2018/10/4

「あの子はどんな食べ方をしていたのだろう?」〜口中調味と偏食の話 1  教育・学校・教師


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【あの子はいったい、どんな食べ方をしていたのだろう?】
 と、唐突に思い出したのは20年近くも以前、小学校1年生の担任をしていた時にクラスにいた女の子です。
 入学式のその日の帰り際に、保護者のひとりが残って、
「来週から始まる給食が心配です。ウチの子は硬いものが食べられないので」
と相談をされた、そのお子さんです。
「大丈夫です、心得ました。そういうお子さんは多いです」
と請け負ったのですが、その「硬いもの」に「野菜・肉・魚」が全部入っているとは思いませんでした。
 虫歯だらけで歯がボロボロということもありますがとにかく偏食で、麺類とパン、牛乳、汁物、そして少々の米飯しか口に入らないのです。

 私は給食指導に自信と誇りを持っていましたから何とか食べさせようと、最後はハンバーグも5o角の粒1個まで譲歩して、
「このちっちゃなヤツでいいから食べてくれ、この大きさから始めよう」
と懇願したのですが、食べてくれません。
 そのくせ放課後は家に帰ると元気よく、
「ただいまあ、お腹すいた〜」
とか言ってケーキやお菓子をほおばっていることは知っていましたので、余計腹が立ちます。

 結局1年間、給食については何の成長も見られず、私も翌年には転任してしまったのでその後どうなったのかは知らないのですが、それから20年近くも経って、あの子は食べられるとき、どんな順番でどんなふうに食べていたのか、急に気になってきたのです。


【あなた、昔からそんな食べ方してた?】
 ことの発端はこうです。
 つい先日の夕食時、妻が珍しく私の食事風景をしげしげと見ているので「どうした?」と聞くと、
「あなた、昔からそんな食べ方してた?」
 そんな食べ方と言われても別に変ったことはしてないのですから昔からそうなのでしょう。しかし、
「そんなって?」
「だってあなた、まだ口の中に物が残っているのに次々とおかずやご飯、放り込んでるじゃない」
 それには私もびっくりです。“そんな食べ方は”は60年以上も続けているやり方で結婚してからもずっと続けてきたものです。それを妻が30年間も気づかなかったというのも驚きですし、当たり前で誰もがやっていると信じ込んでいた方法が非難の口調で語られるのにも驚きました。
「いけない?」
「いけないに決まってるじゃない。そんなやり方、途中で食べているものが見えるのよ」
「いや、これは日本人の伝統的な食べ方だろう」
 そうは言ったものの、生半可な知識で妻と対抗してもロクなことはありませんから早々に切り上げて早速コンピュータの前に座りました。とにかく実態調査をしてからの再戦です。


【口中調味】
 検索にかけるとそれはすぐに出てきました。「口中調味」というのだそうです。
 基本的には好ましいものとしての記述が多く、
「口中調味は味のない白いご飯を口の中で咀嚼しながら、好みに合った量のおかずで味付けする極めて優れた方法で、基本的には欧米人にはできない高等技術です」
とそんな書き方をしているページもありました。

 同じおかずでも濃い味の好きな人はご飯を少なめにし、薄味が好きな人は多めのご飯で口の中で調味するという極めて合理的で多様性のある食べ方だと思うのですが、驚いたことにネット上では口中調味礼賛というわけにはいかなくなっているのです。

「よく噛まないうちに汁物で流し込むのでは咀嚼がおろそかになってしまう」
とか
「唾液の分泌に異常が生じ、口腔乾燥症になる可能性がある」
とか、あるいは
「(すべて自分好みにしてしまうので)純粋な味覚が育たない」
とかさまざまに説明はあるのですが、おそらく一番強い説明は「下品じゃないか」という妻と同じ発想です。

 そう言われると反論のしようがありません。下品か上品かはかなりの部分が感覚の問題ですから論理的な反撃ができないのです。「日本人の伝統的な」といっても時代は変化しますからそれが正しいとは言い切れません。

 ネット世界では賛成派と反対派がほぼ拮抗している感じでした。しかもある統計によると、小学生の4人に1人は口中調味の経験自体がないのだそうで、これでは妻を説得して「私の食べ方」を貫く根拠にはなりません。

 私は(妻に対して)素直ですし臆病なところがありますから、とりあえず翌朝から口の中が空になってから次の食べ物に手を出す現代的な食べ方に挑戦してみることにしました。そしてそこにも新しい発見があったのです。

                                   (この稿、続く)



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