何年か前、自分で作った「たまごブック」っていう本が渋谷の書店COOKCOOP(クックコープ)で売られてた。
パッケージの珍しさと、養鶏農家の自主制作って珍しさと、あと内容で(多分ね)、ポップまで作ってもらって、平積みで一押ししてもらった。
しばらくして、王様のブランチなんてテレビ番組の本のコーナーで紹介されることになって、お店の女性スタッフが涙ながらに紹介してくれたのがその中の「チビのはなし」。
群れの中で一羽だけ大きくなれないヒヨコがいて、他のヒヨコからつつかれ死にそうになっていたので、群れから離し、鶏小屋の外で自由にさせていた。
自分のペースで過ごし、大きくなり、一人で生きる事を学び、夜はケモノから守ってもらえるように番犬のそばで寝て。
やがて、他のヒヨコより半年遅れて、卵を産むようになった。
そんな本当にあった話。
そのチビがまだ生きている頃、神奈川の小売店さんから「チビのたまごを送って欲しい。」というリクエストがあった。そうとわかるようにして送った。
そのことについて、お店の店長が俺の主旨を読み取ってくれて、ブログの記事にしてくださった。
http://www.hrh.co.jp/article/13407991.html
うちは小さな平飼いの農場だから、飼っている羽数は少ない。
名前こそついていないけれど、一羽一羽が産んでくれるように飼い、一羽一羽が産むたまごを、一個一個箱詰めして、お店に送る。
お店の人が、それをくんでくれて、一個一個が一羽一羽のものだと伝えてくれる。
この前の日曜日、メールが来た。
「タナカです。わかります?・・・よね?」
本人の了解を得ていないから、仮名でテキトーに書くんだけど・・・
TOKYOのとある駅のそばにある、とある自然食品店さんで。
会社の帰りに時々買い物をしていた彼女が、ふと、いつもは買わないたまごでも買ってみようかとその店のたまごを見てみると、生産者の名前が知っている名前で。
「佐藤ジョージ」
まさか?と思って店主に聞いても確定出来なくて。家へ帰ってブログを見て。
それでメールをくれた。
タナカは中学の同級生。
高校大学は別だったけど、家が近所だったからときどき顔を見かけては話をした。
アメリカの農場にいる一年の間、手紙でやり取りをした。(文通ってやつね。)
別にどうってことない手紙だった(はずだ)けど、夢ばっか見てる馬鹿なヤローにとっては、はげましてくれるありがたい手紙だった。
その年頃の男なんて、ガキで精神的に不安定で、どうしょうもない代物なんだけど、今思えば、その手紙で助けられた。
帰ってきてから、お酒を飲みに行ったりした。
かぱかぱワインを飲む女の子で、俺より全然強かった。
中学の時から美人顔だったけど、大人になったら本当に美人になってた。
で。
それ以上のことは何もなくて(いやホントです。でなきゃ書かない。)、それぞれ社会に出て、疎遠になった。
「ずっと独身」て噂はずいぶん前に聞いたけど、まぁあの感じじゃずっとそうなんだろうな。
こんな偶然、テレビの脚本家が書いたら「安易過ぎる!」なんてプロデューサーに怒られそうなぐらいありえない偶然だな。
こんな広いTOKYOで、川の流れのようにたくさんのたまごが流通してるってのにサ。
よく出会えたよな。
だけど、ホントの話。うれしくって。
うちは小さな平飼いの農場だから、生産量は少ない。
ちゃんとしたたまごを生産できるように、ちゃんと鶏を飼って、ちゃんとしたたまごを産んでもらう。
例えば、タナカが元気に会社に行けるように、たまごを買ってくれるお客様が元気がでるようにね。
まるで名前がついたにわとりのたまごを売っているような小売店。
まるで古い大事な友達に届けるようなたまご。
きっとあります。どうか見つけ出してください。