夕方、パンを買いがてら卵を届けに行ったパン屋さんで立ち話。
「最近、猫がやたらにキャットフードを食べるんですよ。」
ここんちは猫っ飼いで、何匹もいる猫が餌をよく食べるんだって。
たしかにうちの犬もよく食べるし、俺自身食欲はある。
きっとそういう季節なんだね。
困った事に、農場のまわりの森の動物たちも「そういう季節」みたいで、鶏小屋にちょっかいを出しに来る。
サル、ネズミ、タヌキ、キツネ、アナグマ、イノシシ、イタチか何かそんなやつ。
みーんな腹ペコ。
それを犬といっしょに追い払って、何とか落ち着いて卵を産んでもらおうと、いろいろやってはいるんだけど。
この前、しつこくやって来たトンビにはてこずったな。
犬たちも、そいつが追い払うべき相手かどうかわからないらしくて、いまいち反応が悪い。
追いかけても飛んで逃げちゃうし、俺たち飛べないし。
しかも鶏たちは上から襲って来る自分より大きい鳥をひどく怖がってパニックになって圧死しそうになるぐらいおびえる。
(前に一度、このあたりをいつも訓練飛行ルートにしている米軍の輸送機の陰が農場を横切った時に、鶏が驚いて爆発的な大騒ぎになって大変だった。)
おかげで、日が短くなり、ただでさえ卵を産みにくいこの季節に、さらに難しい状況になっちゃった。
まったくなぁ・・・・
まあね、でもね。
そもそも、こんなところに鶏小屋を建てた方がいけないね。
こんな森のへり、ケモノ道が何本もついているような場所に、家畜を連れて鶏小屋を建て、農場にするなんて。
しかも、自然に近い飼い方で鶏を飼おう、って事だから開放的な作りで。
獲ったり獲られたりして暮らしている森の生き物たちにしてみれば、こんなご馳走がイイ匂いをさせているんだから、挑んでみたくなるわけだ。
犬を連れて家族で森に入り、木を切り、運び出し、丸太を立てて屋根をかけ、金網を張って、家畜を入れて。
森の動物たちはどう思って、どう見ていたんだろう?
「おいおい、何かヒトが来たぞ。」
「あ、知ってるあれ、連れてるの、犬ってヤツだよ。」
「何か建てるみたいじゃん。」
「ピヨピヨ言ってるのは何?」
「どれ、夜になったら見にいくじゃん。」
・・・・・・・
農業なんて極めて人工的な行為だ。
山を拓き、同じ場所に同じものをたくさん飼ったり作ったりして生業(なりわい)にする。
こんな森のへりで、やったりやられたりしながら農業をしていると、そんな風に強く思う。
せめて。
彼らに許される農業を俺はしているのだろうか?と自問しながら日々を過ごす。
やったりやられたりしながら。
もし。
小説を書いていいよという神様がいて、ペンと原稿用紙と文才を与えてくれるのなら。
書くことが許されるのは、きっと、この事だろうと思う。
この事についてなら、広くたくさんの人に、読んでもらって、いっしょに考えてもらえるだろう。
「お前、書いていいよ。」って神様に言ってもらえそうだ。
(森の中の崖から見た朝の八ヶ岳)
