今日まで歩いた旅人
今日まで歩いた旅人は 後ろに出来た一本道
掘り下げて見れば 良いも悪いもあるけれど
どっちに転んだとしても それが自分なのだからと
旅人は昨日を見渡せる丘の上に立っていた
今日まで歩いた旅人は 夕日を背にした長い影
そのうち夜が一本足でやって来て あたりを暗闇に変えてしまう
そして夜は旅人の形を あっという間に飲み込んでしまった
夜はいつだって旅人を不安にさせたまま眠っていた
どれだけ遠くまで歩けたとしても
それだけじゃはかれない こともあるのさ
どれだけ涙を流したとしても
それだけじゃ何も始まらないのさ
今日まで歩いた旅人は 小さな町の小さな喫茶店
もう長い間弾かれていないピアノが JAZZを歌ってる
きざまれた表情のしわが その歴史を物語る
旅人が飲んでるコーヒーは 明日を歩くためのもの
('99 12月)

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