2016/5/7

「『感動ポルノ』の不安と憂鬱」b  政治・社会


「モンスターペアレント」というのはとても便利な用語でした。「モンペ」――そう言うだけで、あの学校に無理難題を押し付ける保護者について多くの人々の合意を得られるからです。またそうした保護者に悩まされる学校の状況について広く社会に知られるようにもなりました。

 けれどやがて私は困った事実に突き当たります。それは「モンスターペアレント」の概念が広がり幅を持つに従って、「こんなことを言ったらモンスターペアレントと思われないか」「これは“無理難題”の中に含まれるような要求なのか」そんなふうに迷ってすべき発言や正当な要求を控えてしまう保護者が出てきたことです。多くは学校に協力的な誠実な人たちでした(その間、肝心のモンスターペアレントたちは「私たちモンペではありませんからね」と息巻いていましたが)。
「モンスターボランティア」「感動ポルノ」という概念が広まるとき、同じことが起きないかと私は心配します。


 ふつう私たちが何かの行動を起こすとき、そこにあるのは単一の理由というわけでありません。
「熊本では人手が足りないから行って手伝って来よう。俺には時間も力もある」
 そうした人は多かったでしょう。
「過去の震災の際に世話になったから恩返しだ」という話もテレビを通じて何度か聞いたものです。
 しかし自分探しのために出かけた人もいるはずですし、ボランティアが好きだという人もいます。親に言われたからアルバイト代わりに行くという高校生も、行政から派遣された人もいるはずです。何も深く考えずただ応募した人もいるかもしれません。
 そうした人たちが、一斉に動機の純粋さに自問し始めたらどうなるでしょう?

 被災地で一日働いて住民に感謝された、それを喜ぶ自分がいる――感動ポルノではないか。

 自分も被災者なのにそれを感じさせないほど頑張っている人に出会って感激した――感動ポルノではないか。

 ボランティアということではなく、初めて会った人々との共同作業に喜びを感じている自分がいる――感動ポルノではないか。

 そんなことを考え始めたらきりがありません。人間が何かをする動機も、行動から受け取るものも一つではないからです。そしてそんなことを心配し始めたらとてもではありませんがボランティアなど続けられません。儲けのためにポルノグラフィを作成する人たちと同じかもしれないと考えたら、被災地に向かうこともできなくなります。

 おりしも芸能人や有名人のボランティア活動に偽善だの売名だのといった文句がついて騒がしい時期です。いろいろ考えなくちゃいけなかったり言われたりするくらいなら、最初からいかない方がいい、それもひとつの考え方でしょう。
 けれどそれでいいはずがありません。

 私が最初にステラ・ヤングの講演記録を読んだとき、「感動ポルノ」として最初に浮かんだのは日本テレビの「24時間テレビ 愛は地球を救う」です。
 ステラの言う、
障害はマイナスである。そして、障害と共に生きることは素晴らしいことである」という見方、「障害がある人こそ素晴らしい」というメッセージはこの番組の隅々に満ち溢れていますし、繰り返される「生きざま」(昔はこんな言い方はありませんでした)という言葉は、それだけで「苦しむ人生こそ価値がある」というメッセージです。そして苦境から立ち上がる人々の姿が、これでもか、これでもかというほどに突きつけられます。
 ステラは「過去数年間、ソーシャルメディアによって、この手の嘘はより広く伝えられてきました」と言っていますが、日本では40年近く前からマスメディアがお祭り騒ぎで行ってきたことです。
 
 私は番組開始の時期からこの番組が嫌いでほとんど見いません。見ていませんからこれ以上の批判は控えますが、それでも「24時間テレビ」がなくなればいいとは思いませんし、今日まで批判も控えてきました。
 それは金に色がないからです。どんな動機や経過から集めたものであっても、その金を必要とする人がいる以上は無碍にやめろとは言えないのです。
「被災地ボランティア」も同じです。どんな動機どのような経過で来たかは仕事の邪魔にはなりません。トウ小平が言ったように「白い猫でも、黒い猫でも、鼠を捕る猫は良い猫」なのです。

 もちろん『感動ポルノ、就活ネタ作り…GWに被災地へ殺到する「モンスターボランティア」』でも、「動機は何であれ被災地の役に立つのならいいのですが」と条件付きになっています。しかし「そういった人はトラブルの原因になりがち」と断じてしまえば元の木阿弥でしょう。

「ボランティアの資格と能力のある者以外は来るな」というメッセージを「感動ポルノ」「モンスターボランティア」といった最上級の罵りで訴えることに、どういう意味があるのか私には理解できません。
 こんなことを続ければ、あっという間に深刻なボランティア不足に陥ります。


                                    (この稿、続く)





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