あちこちの平飼いの採卵養鶏場をまわってからうちに来たお客様が
「どこへ行っても犬がいるなぁ〜。」
と笑って言った。
アハハ、たしかにそうだね。
平飼いでにわとりを飼うっていうのはケージ飼いと違って作りも距離も自然と近い。
ケモノもいろいろやって来る。
キツネは鶏を直接狙って来るし、イタチはヒヨコをしつこく襲う。
タヌキはゴミあさり、イノシシは鶏舎のまわりのミミズを食べに来る。
いつだったかはミミズ狙いのイノシシが寄りかかって鶏小屋の金網を破って、その後キツネがその穴から入り込んで鶏を襲う、なんて絵本のお話みたいな出来事があった。
それじゃ困るんで犬を飼う。気配を発散して結界し、家畜を守ってくれる。ホントだよ。
ずいぶん前だけど、牧羊犬が飼いたくて羊を飼い始めた元サラリーマンがTVで紹介されていた。
まあテレビだから話半分だとしても、その気分はわかるわかる。
ボーダーコリーなんて種類の犬を飼うのが一時期流行ったけど、ボーダーコリーは牧羊犬で運動したがる犬だから毎日の散歩が大変ですぐに人気が下火になったっていう記憶がある。
運動の要求量が多いのはそりゃそういう犬だからね。
でも調教されたボーダーコリーが羊の群をコントロールする姿は本当に素晴らしい。
群の周りを右に左に走り回り、羊を移動させていく。
それを自分の生業にしたいと思う気分は、すごくわかる。
ずっと同じ畜舎で家畜を飼っているとどうしてもその畜種の病気が畜舎に居つく事になる。
新しい畜舎だと成績がいい、というのは畜産家の経験則。それはそういう事。
だから消毒をするのが大前提。
でも消毒をしないで鶏を飼いたい。それにはどうしたらいいか?なんて事を考えていて、「遊牧」を試みた事がある。
ビニールハウスのパイプで簡易式の鶏小屋を組み立ててその中で鶏を飼って、遊休農地になっていた桑畑を移動してまわれば、除草して耕して肥料も入れられる!
まあいろいろで上手くいかなかったんだけど、その実験の名残の鶏小屋をまだ使っている。
そんな事をやっていた時期に、愛媛のみかん畑でも鶏を飼う試みがあるという新聞記事あった。
みかんの木の下で小羽数ずつ鶏を飼い、遊牧民のパオのような組み立て式のテントに夜は鶏を入れ、昼間は外で放し飼い卵を産ませ農協の職員だかが農家をまわってそれを集めて契約先に出荷する、とか何とかって記事だったように憶えてる。
集荷とか餌とか販売とかが大変だったんだろうな、とは思う。
楽しい実験だったけどな。
遊牧の卵。
みかん畑で鶏が遊んでいて、それをそこの家の犬が守っている・・・
そんな卵あったら楽しいよね。
養鶏場に犬がいる。
ディズニー映画に出てくる農場とか、絵本の中の農場の納屋には必ず犬がいる。
農場のオジサンと仲良しでいつもいっしょにチームになって家畜を守り暮らしている。
実際の近代的な大きなケージ飼いやブロイラーの農場にはいないけど、誰もが持ってるイメージの中の農場には犬がいる。
人がいて、野生があって、その間に農場があって。
犬っていう生き物をパートナーとしてちゃんと尊敬して飼う事から農業は始まっているような気がする。
自然の摂理なんて言葉がまるで死語のようになってしまっている現代の畜産だけど、もっとも身近な犬を、身近に置いて、いつも命について考えるのが農夫なのではないのかな?と思う。
さて、とても長々と養鶏場について書いてきました。
よほど興味がある方以外は、つまらない話が多かったかもしれません。
でも、特に、業界の方や関係者の方には知っておいていただきたい事を書きました。
機会があればぜひどなたかに伝えてください。
白州はこれから紅葉。
一瞬の美しい季節が過ぎれば、またあの長い冬です。
みなさんどうぞ元気にお過ごしください。
(画像はご町内の作家 樋口明雄さんの本の表紙がボーダーコリーでしたので使わせていただきました。秋の夜長にいかがでしょう。・・樋口さん勝手にすみません。)
