LEDライトについて、「明るさと眩しさは違う。L2Dは自動車ライトより眩しい」とコメントを名無しさんからいただいた。
http://air.ap.teacup.com/spirit/286.html#comment
明るさと眩しさは違う、か。ふむ、言われてみればそうだと思って、少し調べてみた。
まずは、明るさと眩しさの定義を探す。
http://www-sens.sys.es.osaka-u.ac.jp/users/kanaya/brightness-ja.html
・「明るさ」には人間の感覚特性に依存しない物理量(エネルギ量)と,人間の感覚特性に依存する測光量(心理量)があることに注意.
・光束 Luminous flux [lm]
ある点(または閉領域)から単位時間あたりに湧き出す個々のフォトンのエネルギを,人間の分光感度を考慮して加重和をとったもの.実際の定義は,ある光源の平均光度(下記参照)掛ける放射立体角.プロジェクタの「出力」を表す.
・光度 Luminous intensity [cd] = [lm/sr]
振動数540[THz]で放射強度1/683[W/sr]の光を1[cd]の光度を持つと定義する.灯台の明かりの「強さ」を示す.
・光発散度 Luminous exitance, 照度 Illuminance [lx] = [lm/u]
単位面積あたりに放射(光発散度)または入射(照度)する光束.ラジオシティないし放射照度に人間の分光感度を畳み込んだもの.拡散反射面の「明るさ」を示す.
・輝度 Luminance [cd/u] = [lm/usr]
単位面積あたりの光度.ある発光面の光度を発光面の面積で割ったもの.放射輝度に人間の分光感度を畳み込んだもの.光源の「眩しさ」を表す.
単位のsrってのは見たことがなかった。これも調べる。
http://oshiete.homes.jp/qa2895928.html?ans_count_asc=1
・sr:立体角の単位、ステララジアン
立体角は頂点から半径rの球でカットした場合のその立体(四面体など)が切り取る球の表面の部分の面積をSとすると立体角ωは
ω=S/r^2
半径rの球の中心から見た球の全表面の立体角はS=4πr^2だから、
ω=S/r^2=4π[ステララジアン]
ふむ。なるほど。「明るさ」とは拡散反射面、つまり照らしている面の明るさで、「眩しさ」は光源の輝度である、と。小さな光源から強い光が出ていれば、眩しい、と。確かに明るさと眩しさは別物だ。これは納得。
では次に、L2D CEは自動車のライトより眩しいか?
L2D CE、またはCree 7090LEDの輝度データ([cd/u]または[lm/usr])が見つからないので、一般的な自動車前照灯の輝度とのデータ比較はまでやってない。(ここの部分2007.5.12追記)
「眩しさ」については、青白いLED光源の光はハロゲンよりも眩しいとよくいわれているようで、これについても少し調べてみた。
Cree XLamp 7090 XR-Eの色温度は、Cree社のサイトにデータシートがあった。
http://www.cree.com/products/pdf/XLamp7090XR-E.pdf
(Creeのデータシート)
LED単体では、相関色温度2600Kから10,000Kと公表されている。素子のランクによって違いが大きいようだ。
相関色温度(CCT)の定義は、Lumiledsのパンフレットに記載があった。
http://www.lumileds.com/pdfs/PG01_JA.pdf
ライトに搭載された状態での色温度については、FENIX L2D CEのものはなかったが、有名なイルミナムさんのブログにP1D CEの色温度解析結果があった。謹んでリンクさせていただきます。
http://www.illuminum-led.com/item/p1dce/p1dce_lth_m_cct.jpg
ただし、数値については校正できていないので絶対値としては不正確、とのイルミナムさんのコメントがある。
この解析によると、L2D CEとほぼ同等のP1D CEの色温度は、
中央部:5300−5700K
周辺部:4000−5000K
程度であるようだ。
では、その他の光源の色温度は?
http://www.sp.koito.co.jp/autosply/3-3.html
小糸HIDホワイトビーム、色温度5000K、4300K。
昼間の太陽光がおよそ5500K。
・・・L2D CEとそんなに変わらないんじゃないか? 相関色温度の定義、意味合いがまだよくわからないのだが、その違いなのか?
