10年前に買ったパソコンが壊れたので、車で30分ほど行った駅前の量販店に行ってみた。
調子が悪くって・・と告げると、機種を聞かれる。
「Macですか・・ここでは扱っていないもんで・・・」
という返事。
以前ここからさらに車で1時間ほど行ったところにあったこの店の系列のMac専門店で買ったことを言うと、
「あー、じゃ、そこにいたものが一人おりますので、ちょっとお待ちいただけますか?」
と奥に呼びにいく。
出てきた男性の顔を見て声が出る。
「あっ!うちのMac、あなたから買いました!」
10年も前のことをあれこれ憶えていたから、気持ち悪がられたかもしれないが。
(そういったどうでもいいことを俺はなんだかよく憶えている。)
あれこれ話をして、修理出来る店舗に持っていくことになった。
10年前、売り場のにーちゃんだったオカモトさんは、店長になっていた。
少し前、夜。
車にはねられ動けなくなった若い鹿とかかわりを持つことになった。
行ってみると、血のにおいをかぎつけて、二匹の野犬がすでにちょっかいを出し始めていた。
軽トラを止め、まずはそいつらを追い払う。でかい晩飯を前にそいつらもなかなか引き下がらない。
そりゃそうだ、と思いながら威嚇する。いいからあっち行ってろ。
暗闇だから車のライトをたよりに様子を見る。
やっぱり動けないようだ。流血もかなりある。
このままここに置いておけば、また戻ってくる野犬の餌になる。
少し考えていったん農場に運ぶことにした。
とはいえ、こんなものどうやって動かす?
近づくとおびえて、逃げようとする。
体がきかないから、妙な体勢になって藪に絡まる。よけいややこしい。
時間をかけて後ろから近づいて、血液や体液に注意しながら抱き上げる。
抱き上げる、ったって成体に近い鹿だもの、重い重い。
持ち上げたりあきらめたり。
持ち上げたりあきらめたり。
何回かやっていると、ふっと鹿が何もしなくなる。
体をあずける感じ。
持ち上げられないほど大型の野生動物に胸をあわせて抱え上げる。
独特のにおいと手触りと。一瞬のコミュニケーション。
この先は、書くことが何もない、残念な結果になってしまった(まあ最初からそうなんだけれど)。
ある夜、作業着を血だらけにしながら、死んでいく鹿と、一人でかかわっていた。
多分、10年前なら、避けて素通りしたんだろうなぁ。
俺は、あいかわらずぱっとしない農場暮らしで、何年やったって、何も変わらないけれど、10年前よりは、少し生き物のことについて冷静に考え、わかるようになったように思う。
この10年。
あっという間でもあったけれど、充分に長い時間でもあったような気がする。