エサ屋さんが農場に入ってくる。眉間にシワを寄せて。
「来月からまた(値)上がります。」
エサ代が高騰している。4月からまた上がる。これで以前の倍になることになる。
世界のあちこちで作付けされている農作物の価格が、以前の倍というのは、作柄の善し悪しでは理解出来ない。何か他の要素・力がかかっているのだろう。
トウモロコシのエタノール利用は環境コスト的に如何な物かと今更政治家が言い出した。
小さな農家はいつまで持つのだろう?うちは大丈夫か?途上国の子供達の給食は大丈夫なのか?
ご近所のフリーライター渡辺穣さんが農場に入ってくる。取材だ。軽トラの荷台に腰掛けて話をする。
「俺の行ってた小学校の校庭が広かったんだよなぁ。で、途中でけずられてオリンピックの選手村になっちゃってさぁ。ガンガン建物建ててたんだよな。」
俺と同い年、札幌で小学校時代を過ごされた渡辺さんはそんな経験をお持ちだ。
「へ〜そうなんだー。俺は名古屋のねぇ・・・・」
通っていた中学校は山を切り開いた大きな造成地の真ん中にあった。造成されてはいたけれどまだ道など未整備でその真ん中にポツンと学校だけが先に出来上がっていた。
ちょっと強い雨が降るとぬかるみ通勤の先生の車が動けなくなっていた。見通しは抜群で朝遠くからダッシュしてくる友人をながめながらヤツが始業のチャイムに間に合うかどうかの掛けをした。
風が吹けば砂あらしになったそのあたりは、やがて一面外来植物セイタカアワダチソウの大群生地になった。花粉の季節は鼻がムズムズした。
それからせ〜ので家がガンガン建った。道が舗装されバスが走り、新しいお店がどんどん出来た。
僕らの世代が「未来」に対して漠然とした期待感とか明るさを感じるのはそんな未来が形になっていく風景を見たからなのだと思う。
物がいっぱいになっていき、便利になり、清潔になっていくのが社会を明るくしていった。
それから何十年かたった。その間はそれが豊かさであったことは間違いのないことだ。けれどこのところちょっとほころびが目立つ。
そんな遠い所で何ヶ月も前に作ったギョーザを凍らせて運んでくることは、安くて便利だけど、そのこと自体は豊かなことではないって感づいていたはずさ。
そんな狭いカゴに入れられて集約的に飼われたにわとりのたまごは、安く作れるけれど、そのこと自体は豊かなことではないって感づいているはずさ。
たまごを買いに来てくださったご近所 S さんが農場に入ってくる。いっしょに来た学校帰りの I 君「ヒヨコは?ヒヨコ!あそこ?うわ〜でかくなったなぁ。」 さわってみるかい?
スーパーの帰りにわざわざたまごだけ買いに寄ってくださる S さんご夫婦。 せっかくですから産みたてを持っていってくださいな。
学校帰りにやって来た小学生 H ちゃん K 君「何かしたい〜。」 お手伝い?ひまつぶし?宿題やったのかよ。
「うちの子、学校でいじめられて・・。春休み、犬の散歩させてくれる?立ち直ってみせるわ!」と近所のお母さん。 この犬でよければ、どうぞどうぞ。
「昼飯、食いそびれちゃって。ちょっと裏の丸太積み上げてあるところで食べていい?」 いいさいいさ。弁当きっとおいしいよ。
「このにわとり食おうぜ!」 たまご産んでないやつねー。
「鶏糞売ってー。」 はいはい。
「保育園で使うからたまごのカラだけちょうだい。」 カラだけ〜?
「保育園で飼うからヒヨコ売って。」 特別ですよ。
「産婦人科ですが、入院食に平飼いたまご使おうと思って・・」 へぇ〜、お問い合わせありがとうございます。
そんなに安易に答えなんかあるわけない。だけどみんないっしょけんめい、未来を次の豊かさを探してるんだと思う。
ここに鶏小屋があって、ヒヨコがいて、にわとりがいて、犬がいて、世話をしているオヤジがいる。
さて、それで何ができるのかな?
また渡辺穣さんが農場に入ってくる。
「どしたの?」「いや、今日はおしゃべりをしようと思って。」
そうだね。何を話そうか?地元の小学校のこと?学童保育?地域医療?地方行政?
軽トラの荷台に腰掛けて、少し未来の話をしようよ。
僕らの未来がやって来る。
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今回の取材はセブン—イレブン・ジャパンとヤフーが3月18日に立ち上げる新サイト「4B」のためのものです。農場のことが紹介されます。
気鋭のフリーランスライター渡辺穣さんの仕事ぶりをお楽しみに。
まずは渡辺穣さんのHPを
http://www.w-magic.jp/joe/