一方で、青白いLED光源は、眩しさによる不快の度合いが高いことを示した論文が多数出ている。この不快の度合いは「不快グレア」という指標になっている。
http://www.trc-net.co.jp/cd-475-1.html
予想通り、照度が上がれば不快感は増加することが確認された。また、ランプの種類が異なることによっても不快感の評価の差が現れることも確認された。不快感が低い順に、ハロゲン、HID、LED-4000K、LED-4800K、LED-6600Kとなった。年齢に関しては統計的な有意性は見られなかった。
不快グレア (de Boer 評価指数)
ハロゲン 5.3
HID 4.7
LED-4000 4.2
LED-4800 3.7
LED-6600 3.3
次に青色の光は白い光よりもより不快感を与えるという説を確認すべく、解析を行った。各灯体より得られるスペクトルに、青色の分光感度(光受容細胞S錐体の視野角2度における分光感度)で重みがけをして積分し、青色成分として規格化されたエネルギー値を導入。それらの値と各不快グレア評価値の間には線形関係(分散値0.99)が確認された。
過去の研究でハロゲンやHIDに対して相対的に青味のあるLEDH/Lは不快グレアを増加させると理解されていた。今回、各灯体スペクトルを青色感度スペクトルで重みがけして得た数値より、不快グレアはその光に含まれる青色の量に関係があることも示唆された。
http://www.oitda.or.jp/main/data/oledlight.files/oledlight061130.pdf
http://www.jari.jp/pdf/jido/JARI380.pdf
色温度が高いLED光源ほど眩しい。
http://www.env.arch.t.u-tokyo.ac.jp/hirate/Doctor050707hmy.pdf
博士論文のプレゼンPPT。
青い程グレア感が高くなることを図で説明。わかりやすい。
http://www.jsdc.or.jp/search/pdf/all/h11_3.pdf
高齢者のグレア感度変化
http://www.umich.edu/~industry/PDF/2003-39-Abs-jp.pdf
(1)測定したLEDを使用した場合、HIDと比較する不快とグレアが増加するものと思われる。ハロゲンと比較した場合ではグレアは更に増加するものと思われる。これらの問題を最小限にする為には、可能な限り色温度を低く保つことである。しかし配光特性と不快グレアとの関係は完全には解明できていない。今後この問題に関してより踏み込んだ研究が必要となる。
(2)試験を行ったLEDヘッドランプの演色性に関しては許容できる範囲である。
(3)LEDヘッドランプの配光特性は色付き再帰反射材の輝度に関して大きな影響は及ぼさない。
http://nashop.elint.co.jp/pdf/LightingKnowHow1.pdf
照明器具発光部の輝度(L)が高い程グレアは増加します。
背景輝度(Lb)が高い程、グレアは軽減されます。
見掛り上の大きさが照明器具として現実に存在する大きさの範囲内であれば、大きい程グレアは増加します。
照明器具が観測点と注視点を結ぶライン(視線)から離れている程、グレアは軽減されます。これは観測者と照明器具の位置関係から求めます。
以上の論文にあるように、青白いLED光源の光は定性的に眩しくて不快だということが明らかになってきている。しかし、その程度を示す「不快グレア」という定量的な指標は存在するものの、「この値以上は禁止」といった具合に確定できるようなものではないようだ。
ここまで調べて考えた上で、先ほど室内で照明を落とし、L2D CEの眩しさを初めて自分で体験してみた。その結果は、やっぱりそれほど気にするようなことじゃないと思う。私には、クルマのライトより眩しいとは思えない。
最後のPDF資料に、「照明器具が観測点と注視点を結ぶライン(視線)から離れている程、グレアは軽減されます。これは観測者と照明器具の位置関係から求めます。」とある。つまり、光源を注視せず、光源から離れたところへ視線を向ければ不快グレアは低減する。眩しくなくなる。当たり前である。
L2D CEの光源を注視すれば、そりゃあ眩しいけれど、光源から少し視線を外すだけで、至近距離でも十分に耐えられる程度の眩しさだと思う。
ちなみに、私はL2D CEを使うとき、光の中央の明るい部分は地面を照らすようにして、対向する歩行者や自転車の顔を照らさないように気をつけている。
L2D CEは、少なくともハイビームのクルマのライトよりは眩しくない。もし注視するなら、ロービームのクルマのライトの方が眩しい、と思う。
照明工学は、今まであまり馴染みの無い技術分野だったので、中々面白かった。礼をいいます>名無しさん。また、ご意見があったらコメントお願いします。L2Dが自動車ライトより眩しいと思われる理由なども、お聞かせいただければ幸いです。

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