2019/6/5

「親が団結し、問題は細分化して対処する」〜川崎無差別殺傷事件から何を学ぶか4 (最終)   親子・家族


 川崎事件以来
 全国の引きこもりの親と子供が追い詰められている
 けれど大丈夫
 親が団結し、問題は細分化して対処する限り
 道は確実に開けてくる

というお話。
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(吉田博 「精華」)


【8050はつまるところ経済問題だ】

 引きこもりが長期化すれば親も高齢となり、やがて収入や介護に関して問題が発生するようになる、親が80代で子が50代に差し掛かる時期のため、これを「8050問題」と言うそうです。
 しかしこの8050、見方によっては20代・30代の引きこもりはるかに有利な側面もあります。50代にもなってしかも5年〜10年と長期化した引きこもりだと、もはや就職だの結婚だのといった難しい問題を考えなくて済むからです。親も子も、普通の家庭、普通の家族をずっと昔に諦めています。

 残るは収入と介護ですが、子の方に介護は自分がやってもいいという意思があるなら、世の中にある別の問題「介護離職」と一緒ですから、同等に扱うことができます。楽なことではありませんが、引きこもりだから特別に考えなくてはならないという部分は、ずっと少なくなります。

 引きこもりの本人にやる気がない場合にのみ介護は問題となるだけですが、資産が数十億円といった家ではそれすらも難しくない。親のことは金を払って他人に任せ、自分は資産を食いつぶして生きればいいのですから。
 もちろん月の支出が数百万円といった生活はしない前提ですが。

 こう考えると8050問題はつまるところ経済問題だということが分かってきます。金さえあれば何とかなるし、ないならないなりにそれを前提に考えていけばいい。


【年収(月収ではない)39万円で生きられる】
 そこで思い出されるのが“年収39万円で死ぬまで生きることを保証された引きこもり男性の話です。(2018/5/24「人材は目の前にいる」〜家庭問題のコロンブスの卵2
 昨年のちょうど今頃、あるテレビ番組を見た私は、こんなふうに記録しています。

 プロのファイナンシャルプランナーが、40代の引きこもり男性を持つ家庭に関わって資産や収入・支出を計算してみたという話です。
 その結果、今のままだとやがて資産は食いつぶされ、引きこもりの男性は死ぬ前に無一文になってしまうが、年収39万円の仕事を続ければ何とか今の生活が続けられることが分かったのです。
 どうしてそんな魔法みたいなことになるのかというと、まず家庭には持ち家があってローンが残っていない、つまり家賃がゼロなのです。預金等の金融資産が2500万円ほどあります。
現在の収入は両親の年金だけなのですが、つつましい生活を続けているため、多少ではあるものの毎年黒字になります。これは二つの意味で重要です。
 ひとつは、死ぬまで続ける予定の「現在の生活」がそれほど高い水準ではなく、比較的少ない収入で維持できること、もうひとつは毎年黒字ですから両親が死ぬまで資産の2500万円に手を付けなくて済むことです。つまり両親が亡くなった日から、ようやく食いつぶす生活が始まるわけです。
 しかしさすがに2500万円では生涯を支えきれません。そこで今から働くことを考えなければならないのですが、どれくらいの収入があれば死ぬまで困らずに済むのかと計算した結果が、年収39万円なのです。

 39万円と言ってもバカにはできません。
 男性が現在40歳で70歳まで働くと考えると39万円×30年で1170万円にもなるからです。両親の資産と合わせると3600万円以上。食いつぶしていく金がこれだけあると考えれば、少しは安心できます。

 そこで年収39万円、つまり月に3万数千円を稼ぐためにはどれくらい働かなければならないかと考えると、時給800円の仕事をわずか40時間やればいいだけです。1日8時間勤務だとすると月5日、4時間勤務でも10日働けばいい。なんと三日に一度職場に行けばいいのです。


