2012/1/25

選挙の話  教育・学校・教師


「略奪大国」という本が評判になっているみたいです。

 読まずにいろいろ言うのもよくないのですが、テレビやラジオの情報によると、日本は「農民が都会に住む人たちからお金を盗もうとし、老人が若者からお金を盗もうとし、貧しい人たちが裕福な人たちからお金を盗もうとし、そして政府がその間に立ってその略奪を行う」そういう国だというのです。

 どういう方法で略奪するかというと、基本的には政府が税金として吸い上げ(それでも足りなければ国債を発行して)それを略奪者(上の例で言えば農民や老人、貧しい人たち)に分配してしまうということです。

 しかしそれは「略奪」という言葉を使うのでセンセーショナルなだけで、基本的にはすべての民主主義国家がやっていることです。ヨーロッパで一番働かない国と言われるギリシャでは全員が略奪者の側に回ってしまったためほとんどを国債に頼らざるを得ず、その結果深刻な経済危機に陥ったのですから。ただし、日本だけが特別なわけではないのですが、冨を吸い上げるグループと吸い上げられるだけのグループがいるということは、常に頭においておく必要があるでしょう。

 月初めに成人式に出席したときのことで、話しておくべきことを忘れていました。それは選挙委員長の話です。
 成人式ではどこの市町村でも選挙管理委員長が挨拶をするものらしく、必ず出てきて「選挙権が与えられますおめでとう」という話と「大切なものですから有効に使いましょう。投票率を上げてください」といった話をします。しかしほとんど聞いていませんし、聞いていたとしてもそれで切実な思いになる新成人は稀でしょう。私が聞いていても面白くないのですから。

 選挙管理委員長はこういう時、本当は「略奪大国」のような話をすればいいのです。要するにアンタらが政治にコミットしないから、アンタたちの冨が略奪されているのだよ、ということです。

 かつて
「若者は、選挙に行かないせいで、四〇〇〇万円も損してる!?」
(ディスカヴァー携書:2009)という本が評判になりましたが、それによると
政府の財政や施策により、現在(2009年の段で)70歳代の人たちが生涯において1500万円くらい得をしている一方で、1980年前後に生まれた人たちは差し引き2500万円くらい損をしているというのです。その差4000万円。現在30歳前後の人たちが働いて払っている税金が、みんな老人のものになっている
というのです。

 なぜそんなことになるのかというと、政治家は選挙の際、一番自分に投票してくれそうな世代に向けておいしい話をし、めでたく当選のあかつきには誠実にそれを実行してしまうからです。どんなに若者むけの約束をしたところで若者は投票に来てくれませんから、何の益もありません。「サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙で落ちると政治家ではない」というように、当選できなければ理想も主義主張もへったくれもありません。
 かくして若者は見捨てられ、4000万円も略奪されるのです。

 思えば昔の総理大臣が提案した「アニメの殿堂」など、日本のサブカルチャーを世界に売り込み、ひいては世界の日本化に一役買ったはずなのに惜しいことをしました。それもこれも「アニメなんてばからしい、そんなところに金を回すな」と言った私たち老人の方に力があったからです。選挙に行かない若者たちは被略奪者の地位に甘んじてビービー泣いていればいいのです。

 本当は、二十歳になるのを待ちかねて、二十歳になるとすぐに選挙に行くような子どもを育てたいですね。



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2012/1/24

ゴールド・ラッシュ  歴史・歳時・記念日


 私はたぶん見るスポーツとしてはアメリカン・フットボールが一番好きなのだと思います。若いころは夜の仕事をしていたので(と言っても学習塾)夜中にアパートに帰って見るテレビと言えば懐かしの名画劇場といった古い映画か、アメリカン・スポーツくらいしかなかったのです。

 最近は継続して戦績を追うということもなくなりましたが、それでも日本のライス・ボウル(日本の大学チャンピオンと社会人チャンピオンの決勝戦。ボウルはサラダ・ボウルなどのボウル、転じて円形競技場のこと)とスーパー・ボウル(アメリカ・プロ最強チームを決める)の時期になると、少しは気になります。

 そのスーパーボール出場権をかけたプレー・オフで、土曜日にとんでもない試合がありました。ニューオーリンズ・セインツとサンフランシスコ・49ers(フォーティーナイナーズ)の試合なのですが、最終盤で49ersがリード。それを残り4分でセインツが逆転(24-23)、ところがあと2分11秒というところで49ersが再逆転(24-29)、それで済まずに残り40秒でセインツも再逆転(32-29)。もはやこれまでかと思った残り14秒で49ersが再々逆転(32-36)、それで勝負が決まりました。

