2020/5/11

「『“9月入学”には何の問題もない』説について」〜「9月入学」の利点と問題点@  教育・学校・教師


 にわかに現実味を帯びてきた「9月入学」説、
 不安材料はいくつもあるが、
 巷間言われているような心配は、
 実はまったくないのかもしれない。

というお話。
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(「入学式の親子」フォトACより)

【“今から8月まで4カ月間休み”なわけではない】

 政府が本格的に「9月入学」を検討し始めたと聞いた保護者達が、まず震え上がったのは“このまま子どもたちが4カ月もウチにいるのか?”という問題のためだったようです。
 別の立場からも、9月に新学期を始めたところで秋、あるいは冬から春にかけて第2波・第3波の感染拡大が始まったら結局、授業時数は足りなくなってしまうのではないか、といった疑問が出ていました。しかし現在まじめに「9月入学」を考えている人たちは、すでに手続きを終えている今年度入学生(2020年度生)の授業を9月から始めるというのではなく、来年度(2021年度)の入学生を9月に受け入れようと考えているみたいです。

 つまり今年の4月に入学した子どもたちは来年8月まで、1年5カ月かけて1年生の学習を行うわけです。すでに失った1〜2カ月、さらには今後予想される再度・再々度の休校分もその中に含んでいこうということです。これだと向こう1年4カ月、いつでも躊躇なく休校指示が出せますし、いくら何でも450日(1年5カ月)かけて200日(1年間の平均的授業日数)がこなせないということはないでしょう。
 他の学年も、同様に1年5カ月かけて現在の学年を履修します。

【1年生が1.4倍ということもない】
 しかしこれだと2021年9月に小学生になるのは誰かということが次の問題になります。
 というのは2021年9月の入学式以前に生まれた6歳以上の未就学児は2020年4月〜2021年8月生れの子で17カ月分、つまり例年の1.4倍もいるのです。これが 案外、由々しき問題なのです。
 1年生の場合はクラスの人数が35名までと決まっています(2年生以上は40名)。したがって1.4倍もの新入生があると教師や教室が足りなくなる場合があるのです。

 例えば新1年生が本来25人しか来ない学校の場合、その1.4倍が入学してきても(25×1.4=35)でぎりぎりセーフですが、26名入る予定の学校は(26×1.4=36.4)、つまり36〜37人が入学してくることになってしまいます。その場合は新入生を二つに分け、1クラス18〜19人の2学級で運営していくことになります。教室が二つ、学級担任も二人必要になります。

 担任の方は金で何とかなるかもしれませんが、教室は簡単には増やせません。余剰教室があれば別ですが、そうでなければとりあえずプレハブで対応するしかありません。それにしても大変な予算です。
 そんなことが全国で同時に起こったらどうなるでしょう。その子たちが中学に上がるとき、高校生になるときも同じことが起きます。高校入試は定員を増やすことで凌げそうですが、就職する際も新卒が1.4倍。それを企業は吸収しきれるのか………。

 ただしこれも腹をくくれば簡単な問題です。「2021年度新入生は、2020年4月2日から2021年4月1日までに生まれた者とする」と決めれば数の上では解決できます。
 4月1日になったら、その日までの1年間に6歳の誕生日を迎えた子たちに向かって、
「あなたたちは今年、小学校の1年生なるんだよ。ただし入学は9月からだけどね」
と言い、翌日の4月2日から9月1日までに6歳の誕生日を迎える子には、
「もうすぐ小学校の入学式だけど、あなたたちは入れるわけじゃないからね。あなたたちは来年まで待つんだよ」
と言えばいいだけのことです。意識や心構えの上ではちょっと面倒くさいですが、プレハブ教室をたくさん作ることを考えれば、かなり割安な話となります。
 これで保護者の不安の大部分は解消されるでしょう。

