その後、自転車のダイナミクス(動力学)について述べた文献を探してみました。なかなか良いものがいくつか見つかりました。自転車というものは、とても面白いダイナミクスを持っています。はまってきた(笑)。私もまだ全部読んでいませんが、興味がおありでしたら、イラストや写真、グラフだけでもちょっと見てみてください。
Schwabさんのサイト
http://tam.cornell.edu/~als93/
http://tam.cornell.edu/~als93/bicycledyn.htm
http://tam.cornell.edu/~als93/paper100028KSMEIntJ.pdf
Astromさんの資料
http://www.me.ucsb.edu/course_pages/course_pages_f04/ME97_197/astrom%20bicycle%20dynamics%20and%20control%20r2.pdf
上に紹介した資料は、リカンベントではなく、普通の自転車を例題に、そのダイナミクスについて論じています。この資料から、普通の自転車の特性をかいつまんで紹介します。
ここでは、ライダーは乗っているが、手放しで操縦していない場合の自転車を想定しています。
このような自転車の運動を数式で表現すると(ここで色々と仮定があるのですが、それらについては今回は省略)、4個の変数についての4本の微分方程式になります。
この4本の微分方程式から、あるルールに従って1変数1本の4次の多項式をつくります。これを特性方程式といいますが、4次多項式ですから根(解とも呼ぶ。答えのこと)は4個出てきます。これらの4個は実根(実数)になる場合と、共役複素根(a±biの形の複素数のペア;iは虚数、√-1つまり二乗するとマイナス1になるってやつです)になる場合と、実根と共役複素根の組合せになる場合があります。
これらの根の大きさと自転車の運動の様子の間に密接な関係があります。自転車の微分方程式の係数は、自転車の速度、ジオメトリや重量によって大きく変化し、これにともなって特性方程式の根、つまり自転車の運動も大きく変化します。下で紹介する数字は、この計算例で選んだ自転車の一例なので、自転車によって多少変わってくることを御理解ください。
@速度2m/s(7.2km/h)以下の低速度域では、倒立振子(とうりつしんし;逆立ちした振り子)としての特性が支配的になっています。つまり放っておくとバタンと倒れます。capsize(転倒)モードと呼ばれる運動モードです。モードとは・・・動き方、とでも言いましょうか。説明が難しい(笑)。特性方程式の根は正の実根です。このとき、静安定は負、つまり不安定です。その特性は√g/hによって決まります。ここでhは重心位置、gは重力加速度。重心が高いほど、ゆっくり倒れます。
このときは、ライダーが上半身を傾けて重心をずらし、倒れないようにしないといけません。重心が高い方が動きがゆっくりなので、ライダーの重心を動かすのもゆっくりでいいので楽です。リカンベントが低速でふらつくのは、重心が低く、しかも背中をシートにあずけているので重心を動かしにくいから、と理解できます。
A2m/s(7.2km/h)程度から上の速度域では、特性方程式の根は複素根となり、振動的なweave(蛇行)モードが現れます。6m/s(21km/h)程度までの低速では不安定です。この速度域ではステアリングを一生懸命動かして、倒れないようにがんばりますよね。このweaveモードと戦ってるわけです。
B6m/s(21km/h)から上の速度では、weaveモードは安定となります。外乱が入ると蛇行しますが、じきに収まってまっすぐ走ります。手放しでも走れる速度です。この速度はジオメトリと質量分布に関係しています。
Cさらに速度が増し、10.4m/s(37km/h)を超えると、capsizeモードの1つの実根が正となり、不安定になります。ただし不安定の度合いはとても低い、つまりゆっくりと方向が変わっていく動きをします。この動きはゆっくりなので、ライダーの操作によって簡単に安定化できます。
以上のように、自転車の運動は、速度によって4通りの安定性をもってるんです。普通の自転車でも安定なのは、21〜37km/hの間だけ。それ以外の速度では不安定なんですね。高速では、リカンベントも普通の自転車も不安定。私も今回資料を調べてみて、初めてはっきりとわかりました。なるほど!
今度、普通の自転車にも乗ってみて、挙動を観察してみようと思います。リカンベントについても、できればこの微分方程式をつくってみて、その根を調べてみたいですね。
今回は、ほとんどの方には何が何だかわからなかったと思います。高校のときに少し習った微分方程式やら複素数とか、なんの役に立つのかわけのわからなかった数学が、こんなふうに道具、ツールとして使われていることを知っていただければ十分でございます。私も大学で習って感動したものです。こんなことなら高校のときにもっとまじめにやっときゃ良かった、と。
自転車の動力学についてはまだ勉強中なので、上の内容も間違ってるところもあるかもしれません。もう少し勉強して理解が進んだら、また書きます。というか、書きたい。(笑)
2005.9.7 ちょっと追記・訂正

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