旅から帰る。日常が始まる。何度も繰り返して来た事だ。
しかし、今回僕を待ち受けていたことは、実に非日常的な事態であった。
端的に言おう。僕は「楽器職人お手伝い」の仕事を失った。
詳細には触れないが、諸事情により、Y先生が僕を雇いきれなくなってしまった。
お金の工面ができないまま共倒れしても仕方がない。それならば、改めて、それぞれ再出発することにしましょうということになった。
僕は再び、清掃の仕事に戻った。こうして働かせてもらえる場があるということは実にありがたい。
しかし、やはり、さすがにショックであった。
Y先生は自分のロウソクの火を僕のロウソクに分けてくれた。これからどんな事が起こるのだろうと胸をふくらませながら過ごした時間であった。その火をこのブログにも灯し、一つでも多くのロウソクに火が灯って行く事を夢見ていたのであった。
その火があっけなく消えてしまった。
興味と期待を寄せて下さった方々には申し訳ない。そして、残念であるが、『「楽器職人お手伝い」奮闘記』は終了します。
「才能とか、器用さとか、そういう事ではないんです。僕はあなたに熱を感じる。そういう人と仕事をしたいんです。」
Y先生にいただいたこの言葉、僕は誇りに思っている。先生、貴重な体験でした。ありがとうございました。
新しい出発。
今回のことは失敗と呼ぶべきものではないと思う。しかし、今まで失敗をするたび、仕切り直しをするたびに、野口晴哉の「失敗」という文章に励まされてきた。
「・・・・
もう一度立て
而して失敗を生かせ
汝が最もよく知るものは失敗せることなり これによらずして立つ勿れ
地に転げるものは 地によりて起きる努力をせよ
・・・・
失敗 豈(あに)恐るべき 失敗なき成功ありや
もしあらば 真の成功にあらず」
電車の窓から、一本の樹の姿が目に飛び込む。
新鮮。生き生きとした姿。
この目を感じる時、自分の中に新しい力がすでに生まれている事を僕は知っている。

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