るために戦う」

 長い引用になりましたが格調の高い、立派な宣言文です。しかしこんなことは歴代の大統領はみんな言ってきたことです。2008年の大統領選挙で敗れたジョン・マケインですら同じことを言っていました。
 
 実際にできるかどうかわからない、しかし私たちの目指すのはそこだ。移民によって始まり、今も多く移民を受け入れることでエネルギーと多様性を更新してきたこの国は、それ故に常にもっとも壊れやすい国なのだ。だから今こそ、
暴言をやめて冷静になり、もう一度向き合い、双方の主張に耳を傾けるべきだ。前に進むために、互いを敵とみなすのはやめなければいけない。私たちは敵ではない。私たちは米国人だ。

 歴代の大統領たちは必ずそうした高い理念を掲げ、実際にそのようにしてきました。そうした歴史の流れを、一刀両断で断ち切ってしまったのがドナルド・トランプという怪物なのです。


【ドナルド・トランプはビートたけしだ】
 合衆国が国民のあり余る欲望とエネルギーを制御するために持ち出した高邁な理念、政治的・社会的公正さ、中立的な言葉や表現(ポリティカル・コレクトネス)に対して、
「もう、ウンザリだ」
といってしまえばこの国は終わりです。たちどころに弱肉強食の「アメリカン・サファリ」になってしまいます。
 ドナルド・トランプは実際に合衆国をそのような国にしてしまいました。
「白人至上主義」は裏を返せば、
「黒人やヒスパニック、アジア系やその他の人々とオレたちが平等なわけがねーじゃねえか」
という人々の、体のいい看板です。それをトランプは野放しにし、あと押しした。

 私が今年になって覚えた最も恐ろしい言葉は「BLM(Black Lives Matter)」です。だって「黒人の命は大切だ」なんて当たり前ではないですか。
 こんな言葉を人権教育の時間に日本の子どもたちに聞かせたら、みんなキョトンとして授業になりません。担任教師が大真面目に「実は、地球は丸い」というのと同じくらいばかげていて冗談かと思うくらいです。それを合衆国では堂々と掲げ、街を行進しなくてはならないのです。その様子はやはり尋常ではありません。

 平然と人間の命や環境を軽んじた発言を繰り返す、己の意にそわない主張はすべて「フェイクニュース」と切り捨てていく。敵とみなした人間や組織には自分に都合の良いレッテルをはり、ありとあらゆる罵声を浴びせる。
 息をするようにウソをつき、それがばれても恥じることがない。誠実な人々はそれを暴こうとするが、ひとつ暴いているうちに五つくらいのウソをつくので追いつかない。
 やがてそれが累積していくと話半分に聞いていた人たちも十分の一くらいは信じるようになってしまう。しかしその十分の一尾真っ赤なウソなのだ。

 その上ウソはいつの間にか個性のようになってしまい、「ドナルドだからしょうがない」と多くの人が放置し始める。
 女性蔑視の発言がすっぱ抜かれたあとで「私ほど女性を尊重している人間はいない」と言っても誰も抗議しない。

 かつて私は「ドナルド・トランプはビートたけしと理解せよ」(2016.11.11 アゴラ)というネット記事を読んでひどく合点したものですが、ドナルド・トランプの4年間は、どうやったら人を喜ばせ、熱狂させることができるか、それだけを考えて過ごした年月だったのかもしれません。

 ビートたけしが「死ね! このクソババア!」と叫ぶのを観客席のお年寄りが手を叩いて喜んでいるようなものです。ただ違うのは、ビートたけしの“クソババア”はいったん演舞場の外に出れば普段の生活に戻れるのに対し、トランプ劇場の観客は恩恵を受ける者と被害を受ける者とに分かれてしまうことです。4年たって事態が笑って済まされないところまで来ていることに気づいた人々が、今回はバイデンに投票しました。


【4日かかってよかった】
 今回の選挙を通してアメリカの分断はさらに高まったと言われ、一時はどちらが勝っても暴動は避けられないと言われていましたが、いまのところ大きな問題はなさそうです。
 なにしろ大勢が決まるまで4日もかかったのです。フロリダはどうだ、ミシガンはどうだとそのたびに一喜一憂して快哉を叫んだり落胆したり、ジェット・コースターに4日間も連続して乗れば、双方、疲れ切ります。そして熱狂から醒め、夢からも醒めます。

 ただしこの4年間に合衆国を渦巻いた怒り、妬み、憎しみ、蔑み、暴力、破壊、欺瞞、対立等々をトランプの開いたパンドラの箱に再び戻し、正義・公正・人権の蓋で封印できるかどうかはかなり厄介な仕事になると思います。

(この稿、終了)

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