農場から車で45分ほど行った諏訪湖畔にすわっこランドという名の市民プールがある。
隣のゴミ処理施設から出る熱を利用する温水プールで、それ自体はよくある市民プールなのだけれど、場所柄温泉が併設されていて、ロッカーなんかの使い勝手も何となくいいもんだから、ときどき子供と泳ぎに行く。
そこに行く途中にパン屋さんがあった。
ご近所の方に「おいしいパン屋さんだよ。」って教えてもらっていたから、わくわくしながら行ってみる。
あれこれトレイに乗せてレジで紙袋にいれてもらう。いい匂い。
それから急いですわっこランドまで走らせ、広い駐車場の端っこに停める。
車の後ろのドアを開け、そこに腰掛け、ガサゴソ紙袋を開ける。
どれからいく?これ?いいよ。せ〜の、バクッ!
ふ〜ん、おいしいじゃん。ハード系のパンのサンドイッチ、クロワッサン、黒くて焦げっぽくて丸いヤツ。うんうん、おいしい。へ〜、ちょっと変わった味だけど、これ好きだなぁ。
行儀悪くボロボロさせながら、子供といっしょに子供みたいにパンをかじった。
それから、時々そのクセのあるパンを買いに寄った。
ご主人と話しもさせていただき、タマゴを使って下さるイタリアンレストランをご紹介いただいたりもした。
そのイタリアンのシェフがいつものようにタマゴを仕入れに農場にやって来た。
「 T さん、お店止めちゃうんですよね。」「ええ〜〜?!何でまた?手狭になって移転とかじゃないんですか?」
「なんかねー、止めちゃうらしいんですよ。さんざん引き留めたんですけどねー。」
いつ行っても流行ってる店だったから、まったくビックリ。親しいそのシェフにもどうにもはっきり理由がわからないらしい。
「なんでかなー?」
ふむ。でも、何となくわからなくもない気がする。
あそこまでトンがった味の、食べる人の好き嫌いがはっきり分かれてしまうラインぎりぎりのところまで個性を出すパン職人だもの。
パンを焼くことが彼にとって「表現方法」だったとしたら、一時的にパンを焼くことを止めることはあり得る。
結局、手みやげにタマゴを持ってご挨拶に行けたのは閉店当日だった。閉店を惜しむお客さんで店内はごった返していた。
ちょうどその留守中。農場にお客様が来ていた。
お電話をいただいて女房があわてて鶏小屋へ行くと、お越しいただいていたのは長年タマゴを納めさせていただいている横浜・山手のパン屋 フーケさんのお友達だった。
少し前に電話で「今度、八ヶ岳で新しくパン屋を開く友人がいるんですよ。」とおっしゃっていた。
タイミング悪く俺は留守にしていたけれど、鶏小屋を見ていただいてたまごを買っていただいた。
後日あらためて開店準備中のお店に伺う、今度はサンプル用のタマゴを持って。
お話しをして、ちょっと焼いてみたという食パンをいただいた。
うん、おいしい。これはストレートど真ん中。毎朝食べる(ような)パンだな。
どっしりしてて、俺のような肉体労働派でもお昼まで腹持ちするパンだ。うん。
パン屋さんのパン。
ただのパン。だけど職人さんが材料を選び、場所を選び、夢や感情を込めてねり、焼き上げる。
それはやっぱりひとつの表現だと思う。
ガジッと噛みついてグイッと噛みしめて味わってみる。
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1/25(日曜日) 新しいパン屋さんがオープンします。
「ベーカー クラスティー」 北杜市小淵沢町
中央道小淵沢インターからスーパーやまと前の道を花パーク・フィオーレ小淵沢方面に進む。フィオーレ小淵沢入口で左折、高速道路をくぐったらすぐ左折。高速道路測道に沿って進むと右手に新しいパン屋さんがあります。
佐藤ファームのおいしい平飼いたまごを使ったパンをお楽しみに!