用事があって東京に来た。
調布市にある、神代植物園を訪ねる。
調布に生まれ、小学校に上がるまでの幼年期を僕はこの街で過ごした。
そして、祖母と母に何度も連れて来てもらったのが、この植物園であった。
当時は植物に興味などなく、味わうこともなかった。
ただ、確かに見ていたはずの記憶の断片を、植物を通して辿ることは出来ないだろうか、という思いもあった。
園内の景観はあの頃とだいぶ変わってしまっていたのかもしれない。
残念ながら、「植物を通して」という再会はなかった。
しかし、一つの道にさしかかった時、「これは確かに」という思いが湧き起こった。
北原白秋の「この道」という歌を思い出す。誰もが感じる想いを鮮やかに切り取った歌だと改めて思う。
そして、発見が二つ。
一つめは、ここが素晴らしい植物園だということ。
あれほど感動した新宿御苑も色褪せて感じられてしまうほど。色々な顔を持ち、実に充実した植物園だと思う。
大阪の長居植物園(こちらも僕は大好きだ)と同じく、園の人達の大きな愛情を感じる。
二つめ。
自分がバラに魅力を感じることになるとは、思っても見なかった。
何につけ、この手のゴージャスな美しさというものは、嫌味を感じることはあっても親しみを感じることは皆無だった。
しかし今、こいつにはやはり圧倒的なものがあると感じる。
一番好き、という訳ではないが、少なくとも豪華さと華やかさという意味では、バラとカサブランカは園芸植物の王者だと思わずにいられない。
バラはまた、見た目もさることながら、その香りが素晴らしい。あれだけは嫌味のかけらも感じない。
この日はバラフェスティバルが行われており、園内のバラ園ではライトアップされたバラが20時まで楽しめるというラッキーな日だった。
うーん、来てよかった。


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