 今年1年生に上がった子を含めて、子どもたちは緊急事態宣言が解除されればすぐにも学校に行ってくれますし、そのあと1年数カ月かけてゆっくり育ててもらえばいいのです。
 さらに胸をなでおろすのは小学6年生と中学3年生、そして高校3年生の保護者たちです。学習内容も十分に消化されないままの受験に向かわなくてはならないのかと恐れていたはずですから1年数カ月の猶予には大いに歓迎するところでしょう。
 もっとも私には、それでも残る個人的な問題がありますが、それについては後で触れましょう。


【「9月入学」は産学官の悲願】
 9月入学への強い願いは、もともと政財界に古くからあったものです。

 日本の製造業は昔から自社の研究所を開発の主戦場としてきました。パナソニックを始め、ソニー、本田など、日本の優良企業のほとんどは研究熱心な創業者によって自社で独創的な商品開発を行い、成長を果たしてきたのです。しかし現在のように世界的な競争にさらされ、製品も高度化してくると1社だけの英知では対抗しきれなくなります。つぎ込む資金も膨大なものとなっています。そこでアメリカのような産学共同体の必要性が叫ばれるようになるのです。
 企業は大学に資金や人材を提供し、成果を引き出して製品化します。特に国立大学はもともと国からの膨大な予算を与えられていますから、企業資金と合わせると巨大な研究開発も可能となってきます。

 アメリカはこれを非常にうまくやっている国で、日本からも多数の研究者が行っているように世界中の英知を集め、潤沢な資金を与え、さらに世界中から集めた優秀な留学生を使って膨大な研究成果を生み出し、それを企業が利用しています。もう自前で人材を育てる必要もなく、だからアメリカは国民教育に不熱心なのだと揶揄されるほどです。

 しかし同じことを日本がやろうとしても簡単にはできません。まず問題となるのが4月入学。欧米の9月入学との時間差が学者や留学生の移動を妨げるのです。海外の研究者や留学生が日本に来ようとしても、6月の卒業式後に一区切りつけてそれから10カ月も待たないと日本の学校は始まりません。
 「9月入学」はそうした障害を一気に取り去ることになります。

 余談ですが
「THE世界大学ランキング」で日本のトップは東大の36位です(THE2020)。評価基準に「国際性(外国人学生の割合、外国人教員の割合、日本人学生の留学比率、外国語で行われている講座の比率)20%」という項目があって、昔からこの部分が下駄を削られている感じで上位が狙えなかったのです。
 9月入学になるとこの点でも飛躍が望め、うまくすると英米2カ国でほとんどを押さえているベスト20の牙城を崩せるかもしれません。


【会計年度と違っていても構わない】
 最後に、
 これは先週5月2日の記事にコメントをいただくまでまったく気づかなかったのですが、9月入学になると4月始まりの会計年度はどうなるのかという話題もあったようです。
 “どうなるのか”という意味では私の頭にもあったのですが、会計年度を9月始まりにしなくてはならないという発想がまったくなく、会計年度が4月のままで、だから相当やりにくいだろうと考えただけだったのです。そこで調べてみると、驚いたことに9月始まりの欧米諸国では、学校暦と会計年度は必ずしも一致していなかったのです。

 コメントへの返事としても書きましたが、9月入学の国々の会計年度はイギリス・ドイツが4月、フランスは1月と、EU内でもバラバラです。アメリカに至っては、学校は9月、連邦政府の会計年度が10月始まりなのに州政府の大部分は7月始まり、ニューヨーク州は4月、テキサス州9月、アラバマ州・ミシガン州・ワシントンDCは10月と、みんなバラバラなのでした。つまり学校暦と会計年度のずれはまったく問題にならないらしいのです。諸外国の事務手続きを見て倣えばいいだけのことでしょう。
 
 こうして調べてみると、多少の面倒はあるにしても、来年度から「9月入学」に変えていくことには何の問題もないような気がしてきます。

 しかし本当にそうでしょうか?
 明日は具体的に学校がどう変わるか、それを考えていきたいと思います。

(この稿、続く)


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