イルカ殺しの隠し撮り映画、
『ザ・コーヴ』の穏やかでない船出(COURRiER Japon)
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質疑応答の時間になり、一人の男性が待ちかねたように立ち上がった。
「この映画に出ている者です。科学的な映画を作るという話だったから、私は取材を引き受けた。それなのに、事前に聞かされていたのとかなり内容が違う。これはどういうことなのか」
会場の空気がぴんと張り詰めた。質問をしたのは、研究者の男性。映画のなかでは、イルカの肉に含まれる水銀について監督からインタビューを受けている。
この研究者は、自分が出ているシーンをカットしてほしいと監督側と交渉中だという。だがもちろん、映画はすでに世界中で封切りされている。
・・中略・・
──とはいえ、映画ではイルカの魅力的な映像が多く使われ、観客にも心情的に訴えかけようとしているように感じた。
どうしても私に言わせたいようだね(笑)。ええ、認めましょう。私は動物保護に関心がある。たとえイルカに水銀汚染の問題がなかったとしても、私はイルカを(殺害から)守ろうとするだろう。そして、日本人を水銀から守りたいと思う。
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騙されて出演した俺のシーンを映画からカットしろって・・映画「靖国(の鍛冶師)」と同じ流れじゃん(笑)。この研究者のヒト、記者会見にまで押し掛けて質問してるくらいだから、相当ご立腹なんだろうけど、取材を受ける前にちょっと相手のコトを調べてみるくらいのことは出来なかったのかな・・。
まあ、「イルカに含まれる水銀の危険性を警鐘し、この事実を広く世の中に訴えたいのです!」とか言われれば、危機感のある科学者さんほど、コロっといっちゃいそうだし、現実問題として仕事の依頼がある度に、時間と手間をかけてアプローチしてきた団体の素性や背景、意図を突き止めてから、仕事を了承するとかやってられないとは思うけど・・。
イルカ漁告発映画『The Cove』と『わんぱくフリッパー』(Newsweek:町山智浩 やじうまUSAウォッチ)
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映画の製作はOPS(海洋資源保護協会)というクジラやイルカの保護団体。監督のルイ・シホヨスはOPSの会長だ。つまりこれは公然たるプロパガンダ映画である。
・・『コーヴ』ではまた、イルカやクジラ保護の根拠として「彼らは人間並みの知能を持つ」というお決まりの説も語られる。実はイルカ=人間並み説は、1962 年にアメリカの脳科学者ジョン・C・リリーが発表した「仮説」にすぎず、未だ科学的に実証されてはいない。そもそも動物の脳の大きさは知能の高さとは関係がないのだ。
・・オバリーの部隊はついにイルカ漁の現場撮影に成功する。血で真っ赤に染まった入り江を銛で刺されて断末魔の叫びをあげてのたうちまわるイルカ。オバリーは液晶テレビを胸に抱えて、入り江のビデオを上映しながら、IWCの会場に乱入し、渋谷の交差点に立ち続ける。彼の執念は、白鯨を倒すことに取り付かれたエイハブ船長を思わせる。あ、逆か。
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・悔い改めてイルカ保護活動にうちこむ元イルカ調教師
・近づくことすら許されないイルカ漁の現場に決死の潜入
・追い込み漁で捕殺されるイルカの血で真っ赤に染まる入り江
・世界各地の水族館へ輸出されるメスのバンドウイルカ
・イルカ肉は水銀含有量が高く人体に危険
・かわいいイルカの魅力的な映像が満載
なんというか、観客を引き付ける筋立て、必要な要素をきちんと押さえて、観客の感情への訴求効果が最大になるようにきっちり計算されて作られてる“広報”映画だね。感心するわ。
改めて言うまでもないけど、もし太地町のイルカ漁について議論するなら、(捕鯨問題と同様)主題となるのは
「太地町で捕殺されているイルカの数は、対象種の持続可能(絶滅の心配がない)範囲に納まっているのか、またそれを裏付ける生息数などの科学的データがあるか」の一点のみであって、それ以外はすべてオマケの話に過ぎない。
例えば「イルカ漁は大地町の長年の伝統、文化」とかは、あくまで議論のサブストーリーであって、もし対象のイルカが絶滅危機なら伝統だろうが何だろうが即時捕殺を止めるべきだし、資源が豊富で持続可能な捕獲が可能なら、その街に伝統があろうがなかろうがイルカ漁をしても別に問題はない。
外国人が好きそうな「人道的な捕殺方法なのか」にしても(もちろん可能なら改善に努めるのは結構なコトだし、やらないよりはやったほうがいいのは間違いないんだろうけど)人間が食用として他の種の命を断つという前提に立つ以上、いくら短時間で苦しめないで殺す方法を編み出したとしても、自己のために他の命を奪うという本質的な意味は変わらない訳で、「捕殺方法」自体はイルカ漁をやる、やらないを決める理由、判断材料にはならない。
「人道的捕殺」とかは家畜とかでも問題にされるけど、所詮は勝手な自己満足というか、他の生命を奪うことの罪悪感をごまかし「おれ達は酷い事はやっていない」と無理に安心して
食材贖罪されたいという・・ごまかしというか若干インチキな思想が透けて見えるので、素直に諸手をあげて「人道的捕殺賛成」!と言うのはちょっと違和感があるかな。
・・って話がそれた。
ということなんで、
もし「イルカがかわいそう、残酷だ」とか「食べ物に困ってない日本人がイルカを食べる必要はない」等の理由でイルカ漁の是非を語っちゃう人がいるなら、それは単なる個人の感想、感情であって全く議論に値しないし、そんな感情論で無為に時間を浪費するくらいなら、水族館にイルカショーを見に行くなりして、もっと時間を有意義に使うことを私としてはお勧めする(笑)
このイルカ殺し映画、今のところ日本での上映が微妙で東京国際映画祭でスポット上映のみらしいんだけど、暇があったら見に行ってもいいかなとも思うので、是非全国上映を。
もし、靖国の時みたいに裏から配給会社や映画館に圧力をかけて上映阻止に動いている輩がいるなら、恥を知れ!と言いたい。確かに“けしからん”映画には違いないけど、だからといって不当に介入して作品を非上映に追い込んでいいという理由にはならない。それとこれは話が別。
「メディアリテラシーが皆無で、往々にして“非合理な空気”で動く国では、こんな映画は危険だ」という危惧は分からなくもないけど、日本は内容によっては言論が弾圧される懐が狭くてケチくさい国だということの方ががっかりだ。もっと、観客の良識を信頼した方がいいと思うぞ。
もっとも、まかり間違って観客の多くが感化されて「イルカかわいそう」とこぞって言い出しちゃったり、映画をきっかけに大地町に抗議に行く輩まで出たとしても、それはそれで今の実情が分かって面白いけどね。
・・盗撮映像が世に出てしまった以上、この際、この映画へのカウンタープロパガンダとして、ディスカバリーチャンネルの「大人の職業体験:Dirty Jobs」のマイク・ローにオファーして、イルカの追い込み漁をやらせてみてはどうかな?(笑)
番組の趣旨とも合いそうだし、漁師とのやりとりの中でさりげなく日本側の主張も語らせればいい。もちろん血まみれのマイクが「ぎゃ〜かわいいイルカちゃんが〜」とか言ってる画は好きに撮影させてあげるのと引き換えで。映画に文句を言う前に、当局にはこのくらいのユーモアかつしたたかな対応を望む。

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