自分の事でこんな風に書くのはどうかと思うけど
誰かの名誉を守ることになるなら書いてもいいのかなと・・・
この頃、この南アルプスから八ヶ岳にかけて、いわゆる新規就農とかニューファーマーとか呼ばれる人たちが増えている。
行政側も家族で楽しそうに軽トラでくつろぐポスター作っちゃたりして、歓迎体制にある。
それでそんな人たちが増えている。
就農した人たちは人たちで、楽しい日常をネットで発信したり、生産物を地元の直売所で売るために楽しいイメージが添えてあったりする。
それはそうだろうし。
それでいいんだけど。
観光客やここに住んでいても農外の人たちに、そのイメージだけで農業の事をとらえられて、困惑する事がある。
何の仕事でもそうなんだけど。
仕事なんだからそんな牧歌的な楽しい毎日を過ごしている・・・わけがない。
農業なんてジャンルは、動物にしろ植物にしろ、いろんな形で「命」をやりとりしてお金にする仕事なんだと思う。
大根だって畑から引き抜けば死んでしまうわけだし、米は種子を炊いて殺して食べるっていう言い方も出来る。小麦粉は轢死した麦だし(有精)卵はいつも破裂死。
肉類は、そのままそのとおり。
その作物を作る土の中だって微生物が食った食われたをいつもやっているわけだし、出来た作物を狙うサルだのイノシシだのがいつもいる。
畜舎の中の家畜だって安泰じゃいられない。ネズミネコイタチタヌキキツネに狙われてる。
病原菌だって入ってくる。
だからね。それを作る方もただじゃすまない。
手はいつもカサカサ擦り傷切り傷は当たり前。虫刺されは大前提。家畜と共通の感染症だってある。
いつも血や糞やホコリや泥や汗腐敗臭や、あらゆる不快なものがまとわりついている。
自分自身大型のハチに刺されてアレルギーショック状態になって診療所で点滴打ってもらった事があるし、ネコには2回噛まれたし、ネズミに噛まれた一週間後に39℃の熱が出たときは自分でもヤバイと思った。7頭のイノシシ群が向かって来た時は特殊な精神状態になった。若い頃武道をやってなかったらパニクってたな。
でもみんな、微生物から植物から大型野生動物まで、生きているには道理がある。
その中で自分に都合のいい所をかすめ取るのが農業なんだってつくづく思う。
ふふふ。
農業の現場にいるとね、自然観やら死生観やら、意識しなくても、そりゃーまあ、鍛えられるったらない。
ねっ、牧歌的とはちょっと違うでしょ。
加えてそれを「生業」にするとなると。
近所の新規就農の野菜農家が何人か、うちの鶏糞を使っている。
どいつも夏の農繁期は痩せて日焼けして、黒いガイコツみたいになっている。
そりゃそうだ。このあたりの夏は短く、野菜栽培が出来る期間は短い。
その短い期間で野菜を作り、(例えば)一束数十円の手間賃を稼ぎ、それを積み重ね家族を養う。
そりゃ黒くもなるし骸骨にもなる。
それは何の仕事でも同じだろうし、いろいろ条件は勘案しなきゃなんだけど。
工業・商業、製品・サービスに比べて食糧である農産物の利幅は少ないからね。
(例えば)子供の給食費やら学費やらは、誰でも同じだからね。
だからそれを量で埋めなきゃなんない。
やっぱガイコツ・・・
自然を相手にしながら、一方で同時に家族に世間に務めがある。
聖でも俗でもあるように思う。
いよいよ秋になってくると、その黒ガイコツも姿を見せなくなる。
冬になる前の最後の追い込み、うちの農場の入口に置いてある鶏糞をいつの間にか取りに来て、いつの間にか持っていく。
ガッとやって来てバッと積んでバサッっと空袋を置いていく。あっという間だから姿が見えない。
頑張れよ黒ガイコツ1号2号3号。
まったく。なんて仕事なんだろう。
畑の土の微生物から、森のクマまで。
「命のやり取り」を生業にする事で、直接自分の身体をそれに関連付けてしまったおバカな人たちがいる。
野良仕事に追いまくられて寡黙になりがちだけど、南アルプスから八ヶ岳にかけて、そんな人たちがいる。
憶えといてください。自分の身体を自然にさらしてるうちに自然と自分の境目がわかんなくなっちゃうおバカな人たちがここらにいる。
