農場を始めた今から30年以上前、このあたりにはまだ野良犬がうろうろしていた。
多分、街場から来て捨てていくにはちょうどいい場所だったんだろう。
だから、鶏がやられた最初のケモノは野良犬だった。
以来、番犬をずっと飼っている。
さすがにその後野良犬はいなくなったけど、イノシシやキツネ、カラスやネズミ、シカやクマ、イタチやタヌキ、農場にやって来るケモノから鶏を守ってくれる。
もちろん、ただつないでいただけじゃ仕事はしてくれないから、何が大事で、何を守らなきゃなんなくて、相手はどういう生き物で、自分たちは何が出来て何が出来なくて、じゃどうすれはいいかを、いっしょに考えて憶えていく。
草を刈ったり虫をつぶしたりから始まって、イノシシ・クマを追い払うまで。
農業をやって暮らしていくのは、殺ったり殺られたり、全部命のやり取りだ。
自分たちに都合の良いようにするのだから、考えて考えて考えて、森やケモノたちと折り合いをつけて、永くやっていける方法を見つけなきゃと思ってやっている。
昨日、夕方、仕事終りで田んぼの道を犬と散歩をしていると森の中から大きな爆音と共にオフロードバイクが2台飛び出してきた。
舗装道路に出た後、まるでお構いなしに空ぶかしして、勢いをつけて走り去っていった。
「なあ、その森じゃあな。
俺たちは相手をうやまい、自らをかえりみて、ギリギリのところで繊細なやりとりをしてるんだ。
邪魔しないでくれ。」
視野にさえ入ってなかったろうけどな。
傍らにいたおっさんと2匹の犬はそう思ったんだわ。
想像出来んだろうけどな。
(↓イノシシを追い払った後はこんな感じ)
