ものすごく緊張すると、私は手首の少し上から指先までの両手に弱いしびれを感じる。初めてそれを感じたのは、就職して初めての学会発表をする直前だったか。今は学会発表なんて「業界の寄り合い」くらいにしか認識してないので緊張などしないが(笑)、それでもそれから約20年の間に数えれば3〜4回、他の状況で経験している。そこまでの緊張は滅多に、本当に滅多にない。
周防正行監督「それでもボクはやってない」、痴漢冤罪裁判を描いた映画である。冒頭から数十分、主人公が4ヶ月拘置された挙句にようやく保釈されるまでの間と、ラストの判決シーンで裁判官が判決を述べるまでの数分、私はずーっと両手のしびれを感じていた。
数年前のこと。スーツを着た私は中央線快速で東京方面へ向かっていた。車両内はそれほど混んでいなかった。左手を挙げてつり革をつかんでいた。右手はB4サイズのビジネスバッグを持っていた。
私の前に立ち、背中を向けていた女性が、突然サッと振り返り、私の顔をキッとにらみ、すぐに振り戻った。そして明確な意図を持って肘鉄が飛んできて、私の腹に当たった。
いや、驚いたのなんの。肘鉄は痛くはなかったが、これは痴漢だと思われているらしい。
もちろん私は痴漢行為などやっていない。もし可能性があるとすると、車両が揺れたとき、私の右手に持ったバッグが彼女の大腿部に触れたかもしれないが、それも一瞬だろうと思う。不快に思うほど触れていたなら、私が気がついている。その程度の混み具合だったのだ。
これはやばいと思って、私は右の方へと立ち位置を徐々にずらし、彼女の後ろを離れた。
新宿駅に着き、彼女は降りるために私の前を通ろうとした。私は彼女に触れないように体を後ろへ引き、かつバッグを持つ右手を引き上げて、バッグを腹の前に持ち上げた。
彼女が私の前を通る刹那、再び明確な意図を持った肘鉄が飛んできた。肘鉄はバッグに当たった。的を外した、と思ったからだろう、彼女は再び私の顔をキッとにらみ、ホームへ降りていった。
私の場合は運が良かったけれど、もしあのとき「痴漢だ」と叫ばれていたら、映画の中の主人公と同じ目に遭っていたのだ。本当に恐ろしい。両手がしびれるほどに。
映画の中でリアルに描かれる警察の厳しい取調べ、留置場と拘置所での4ヶ月に及ぶ拘置。引き続く裁判。
映画の冒頭は、主人公である冤罪の26才の青年と、本物の痴漢の中年男性の取調べが同時進行で対比して描かれる。犯罪者である本物の痴漢を取り調べていると思えば真っ当に見える警察の取調べも、冤罪である青年側から見れば、卑劣極まりない許せない行為だ。
周防監督は、次も裁判を描いた映画を構想しているそうだ。是非、日本の裁判の問題点を描いていってほしいと思う。
前述の経験もあったので、この映画を見てあらためて決意する。
痴漢行為を目撃したら必ず捕まえよう。裁判の証言として通用するように状況は可能な限り確実に観察し、可能な限り早く文書にしよう。
もし、この映画のように冤罪で捕まったところを目撃したなら、冤罪を晴らすために協力できることがあれば協力しよう。何か目撃していれば、だけれど。
自分が痴漢に間違われないよう、女性の隣りに位置せざるを得ないときは背を向け、かつ両手の有りかを明らかにして、第三者の目に入るように気をつけよう。シャレにならんよ。
周防監督がプロモーションのために出演したバラエティ番組で、過去の作品ではダンスや相撲など俳優に訓練を課すことが多かったのだが、本作では1つの例外を除いて訓練を課すことはなかった、と話していた。
その唯一の例外が、尾実としのり演じる検事のペン回し。尾実としのり自身、緊張して何度も失敗したと話していたその回しっぷりは、私から見ればイマイチ。不自然。手に緊張感がある(笑)。
実はワタシ、得意なんですよ、ペン回し。動画はこちら↓(笑)。
http://oh1ninja.la.coocan.jp/2007/070204_pen_mawashi.mpg

0