 もしかしたら川崎の容疑者も絶望しなくって済む状況だったのかもしれません。

 この人の生活の特徴は極めて金がかからないということです。
 食って寝てテレビゲームをして、マンガ雑誌を読むだけの生活。コンピュータも携帯も持っていませんからオンラインゲームの課金だとかネットショッピングだとかもありません。

 自宅は伯父の持ち家のようですから家賃を払う必要がありません。外食もしませんから食費は抑えられ、衣服だって華美である必要はない。
 そんな生活を支えるのに、いったいどれほどの収入があればいいのか。

 伯父伯母には二人の実子がいたようですから遺産を独り占めというわけにはいかないでしょう。しかし持っているものをすべて目の前に並べれば、案外いい条件もあったのかもしれません。実情を見直してみることはぜひとも必要でした。


 自分ひとりの生活を成り立たせるだけなら、フルタイムで働く必要はない。できる仕事を少しやるだけで生きていける。そう分かるだけでも勇気が湧いてきそうです。そうなると今回の事件は起きなかったのかもしれません。


【親は団結し、問題は細分化して対処する】

 元事務次官の事件は川崎とは違います。
 問題の核心は「44歳の息子が何をしでかすかわからない」と感じたことです。

 これまでに“家庭内暴力”という暴行の実績があり、“殺してやる”という言葉を頻繁に使う。いつかどちらかが他方を殺すかもしれなという極限状態で、息子が近隣の学校に対する暴言を吐き、18年前の池田小事件や最近起きた川崎の事件が思い出されると、自分が殺すしかないと思い定めた――そういう事件です。

 こうした場面で介入できるのは警察権力しかありません。家庭内暴力が外部にまで波及する例はまれですが、それでも警告だけは出ておかなくてはならないでしょう。
「どんなに周到にもくろんでも警察が見ているぞ。計画は果たせないぞ」
という警告です。

 もちろん警察に訴えたとなるとさらなる家庭内暴力につながるので、保護者には難しいことです。家族以外に情報を握って警察に駆け込む人が必要になります。その手順についても知識や経験のある人がアドバイスしなくてはならないでしょう。

 私は8050の「80」が横のつながりを持つしかないと考えています。問題解決は知識と経験と協力によって果たされるものです。一人の素人の力ではどうにもなりません。

 いま孤立して恐怖に慄いている引きこもりの親たちに声をかけなおし、横のつながりを強固にする。そして共通の部分については経験と知識を共有し、例外的な問題については細分化して、この場合はファイナンシャル・プランナー、こちらの問題はカウンセラー、そしてこのケースは警察にと具体的な対処の仕方を考えていく、そうした活動を急がなくてはなりません。


【日本人なら、何をしても最低限度に生きていく道は保証されいる】
 私は社会科教師でしたので「公民」という教科について聞かれることがしばしばありました。中学校で教える三つの分野、「地理」「歴史」「公民」の中で「公民」だけが分かりにくいからです。そこでこんなふうに答えることにしていました。

「『公民』とは、ひとことで言ってしまえば『政治』と『経済』。
 さらに言えば『政治』というのは『どんなに苦しい状況でも――例えば5人の子どもを残して夫に先立たれ、蓋を開けたら数億円もの借金があった、そんな最低の状況でも、死ぬことはない、この国(日本)ではすべての人が生きられるようにできている、だからとりあえず明日、市役所に行こう、ということを学ぶ学習。
 『経済』はより豊かに生きるにはどうしたらよいか――簡単に言えば金儲けを学ぶ授業だ』

 ですから8050の枠にいるかつての教え子や保護者に言えるのは、こんな話です。

 大丈夫だ、恐れることはない。
 今のキミがどんなに不安で寄る辺のない生活を送っているにしても、生きる道は必ずある。
 「第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」
 今のキミがどんな状況にあっても、この国(日本)の憲法はキミの「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障しているのだから。

 絶望してはいけない。場合によってはその「最低限度の生活」から、未来を切り開いていくことだってできるのだから。
                  (この稿、終了)


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