 双方合わせて1時間でとった68点うち、なんと28点が最後の4分間なのです。本来は10ヤードずつ刻んでボールを運ぶ競技ですから、そんなに簡単に点は入らないのです。
と、興奮してしゃべっても興味のない人にはさっぱり面白くない話ですが、私が話したいのは実はそんな試合経過ではなく、サンフランシスコ・49ersというチーム名そのものについてです。


 この49ersというのは日本語に訳すと「49年組」とも言うべきもので、1849年にアメリカ西海岸に渡った人々のことをいいます。サンフランシスコ49ersはその人たちの開拓者精神と冒険心にあやかろうとしてこの名前をつけました。

 ことの発端は1848年1月24日にカリフォルニアのアメリカン川で砂金が発見されたことにあります。最初、砂金の発見は秘密にされましたが、3月には西海岸の新聞社に知れ、8月には東海岸の新聞記事にもなり、12月に議会で正式に発表されると、翌1849年には一年間に9万人という人々がカリフォルニアに殺到します。いわゆるゴールド・ラッシュです。最終的には30万人が移動してカリフォルニア州は州に昇格し、小さな開拓村だったサンフランシスコは新興都市に成長し、カリフォルニア中に道路、教会、学校および他の町が建設されました。

 これを日本に当てはめてみると天保の改革(1841)とペリー来航(1853)の間、というところです。ゴールド・ラッシュはアメリカ人ばかりでなく、ヨーロッパ人や中国人を巻き込んだ一大センセーションでしたが、そうした事情によって日本人は間に合いませんでした。ただ一人、ジョン万次郎のみが日本に戻る資金稼ぎに、カリフォルニアの鉱山に金を掘りに行っています。

 今日、1月24日は「ゴールド・ラッシュの日」です。

 しかしそれにしても、1848年1月に金が発見され、東海岸の人が動き出すまでに1年近くもかかったというのは、現代ではとても考えられないことです。
 そんなすごい情報ですら非常にゆっくりと流れていた時代です。


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2012/1/23

東大秋入学の憂鬱  教育・学校・教師


 5年後を期して東大が秋入学になるといいます。自分はもちろん、子や孫が東大に行く心配はないのでどうでもいいようなものですが、これはなかなか危険なのかもしれません。

 なぜ今、東大の秋入学かと言うと、これについてはNHKニュースが端的にまとめています。「グローバリズム」と「東大生の学力低下への対応」だというのです。

「グローバリズム」(この言葉が出ると私は反射的に身構えてしまうのですが)については世界の7割の大学が秋入学のため、留学生や教員の異動に困難があるということです。また「学力低下」については「ある大学ランキングで東大は20位から26位に落ちた」という例を上げていました。ただし学力低下と大学ランキングとは全く関係ありません。

 東大に学力の低い学生が入学するようになったのは、少子化の時代にそれに見合うだけ十分に定員を減らさなかったためで、学生に罪はありません。
 また大学ランキングは(何種類もあるのですが)どれも大学そのものの実力を測っているのであって、学生の実力を測っているのではありませんから、そもそも関係がないのです

 たとえば上海交通大学のランキング(以下ARWU)は「ノーベル賞・フィールズ賞を受賞した卒業生の数」「同2賞を受賞した教員の数」「有力専門誌への論文の掲載数」「引用された論文の数」といった、つまり学校の教員のレベルそのものを指標としています。

 またイギリスの専門誌『タイムズ・ハイアー・エデュケーション』(以下THE)のランキングは、主として「この大学は入学し甲斐があるか」「研究者として働き甲斐があるか」といった点を判断基準にしており、研究者同士による評価の他に「教員の給与」「教員ひとり当たり研究収入・産学連携収入」「研究収入中の公的資金の割合」とかいった収入面、「教員当たり学部学生数」「博士号をもった教員の数」「外国人教員の比率」「外国人学生の比率」といった環境面、そして「教員あたりの論文数」といった研究者の実力などがランキングの指標となっています。これはある程度、金で解決できる問題です。
 

 先ほど言ったように大学世界ランキングは幾種類もありますが、注目すべきはほとんどのランキングで、東大より上位に「英語以外の母国語で授業を行っている大学」はない、ということです。

 THEで一度東大の上位に立った香港大学も英語で授業をする大学ですし、しばしば東大を凌ぐチューリッヒ工科大(スイス)はドイツ語の大学ですが、修士論文は英語で授業をします。「ARWU(2011)」の場合、「英語以外の母国語で授業を行っている大学」としては東大の20位が最高で次が京都大学(24位)、次がピエール・マリー・キュリー大学(39位)、コペンハーゲン大学(40位)となっています。

