2012/4/11

修学旅行A  教育・学校・教師


 昔の修学旅行は学校の制服にリュックサックという極めて機能的で怖ろしくダサイかっこうで出かけました。それが生徒たちにはそうとうに不評で(それはそうだろう)、花の京都に出かけるのに田舎者丸出しで、かなり惨めな気持ちになったようです。

 私はそういうところに付け込むのが得意です。

 新幹線で京都駅につき、そこからバスに乗るというのが当時の定番でしたが、駅でトイレを済ませている間に生徒はバラバラになってしまいます。そこで集合をかけるのですが、私にはある特別なやり方がありました。それは思い切り大きな音で、ホイッスルを鳴らすというやりかたです。すると生徒ばかりでなく、駅構内にいるほとんど全員の目が私に向きます。それが生徒たちを凍りつかせるのです。

 何しろ集団としては初めての都会でしかも田舎者丸出しの姿でいるのです。そこへ状況をまるでわきまえない田舎教師が山奥と同じやり方で笛を鳴らすわけですからかないません。(“蜂の巣をつついた”の逆の表現は何んというのでしょう?)生徒たちはあっという間に集まってピシッと整列します。それで三日間の素早い整列は保障されたようなものです。二度とあんな目に会いたくない、それが生徒たちの統一された気持で、実際、修学旅行のあいだ中、二度とホイッスルを鳴らすことはありませんでした。

 その旅行の企画に、京都の青蓮院というお寺で京舞を見て抹茶をいただくというのがありました。(20年以上前の和尚さんですから言ってもいいと思いますが)そこの和尚が極めて厳しく、いい加減なことを絶対に許さないとの評判で緊張感の高いイベントとなりました。

 生徒を十分に緊張させ、まず玄関に入って大声で声をかけたのですが誰も出てくれません。そこで添乗員が「私が奥に呼びに行ってきますから、生徒さんは中に入って自分の席に座っていてください」ということになり、私たちは100人以上の生徒を順に入れました。たいへんな緊張の中ですから、全員、足音を立てることすら憚るふうに進み静かに正座して待ちます。

 すると遠くからお怒りの声を発しながら、和尚がドカドカと足音を立てながら歩いてくるのが聞こえます。耳を澄ますと、要するになぜ玄関で待たせなかった、勝手に中に入れるとは何事か、と怒鳴っているのです。
 その和尚が廊下の角を曲がって部屋に入ってきたその瞬間の顔を、20年以上たった今でも忘れません。そこには私の生徒たちがビシッと背筋を伸ばし、微動だにせずにきちんと正座していたのです。

 それからの和尚は完全に上機嫌で、最後まで生徒を誉めちぎって気持ちよく時間を過ごさせてくれました。私にとっても誇らしい瞬間でした。

 しかし・・・この話には続きがあって、そのあと一人の生徒が呼吸困難に陥り、救急車で病院に行くはめになってしまったのです。何があったのかというと、抹茶とともに出た菓子が蕎麦饅頭で、蕎麦アレルギーの子がそれに手を出してしまったのです。聞けば怪しいとは思ったのだけれど、怖くて言い出せなかったとのことでした。可愛そうなことをしました。

 何でも緊張感を高めればいい、というものもありません。



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