2017/11/21

「彼の国とこの国の違い」〜学習障害(特に識字障害)について  教育・学校・教師


 少し古い話になりますが、11月11日(土)のEテレ「ウワサの保護者会」のテーマは「子どもの発達障害part5 理解してほしい!学習障害のこと」でした(番組内容)。

 番組内容としては学習障害のある子どもの日常を紹介し、専門家が解説したあとで出演者全員であるべき支援の姿を議論するというものでした。
 出演者は「学習障害を持つ子の親」(二人の母親)と「わが子の学習障害を疑う親」(父親と母親一人ずつ)、そして「周囲の親」という役回りの二人の母親(ホゴシャーズと呼ばれる準レギュラーのうちの二人)、司会者と評論家の尾木直樹氏の8人です。

 その議論の中で一人の保護者が、「字を読んだり書いたりすることだけが苦手だったら、テストのときに音声で流したり、口で答えたりさせてくれたらいいのに」と言い始め、それを受けて尾木直樹先生が昨年施行された「障害者差別解消法」を引き合いに、学校も個に応じた対応をすべきだといった話をします。
 すると一人の母親が、20年以上前に見た海外ドラマ「ビバリーヒルズ高校白書」の中に、学習障害のある生徒が別室で先生にテスト問題を読んでもらう場面があったことを思い出します。アメリカではそのころから学習障害のへの理解や対応が進んでいたことに一同感心し、「そういう考えがもっと広がればいいですね」が中間の結論となります。

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 そのあと日本における例として出演者のひとりのお子さんが、学校でノートパソコンやスキャナーを使って授業やテストを受ける様子が紹介され、出演者の中から驚きの声が上がります。書くことが苦手だったお子さんは、機器を使うことで書く苦痛から解放され、「『知る』ことが好きになった」と喜びを語るのです。
 最後に尾木直樹先生が「もしかしたら学習障害かもしれないと思うような子どもが周囲にいたら、子どもと一緒にその子に対するサポートをしたらどうか」といった提案をして番組を閉じます。


【尾木ママ、やはりあなたは素人だ】
 番組全体はとてもよくできたものでさほど目くじらを立てるほどのこともないのかもしれませんが、元教師を標榜する尾木直樹先生だったら押さえるべきポイントがいくつあったはずだと私は不満なのです。素人の保護者と一緒になって、「まだまだ日本は遅れていて困ったもんですねぇ」みたいな顔をしていられては困るのです。

 まず、なぜアメリカが学習障害に敏感で対応が早かったか、そこにまず説明がなくてはなりません。
 これは簡単な話で、欧米人には識字障害がとてつもなく多いからなのです。

 有名なところではトム・クルーズ、ローランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、F1ドライバーのルイス・ハミルトン。古くはトーマス・エジソン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、アルベルト・アインシュタイン、パットン将軍等々、みんな学習障害(ほとんどは識字障害)を告白したり疑われたりするそうそうたるメンバーです。そう言えばブッシュ(ジュニア)元大統領も相当に怪しい。

 なぜそんなに多いかというと、すべての概念をたった26文字(アルファベット)で表さなければならないからです。おなじ綴りの「ea」が「eagle」「ear」「heart」「early」「ready」「tear」で全部違うなんて、そう簡単に覚えられるものではありません。翻って日本の場合、「あ」と書けば日本全国、北は北海道から南は九州沖縄まで、全員が「ア(a)」と発音してくれます。
 前後関係から発音を変えなければならないのは、「は」と「へ」だけです。発音は同じなのに使われる場所によって表記を変えなくてはならないものに「を」もありますが(かせいたいさん手紙、渡した)。、それだけで大変だと感じるお子さんは少なくありません。欧米の子どもの国語学習がいかに大変かは、容易に想像できます。
*高知県の一部では「わたしは」の「わ」と「は」を、長野県から山梨県にかけては「お手紙を」の「お」と「を」を発音上も使い分けることができると聞いたことがあります

 さらに彼の国で学習の個別対応が徹底している背景には、アメリカが大量の移民によって支えられてきた国で、さまざまな民族がいるために支援の仕組みも複雑にならざるを得なかったという事情もあります。別に合衆国が人にやさしく日本が子どもに冷たいわけではありません。


【了解の儀式】
 もうひとつの問題は、番組の結論となった、
「もしかしたら学習障害かもしれないと思うような子どもが周囲にいたら、子どもと一緒にその子に対するサポートをしたらどうか」
の非現実性です。「もしかしたら学習障害」という状況で特別なサポートなどできるはずがありません。

 番組の後半に出てきたお子さんの場合、障害があって文字を書くことができないこと、しかしパソコンを使えばそれが可能なことを教室でみんなの前で説明し、イラストにもあるように「同じように困っている子がいたら使っていい」と先生が話し、みんなも了解したからこそ可能になったのです。
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 日本の学校では、まずそうした“儀式”が必要なのです。なぜなら多民族国家のアメリカと違って、日本では「みんなが同じ」ことが前提だからです。
「みんな同じだから、みんな同じように扱ってもらえる」
 それが日本の学校の暗黙の了解です。公平性が何より大切なのです。
 みんなを同じに扱わない先生は「エコヒイキ」と言われ、昔も今も一番嫌われる教師です。

 しかしこの公平原則にも例外があって、
「それ相応の理由があって、みんなで了解しあえれば例外として扱ってもらえる」
 そういうことになっています。

 牛乳アレルギーの子はみんなに事情を話してジュースに代えてもらったりします。何の説明もなく一人だけジュースというわけには行きません。同じようにぜんそくの子は体育の厳しい練習から免除されます。いま評判のことで言えば、生まれつき髪の赤い子は、「地毛証明」を出すことで黒く染めることを強制されません(ただし「地毛証明」を書くように親を脅迫してはいけません。地毛以上に赤くしてきたら地毛レベルまで染め直さなくてはなりません)。
 同じように学習障害で何らかのサポートが必要な子も、何の説明も了解もなしにサポートし始めたら、それこそ「特別扱いの子」としていじめられかねないのです。
 子どもは自分以外の誰かがエコヒイキされるなんて大嫌いです。少し世の中が分かってくれば自分だってエコヒイキされたくはありません。尾木先生の言うように、簡単に手出ししていい領域ではないのです。

 その辺りのことは、やっぱり尾木先生、分かっていないみたいですね。


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