養鶏場のヒヨコはヒナ屋さんからやって来ます。
ヒナ屋さんは養鶏場から注文を受けると、赤玉鶏とか白玉鶏、ブロイラーや名古屋コーチンとかのブランド鶏などなど、注文にあった種卵(しゅらん)を孵卵器に入れます。
加温・加湿・転卵(ときどきたまごのむきを変える)し、孵化をさせます。
約3週間後に孵化したヒヨコを採卵養鶏場には雌雄選別しメスだけを選び、自社の育すう場にまわします。各農場から指定された期間(60日とか90日とか100日とか)そこで育て、専用カゴで納品します。
(通常はそんな感じです。うちでは孵化したすぐ後に持ってきてもらい、自分のところで育てています。そうそうそれが農場開放日「ひよこにさわろう」のヒヨコです。)
最終的な生産農場で使うにわとりのことを業界用語で「コマーシャル鶏」と呼びます。
ヒナ屋さん(種鶏場)は常々コマーシャル鶏になる種卵を産む「原種」のにわとりを飼っています。
ヒナ屋さんはこの原種になるたまごやヒヨコを品種開発業者(ブリーダー)に発注します。
ブリーダーは原種になる「原々種」やその元の「原々々種」を飼っていて、交配させて、より産卵率がいい、肥育率がいい品種を開発し、固定し、品種登録します。(理科の教科書に出てきたメンデルの法則ってやつです)
今から思えば何て馬鹿な思いつきだったんだろう。
今から20年ちかく前のこと。当時近所で交流があった養鶏農家何軒かでここ山梨の土地にあったにわとりの品種改良を試してみようとしたことがあった。
それで、何枚も何枚も書類を書き、県庁を通じて国に提出し、農水省の研究所で飼っている「原々種」あたりの鶏を払い下げてもらうことになった。
その鶏を受け取りに、トラックの荷台にカゴを乗せ中央道、首都高、東北道と乗り継いで福島の白河市にあった農水省の種畜牧場まで、行くことになった。
その農水省白河種畜牧場は、広い森の中にあった。
いくつかの消毒漕にトラックごとつかり中に入っていく。
入っていくと、松の林に囲まれた農場の中に、ポツンポツンとしっかり間隔をおいて、古いけれど管理されている研究用の鶏舎が建っている。
種鶏場の飼い方はある意味、平飼い養鶏の雛形になっている。
交配させて有精卵を穫るための飼育方法は同じである。
さらに消毒して中に入っていく。
小さく間仕切られた部屋に数十羽のメスと数羽のオスがいる。コンクリートの床にスノコが置いてあり。モミガラが敷いてある。さすがに待遇がいいな。
ふかふかのところかスノコの上にいつもいるから、爪が長く伸びている。
ふ〜ん、なるほどねぇ・・・ここをこうするんだ。はぁ、こんな道具があるぞ。へぇ・・・
で、いろいろとお話しをうかがって、5羽の原種のにわとり「パーメンタロード」を乗せ、また夜の高速道路を一人トラックを駆って帰ってきた。
今現在、うちの農場で使っている品種はボリスブラウンという外国産の品種です。
日本で使われている品種のほとんどが外国産の品種です。一部国産のものもありますが、やはり性能で劣るところがあり普及していません。
さらに原種レベルになるとほとんどが輸入になります。
こと農業のこととなると、からきし弱いのがこの国の特徴でして、その後この白河の牧場も他の研究所と統合され閉鎖されました。
国レベルでこうですから、県単位だともっとお寒い。八ヶ岳南麓にあった山梨県の農協連合の家畜の研究農場も売却され現在は宗教団体の研修施設が建っています。(陽当たりの良い、いい農場だったんだけどなぁ・・)
家畜の品種開発(ブリーディング)は大きなビジネスになっています。アメリカなど農業の先進国では国家をあげて国際ビジネスとして戦略的に研究・開発にあたっています。
一つの企業の研究開発費が日本の国の開発予算より大きいという話を農業実習でアメリカにいるときにどこかの講演で聞きました。
お肉の話になりますが、体細胞によるクローン牛生産が技術として確立してきて、その技術による肉が流通することが現実味をおびてきました。
高価な技術なので、原種に使われることになるのでしょう。
クローン技術を食肉に応用する理屈はそのビジネスの規模の大きさが背景になっているように思えます。
消費する側(この国)は必然性はあまり感じませんが、供給する側にはそれで大きな利益が発生するようです。
このクローン技術。研究している科学者に聞いてみたい。これって食肉に使うような技術なのかな?って。
車のハイブリッド技術で世界をリードしているけれど、家畜のハイブリッド(交配による品種改良もこう呼びます)は放棄してしまっている、というのが現状ですね。
だからなのか、クローン技術のこともとても遠い話になってしまっているように感じますが、とても「劇的」な技術だからいつも注意を払っていたいなと思います。
食べる物の話ですしね。
それにしても。
たった5羽のにわとりで何が出来るつもりでいたんだろうか?まったく何考えてんだか・・・
そんな計画はすぐに頓挫してしまいました。若いっていうのか・・・
馬鹿だよなぁ・・・
(画像は1983年カリフォルニア州ハリス農場 本文とは関係ありません。)