 ちなみに上位30位までの国別内訳は、アメリカ22、イギリス4、日本2、カナダ1、スイス1です。日本の大学はレベルが高いともいえますし、日本語で授業をやっている間はダメだとも言える結果です。

 さて東大生の学力低下と世界ランキング・秋入学とはとりあえず関係ないことが分かりました。しかしだとしたらなぜ東大をアメリカ基準(グローバル・スタンダード)に合わせなければならないのでしょうか。

 その答えは結局、留学生や教員の異動です。外国の優秀な研究者や留学生を大量に東大(秋入学が拡大すればそれ以外の大学にも)に入れ、そこでの研究成果を政府・企業が吸い上げようというのです。日本の財界がこぞって東大の秋入学に賛成していることからもそれは分かります。
 すでにアメリカのIT産業はインド人研究者・留学生によって担われていると言われて久しくなります。国民教育を諦めたアメリカは、外国人の知恵によって国の繁栄を確保しようとしているのです。そしてそのあとを日本も追おうというのです

 東大に大量の外国人研究者・留学生が入ってくれば、当然世界ランキングも上位にのし上がって行きます。すべてめでたしめでたしです。
 ただ一つ問題なのは、東大をはじめとする有名大学に日本人が入りにくくなることです。
 東大が大相撲みたいになるのです。(把瑠都関おめでとう、白鵬関、意地を見せましたね)




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2012/1/20

面白くもない勉強をする〜だから社会科は難しいA  教育・学校・教師


 こういう子はいます。「ぼくは好きなことだったら何でもがんばれるんだ」。保護者にも「ウチの子はゲームだったら何時間でも集中してできるのだから、集中力も忍耐力もあると思うのですが」。
 そういう話を聞くたびに、内心思ったのはこういうことです。
「好きなことですら続かないようならその子は病気だ」

 さて、昨日は社会科では出てくる用語のひとつひとつが大量の意味や属性を持っていて、それがきちんと説明されていない、「だから社会科は難しい」というお話をしました。もちろん福沢諭吉の「学問ノススメ」の内容と歴史的意義などといったものまで書き始めたら、教科書はあっという間に百科事典並になってしまいます。したがって「福沢諭吉は『学問ノススメ』を書いて学問の重要性を説いた」くらいで済ませなくてはいけませんし、こんな書き方だとそれぞれが丸暗記せざるを得なくて「だから勉強はつまらない」といったことになりかねません。

 こうした事情は社会科だけでなく。他の教科についてだって言えます。
 例えば先日、原田先生がやっておられた塩化銅の電気分解など、確かに予想どおり銅が出てきて、実験のできの良かったチームはより多くの銅が採取された、それはいいのですがここで「で、これってどういう意味があるの」と本質的な問いかけを始めるとキリがなくなります。

 算数はいいのですが数学の立体の体積や表面積など、「オレ、学校を出たら絶対に使わないケド」とブーたれる子が出てくるのもやむを得ないところです。
 こうした子の「ちっとも面白くでもない勉強を、どうしてやらなきゃいけないの?」という問いかけに、どう答えたらいいのでしょう。

 答えのひとつは、
「面白くでもない勉強を続けないと、面白いことがやってきたときにそれを捕らえそこなう」ということです。

 例えば、書店で「ヒュースケン日本日記」 (岩波文庫) という本を目にしたとき、ヒュースケンの名を知らない人は何も考えずに通り過ぎてしまうでしょう。「え、あのヒュースケン、本を書いていたんだ」と思う人はこの無類に面白い本を手に取ることができます。しかしその本が「無類に面白い本」だと感じるためには、たくさんの「面白くでもない勉強」を続けておく必要があります。

 私は基本的に文型人間ですから中学生のときにやったかもしれない(たぶんやったのでしょう)「塩化銅の電気分解」のことはまったく覚えておらず、そのために捕らえそこなったたくさんの「面白いこと」もあったのかもしれません。たぶんありました。覚えていれば自分の何かの作品を銅メッキ(塩化銅ではできないと思いますが)しようと、本気で取り組んでいたのかもしれません。

 しかし星の名前のいくつかに記憶があり、そのことは今もギリシャ神話を読んだりするときに楽しみの源泉となっています。以前お話しましたが、アニメの「セーラームーン」を見ていてさえも、星に関する知識のある人はない人よりもはるかにウキウキと見ることができます。

 今の「面白くでもない勉強」は知識がキラキラと輝いて価値あるものになるための前段階の、ダイヤモンドの原石なのです。ダイヤモンドを手に入れるためには、その見てくれの悪い石を山ほど抱えていなければならないのです。


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