2019/12/3

「会議は延びる、ひとは疎外される」〜教員の働き方改革で教師がいなくなるA  教育・学校・教師


 「変形労働時間制」で会議は延び 実働時間は増える 
 それ以上に問題なのは
 育児や介護を抱えた教員が疎外されることだ
 若い教職員はそれに耐えられない

という話。
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(「夕暮れの日差しが差し込む廊下」PhotoACより)

【会議は延びる】
「変形労働時間制」が実施された場合、制度の変更ですから当然、歓迎する人とのそうでない人が出てきます。
 歓迎する人から言えば、まず副校長先生もしくは教頭先生です。これら中間管理職は職員会議の司会をしていますが実はいつも内心ヒヤヒヤしているのです。審議項目が多すぎて勤務時間内に収まりきらないと心配なのです。

 もちろん職員会議は超勤4項目(時間外勤務を命じることのできる4つの特例)に入っていますから校長先生にお伺いを立てたうえでいくらでも延長できるのですが、いわば伝家の宝刀、やたら振り回すと職員との人間関係を悪くします。ですからテキパキと進行しなければならないのですが、これがなかなかうまくいかない。
 先生というのはもともとしゃべりたがりですし、苦労して作ってきた資料は隅々まで説明したい――なかなか抑えが利きません。それが「変形労働時間制」適用となると1時間半も延長できるのですからずいぶん楽になります。もっとも職員会のあと、先生たちは自分の仕事をしなくてはなりませんから無暗に延ばせばやはり恨まれることにはなりますが。


【年来の不安は解消されるが実働時間は延びる】
 しかしほんとうに「変形労働時間制」の恩恵を被るのは中学校の部活顧問たちでしょう。これまでサービス残業の思いが強かった部活指導の大部分が勤務時間の中に入ってくるわけですから、「やらされている」感からはだいぶ解放されます。そしてそれよりも重要なことは、彼らが、
「これでやっと堂々と部活指導に行ける」
と考えることです。

 実はほとんどの部活顧問は気持ちの隅に怯えをもって毎日を過ごしてきたのです。それは、

「自分が会議で現場にいないときに大きな事故がおこったらどうしよう」
とか、
「会議の最中に部員同士の暴力事件が起こったりいじめが始まったりしたらどうしよう」
とかいった怯えです。
 実際、私の初任校では学年会の最中に体育館で部員が倒れ、救急搬送された先で亡くなったことがあります。
 顧問がいようがいまいが事故は起こるときは起こると言ってしまえばそれまでですが、責任の取り方が違ってきます。

 彼らは考えます。
「変形労働時間制のおかげで会議と部活の同時並行という危険が回避できる。4時15分から5時45分までの1時間半、みっちり部活をやって生徒の下校を見届けてから会議を始めればいい」
 学年会にしても教科会にしても、6時から始まった会議が退勤時刻の6時半までに終わるというのはかなり眉唾ですが、教員は形式と実質の乖離など慣れっこになっていますから苦にしません。むしろ生徒を帰してから落ち着いて話し合うことの方が大事だとか、考えたりします。

 会議中の事故に対する怯えという点では管理職も同じですから、このやり方は必ず追認されます。顧問が見てくれているとなると保護者も安心、その場その場で指示を出してもらえるので技能を高めたい部員にとっても好評。
 かくて実働時間は延びますが、全員にとって都合の良いこの制度は喜びとともに定着していきます。
・・・そうだろうか?


【教員仲間の中に犠牲者が出る】
 私たちは育児を行っている先生や老人介護を行っている先生、放課後の自己研鑽を行う先生方のことを忘れてはいけません。彼らは常にギリギリの生活をしているのです。
 追加の保育料金を払っても6時半の退勤ではお迎えに間に合わない先生がいます。介護の必要な親を持つ教員も気が気ではないでしょう。正規の退勤時間を守っていたのでは夕飯を抜いても講習会に間に合わないという人もいます。病院にも通えません。

 この点で文科省は実にうまい指導をしています。
「育児や介護等の事情により以前から所定の勤務時間以上の勤務が困難な教師や、現在特段所定の勤務時間以上の勤務とはなっていない教師に対しては、こうした制度を適用しない選択も確保できるように措置することが求められる」
「〜公立学校の校長先生のための〜やさしい!勤務時間管理講座」第3回
 つまり「変形労働時間制」を導入した学校でも、この制度を利用しない職員がいてもいいということなのです。これですべての問題は解決すると政府文科省は考えていますが、しかしそれは違う。


【意思統一に参加できない職員は疎外される】
 私は昨年、とても大切にしてきた教え子をこの世界から失いました。
 亡くなったという意味ではありません。かつての教え子で、教員となってとてもいい仕事をしていた有望な女性教師が教育界から去ったのです。
 その顛末はこのブログでも書きました。  
2018/6/18「働き方改革と制度の落とし穴」〜シノマの場合
 

 学校は学級担任・教科担任といった個人営業主が集まっているそれだけの職場に見えるかもしれませんが、実は同業者組合のように有機的につながった場なのです。それぞれが好きな時にやってきて自分の仕事をして帰るというわけにはいきません。

 特に児童生徒のいなくなった放課後は、情報を集め、共有し、人間関係をつくる時間です。それは明日と未来に対する準備と協働の時間なのですが、「変形労働時間制」によって勤務時間が延びると、育児などの理由で適用を受けない教師はその時間を共有できなくなってしまうのです。具体的に言えば、会議や共同作業の一部、または全部に出られなくなります。

 出なかった会議の要旨は翌朝資料として渡されますが、そんなものを読んでいる暇はありませんし読んだところで細部はわかりません。そこで他の先生方に聞いて回ることになるのですが、お互いに忙しい身、いちいち引き留めて尋ねるのも気が引けます。だから一日中“済みません”“済みません”と謝ってばかりになります。
 聞いた上できちんとした仕事ができればいいのですが、半分しかわからない状況で進める仕事はしばしば滞ったり間違ったりします。後輩にまで嫌な顔をされる。
 自己効力感や肯定感は音を立てて崩れる――それが私の教え子の元教師が味わった世界でした。
 10年・20年とやってきたベテラン教師なら会議に出ずとも何とかなるかもしれませんが、若い教員には無理でしょう。
 私の教え子のように辞めざるを得ない教員はさらに増えていきます。


【「変形労働時間制」導入は選択制】
 実は文科省は「変形労働時間制」についてすべての学校で行えと言っているわけではありません。
 それができるように国として法整備をするが、「導入はあくまで選択的なものであって、各地方公共団体において導入するか否かの判断を行うものである」と荻生田門下大臣もおっしゃっています(2019.09.24 文部科学大臣の定例記者会見)。


 現在は例の「桜を見る会」の件で審議が停止している「教員の働き方威嚇法案」ですが、政府は今週末に予定されている閉会までに成立させると言っています。もし成立となっても、各地方公共団体は精査して、安易に「変形労働時間制」を導入しないよう、配慮をお願いしたい。
 これ以上教員のなり手の減る教育改革は、まっぴらです。

(この稿、終了)

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