鶏小屋の裏がちょっとした空き地になっていて、山から切り出してきたカラ松の丸太の切れっ端がころがしてある。
そこは農場開放日「ひよこにさわろう」のときに火を焚いてお昼ご飯を食べたり、何でもないときでもたまに丸太に腰掛けてお昼のおにぎりを食べたりする場所になっている。
8月、夏休み。親戚の小学校6年生が「自由研究」で農場にやって来た。
ひととおり農作業の手伝いをさせられて、最終日。農場でバーベキューをすることにした。
川で泳いで、買い物をして、火を焚いて、石とレンガを組んで金網乗せて。ジュ〜。
うちの犬もそばに連れてきていっしょにいっただきまーす!
腹ペコ6年生坊主にたらふく食べさせて、花火やってだんだん暗くなってきた。
空も晴れてて「人工衛星見つけよう。」
なんてやってたら犬が吠え出す。
何だろ、さっきから何かいるんだよね。キツネかサルかと思って、ロケット花火やっといたから、いなくなったと思ってたけど。
懐中電灯で照らすと・・・犬がいる。
首輪をつけたビーグル犬だ。しゃがんで「おいで。」と呼ぶと近づいてくる。お腹を見せて服従のポーズ。
大騒ぎなのはうちの犬と小学生たち。いいからちょっと落ち着けヨ!
どうやらどこからか尾白川に遊びに来た観光客が河原で放して迷ってしまったんだな。
人の気配とバーベキューの匂いで近寄って来たわけだ。
さてそれからが大変。
「ビーグル犬だから、ビーちゃんにしよう!」こらこら何勝手に名前つけてんの!
「どうしちゃったんだろう?」だからきっと河原で遊ばせてて・・・
「どうしようどうしよう!!」だからまずバケツでもなんでもいいから水飲ませてあげて・・
犬大好き6年坊主はうれしくてうれしくてパニック状態。
とにかく。迷い犬もうちの犬も犬みたいになちゃってる小学生も落ち着かせて、今夜はうちの犬と農場につないでおくことにする。
「これからどうするの?どうするの?どうするの?どうするの?」
だからぁ!まず明日飼い主を捜すよ。今夜はどうしょうもないでしょ。
「どうするの?」の中には、飼い主が見つかるのかな?とか、見つからなかったらどうなるんだろ?とか、保健所に連れてかれるのかな?とか、そしたら・・とかとかとか、のメッセージがいっぱいつまってる。
心配すんな。首輪をうちのリード(つないでおくクサリ)につないだからには、責任持つってことだから、心配すんな。
翌朝。あっさり解決した。
市役所に電話をかけ「迷い犬がうちに・・」と言いかけると「ビーグルでしょ!」と係りの人が声をかぶせる。捜索願が出ていたそうだ。
「あ〜よかった。役所の人がすぐに引き取りに来るって。」「いまのうちにビーグル犬てどんな犬か研究しちゃおう!」
引き取りに来るまでの間、ビーちゃん触りまくられ、耳の中までしっかり観察されてしまったのでした。
さらに翌日。
小学坊主も帰り、いつもに戻り、夕方犬の散歩で河原に向かって歩いていると、いつも甲斐犬を連れてたまごを買いに来てくださるお客様 Y さんの車とすれちがった。
手を振るとわざわざ車を止めて降りてくる。にこにこしてる。
「昨日、ビーグル犬捕まえたでしょ!」
ビーちゃんの飼い主は Y さんのご友人で、うちのたまごを持っていっていただいたこともあるそうな。
「アッハッハ!そうなんですかぁ〜!」
ビーちゃんの本当の名前は「メリーちゃん」でした。
何日かして。
農場に寄ってくださった長いつき合いの獣医さん(
http://www15.ocn.ne.jp/~qclinic/index.html)にこの話をすると楽しそうに聞いてくれた。
そしてこんな話をしてくれた。
「家族で犬を飼っていると、その犬は自分は人間だと思っている。
今は犬だけれど、いつか自分も人間になれると思っている。
子供がいるとその子はじぶんの兄妹だと思っている。
ある日その兄妹が5年生か6年生になると急に人間になる。
よーし次はわたし。いつか人間になる、と思っているけれどなかなかならない。
そのうち年をとってきて、人間にならなかったけど、まっ、いいかって死んでいく。
私はそう思うよ。」
俺もうちの家族も犬が大好きだ。