先日、シンガーソングライターの寺田町さん(「てらだまち」と読みます。)が泊まりに来た。もうかれこれ18年近くもお付き合いさせて頂いている大先輩で(僕よりひとまわり上のねずみ年、顔は僕より少し若い)、東京を拠点に日本全国津々浦々をギターかついで唄行脚なさっているツワモノだ。数年前から大阪でライブがある時は、僕の都合がつく限り、我が家にご宿泊ということになっている。
つまり、この「劣等生の実践」が始動するはるか昔から、あの、今となっては思い出したくもない劣悪なる部屋に(内心はともかく)嫌な顔ひとつせずご宿泊なさって来られた、そういう意味でもツワモノである。
このツワモノ氏は、僕の記事を読んで下さっていたようで、あろうことかご自身の公認ファンサイト(
http://www12.plala.or.jp/teradamachifan/ 中の3月15日のブログ)上でご丁寧に紹介して下さっていたのである。「サルが自分の部屋をそうじする」というだけのこんなシミッタレた記事が人様のサイトから全世界に紹介されてしまった。うれしはずかしというよりも、何だか申し訳ないくらいである。
さて、その暗黒時代を共に闘った寺田町さんが、この企画が始まって以来はじめて我が家にやって来たのである。玄関をくぐったときから、ツワモノ氏は驚きを隠せなかったようだが、ハイライトは我が愛すべきユニットバスであった。
「やっぱりキレイなトイレと風呂は感動するなあ!」
今まで、ごめんなさい。
達人三上ゆうへいは始めの頃こそ、我が部屋の変貌ぶりに素直に驚き、前にも登場した腰掛けベンチにもなる棚に座り、「僕はこの部屋に来た時には、かならずここに座るんだ」とよく分からない感動の仕方をしていたが、最近あまり進展のない風景にすっかり慣れっこになって何も言わなくなっていた。
そこへ登場した寺田町さんであり、その口から「感動」のひとことが飛び出したのである。
ついに、この部屋は、人様と感動を分かち合える部屋となったのである。
明るく広いこの部屋で、僕たちは祝杯をあげ、楽しく酒盛りとなったのである。
さてそろそろ寝ましょうかとなったとき、僕はまえにこのブログにも登場した秘密兵器、百均ショップのミニブラシを指差し、「こいつでサッサとやってるんですよ、ワッハッハ」と自慢げに話したのだ。すると、ツワモノ氏の顔に一瞬、影がさした。お前もまだまだ青いな、というように、氏は静かに語りだした。
「サルよ、お前の涙ぐましい努力は素晴らしい。お前の虎の巻、いやバイブルの威力も認めよう。しかしだ、現実的に、よおく考えて見るのだ。あの何ちゃらプログラムは決して万能ではないぞ。
お前がトイレだ風呂だとその日のメニューをこつこつとこなし、いくつものプログラムを消化しているその間、メニューに出てこないその他すべてのエリアでは時間が止まっているとでも思っているのか。
この地球上のすべての空間には平等に時間が流れておる。そして時間がたった分だけホコリというやつがたまるのじゃ。これはサルのお前には難しいかもしれないが、人間ならば小学一年生でも知っている、この星の宿命なのだ。
部屋のすみずみ、棚の上など手の届きやすいところはまだいい。本棚や押入れ、その他ありとあらゆる物のすき間にもホコリはたまる。お前の自慢の『百均ショップで買った小さいが頼りになるミニブラシ』、めんどくさいから『百均太郎』とでも呼んでしまおう、その『百均太郎』にこうした繊細な仕事を任せられるのか。」
図星であった。一体、どうしたらいいのだろう。
「肩を落とすことはない。サルよ、そんなお前にひとつ知恵を授けよう。最近私が見つけたスーパーアイテムを手に入れるのじゃ。このアイテムは柄の先にフワフワとした柔らかな毛がついておる。わずか1センチのすき間にも入っていけるのじゃ。
かの大英帝国の紳士達のなによりの娯楽はハンティングと相場が決まっておる。地中に細長い巣をつくって暮らすウサギやアナグマなどの生き物を彼らがどうやって捕獲するか知っておるか。人間に不可能はないと信じる西洋人達は改良に改良をかさね、ついに細長い巣穴をものともしない、胴長短足の犬を作り出した。人間界ではこの犬はダックスフントと呼ばれて非常に有名だ。
もう分かっただろう。私のおすすめするスーパーアイテムはまさに、おそうじ界のダックスフントなのじゃ。
さあサルよ、明日にでもスーパーのそうじ道具売り場へ行き、『これをおくれ』と店員にこの紙を見せるのじゃ。
健闘を祈るぞ。それじゃおやすみ。」
その紙にはただひと言「ウェーブ」という商品名が書かれていた。

0